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病気の人に診断書を求め、欠席者に仕事を強要するPTAクラス役員決めを、校長先生はどう思っているのか

大塚玲子ライター
たとえ法的な責任がなくても、人として「どうにかしたい」とは思われないでしょうか(ペイレスイメージズ/アフロ)

 「心不全で入院して、PTAと子ども会の役員決めを休んだら、『心不全だと説明してくれ』と言われた」

 「病気の方が、子ども会に提出するための診断書をよくもらいにくる」(医療従事者)

 立て続けに、こんな悲しいツイートを見かけてしまいました。もちろん一番悪いのは、そんな強制をしてしまう保護者たちです。そこまでやれと校長先生が指示しているわけではありません。おそらく大半の校長先生は、あきれ顔でこの状況を見ていると思います。

 でも、敢えて書きます。このような状況は、校長先生にも責任があるはずです。校長先生もPTAの役員です。(保護者が考えるべきことは昨日の記事にも書きましたので、あわせてご覧ください)

 とくに、学校の名簿をPTAや子ども会に提供している場合、あるいはPTAが学校の名簿を使うことを黙認している場合、校長の責任は重いと思います。学校には保護者の個人情報を適切に管理する責任があるはずです。

 保護者たちが「PTAをできない・やらない理由」を言わなければいけなくなるのは、PTAが「義務」と誤解されているからです。もしPTAが「任意で加入&活動するもの」と正しく認識されていれば、そんな理由を言う必要は生じません。

 そしてその「義務」という誤解は、「全員自動加入」から生じてきたところが大です。

 保護者に「PTAに入るか、否か」を聞くことなく、全員を自動加入にすること(会費を強制徴収すること)が可能なのは、学校がもつ保護者の個人情報が、PTAで使われているからです。そのせいでPTAをできない人、やりたくない人が、その理由や証拠提出まで求められてしまうのです。

 「それはそういうものでしょ」と思う方もいるかもしれませんが、ここで「おやじの会」ならどうか、考えてみましょう。「おやじの会」に入らない人は、理由を言いません。「おやじの会」は自動強制加入ではなく、入りたい人が入るものであり、誰も「義務」だとは思っていないからです。

 ではなぜ「おやじの会」は自動強制加入ではないかというと、学校の名簿は「おやじの会」に提供されませんし、学校は「おやじの会」が学校名簿を利用すること(それにより会費を自動徴収すること)を黙認しないからでしょう。

 もし保護者の個人情報が適切に管理されていれば、PTAはいまほど「義務」と認識されることもなく、毎年クラス役員決めで泣く人が出るほどの状況にはならなかったと思うのです。

 ただし、個人情報さえ適切に管理すればいい、というわけでもありません。あわせて「PTAへの加入意思の確認」も行わなければ、保護者間における「PTA=義務」という意識は変わらないままでしょう。

 最近は「加入意思は確認していないが、PTAに学校の名簿を提供することへの同意書だけはとり始めた。だから問題ない」とする学校も増えています。

 しかし、もしクラス役員決めの場で「できない理由」が開示されるような状況であれば、それはつまり「PTA=義務」と保護者に認識されているということ。誤解を解くにはやはり、加入意思の確認が必要でしょう。入会届と同じ用紙で個人情報を提出してもらえば、かんたんです。

*たとえ法的な責任がないとしても

 最後に繰り返しますが、いまPTAがこんな状況になっているのは、校長先生の指示によるわけではありません。保護者がやっていることです。

 しかし保護者は思いのほか忖度しています。PTAを「義務」として全保護者にまっとうさせれば校長先生も喜ぶ、くらいに思っているかもしれません。

 もしかしたら役員会などのとき、校長先生が「一部の方に負担が偏らないよう、みなさんでちょっとずつ分担してくださいね」などと役員さんにおっしゃってはいないでしょうか。* それで「一人残らずやらせねば」と思っている人もいるかもしれません。

 あるいは、こういう可能性も考えられます。保護者は、子どもの将来を左右する立場にある学校、その長を、悪く思いたくはありません。そのため、地域や学校からの要請が多く、負担に苦しむ役員さんは、怒りの矛先を学校ではなく、ほかの保護者に向けてしまう。それで「やっていない人に、やらせねば」と思うのかもしれません。

 どうか校長先生は、「そんなことは望んでいない、PTAはやりたい人がやるものだ」ということを、伝えていただけないでしょうか。一言で、いいのです。

 泣き出す母親が出るような状況は、異常です。たとえ法的な責任がないとしても、人として「どうにかしたい」と思われはしないでしょうか。それに、校長先生もPTAの一員です。

  • なかには会長・副会長さんが10年近くかわらず、校長先生をはじめ周囲がやりにくくて困っていることもあります。そういう場合、校長から「長くやり過ぎです」とは言いづらいので、婉曲表現として「一部の方に負担が偏らないように」とおっしゃる場合もあるかもしれません。そういうときは保護者のほうで規約を改正し、会長の在任期間の上限をもうけたほうがいいでしょう。ただし、通しでなければ、同じ人が何度か役をやるのは妨げないほうがよいと筆者は考えます。
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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