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このままでいい? 毎年悲報が届く「PTAクラス役員決め」を変えるために

大塚玲子ライター
言いたくないことは言わなくていいのです(ペイレスイメージズ/アフロ)

 小・中学校では、そろそろ「PTAクラス役員(委員)決め」の時期です。1年生の保護者は入学式のあと、在校生は4月の最初の保護者会のときにクラス役員を決め、その後で各クラスから出た委員が集まり「委員長(部長)決め」をする、という流れが多いと思います。

 PTAが嫌われる最大の原因は、このクラス役員(&委員長)決めでしょう。おそろしいイメージが広まっているからです。筆者もつい先日、道でバッタリ会った友人から「くじ引きで当たって泣き出すお母さんが出た(去年の春)」という話を聞き「やっぱりコワい」と思いました。

 筆者自身はありがたいことに、過去一度もそういう状況に居合わせていないのですが、しかし取材をしているとそれなりの頻度で聞く話なので、レアケースとはいえません。

 毎年悲話が繰り返されるのは、仕組みの問題です。そもそも、いまも多くのPTAが採用する「委員会」の制度は、やりたい人がやる前提ではありません。「1クラスから必ず何人出す」というルールなので、やりたい人がいないときはやりたくない人がやる前提なのです。

 この問題を根本から解決するには、委員会制度(必ず何人、という部分)から手を入れる必要がありますが、数日で解決するのは難しいでしょうから、ひとまずは現行のやり方のなかで、わたしたちにできることを考えてみました。

 以下、今年度のクラス役員&委員長決めにのぞむ方への、4つのご提案です。

1「やる」ときには交渉を

2「やる」という人を止めない

3 やりたくなければ「やらない」

4 やらないときは「理由を言わない」

*1「やる」ときには交渉を

 これは特に「委員長決め」のときにおすすめしたい方法ですが、なかなか誰も手を挙げないときは、「条件を交渉して引き受ける」というのも手です。とくに「PTAのいまのやり方を変えたい」と思っている方にはいいと思います。

 というのは、誰もやりたがらない状況で手を挙げると、交渉がしやすくなる可能性があるからです。引き受ける時点で「こう変えてもいいなら、やります」と言っておけば、引き受けたあとでそれを言うより、話が有利に進みます(必ずとはいえませんが)。

 筆者がこれまで取材したPTA会長さんたちのなかにも、「やってください」と頼まれたときに「こんなふうに変えてもいいなら、やります」と条件を提示して引き受け、それまでの問題を改善した人は何人かいました。

 なおこのやり方は、ほかに「やります」という人がいる場合には使えません。筆者も以前「こう変えてよければ、委員長をやります」と手を挙げましたが、これまで通りのやり方を続けたい別の方が「では、わたしが」と手を挙げ、そこで試合は終了しました。

*2「やる」という人を止めない

 冒頭で「くじ引きであたって泣き出したお母さんがいた」という話を書きましたが、じつはこのとき、筆者の友人は「やってもいいです」と手を挙げていたそうなのです。ところが「あなたは以前やっているからやらなくていい、まだやっていない人にやらせねばならん」ということで、くじ引きが行われてしまいました。

 PTAではなぜか「全員に必ずやらせること」「やっていない人を一人残らず潰すこと」が最大任務のように認識されがちです。結果、くじにあたってしまったのは、その春に遠くから転校してきたばかりの孤独な母親でした。

 やっていない人にやらせて、何かいいことがあるのでしょうか。ないはずです。

 友人は「わたしも積極的にやりたいわけではなかったけれど、本当にイヤだったら手は挙げなかった。わたしにやらせていれば、あんなことにはならなかったのに……」と嘆いていましたが、まったくその通りです。

*3 やりたくなければ「やらない」

 これは先日の記事でも書きましたが、「やりたくなければ、やらないこと」も、とてもだいじです。やりたくないのにやるから「ほかのやらない人、許すまじ」と思うのであり、せっかく「やってもいい」という人が出てきても、「本当はやりたくないはず」と決めつけ、なぜかくじ引きをしてしまうのです。

 難しいかもしれませんが、もしやりたくなければ、どんなに空気が悪くなっても断固、引き受けないことです。当日は欠席するというのも選択肢の一つでしょう。もし後から電話がかかってきても、やりたくないなら断りましょう。

 なお、PTAの役員さんや先生がたにはよく気を付けていただきたいのですが、昨年の5月から改正個人情報保護法が施行され、PTAも個人情報保護法の対象となりました。ですからもはや、保護者本人の同意がない限り、PTAの用途で学校の名簿をつかうことは許されません。

 もし会員の保護者にPTAの用途で電話をかけるのであれば、PTAが入会届を配布して保護者の個人情報を集めるなど、適正に情報を取得しておく必要があります。それをせずに「役員をやってください」と、学校用の名簿をみて電話することは法律違反となるので、注意しましょう。

*4 やらないときは「理由を言わない」

 クラス役員をやらない場合に、「できない理由」を言うのもやめにしたいところです。PTAは本来、入りたい人が入り、活動したい人が活動するものですから、やらない理由など言う必要はありません。“おやじの会”に入らない理由をわざわざ連絡しないのと同じです。

 役員決めの場では、やれ病気だ離婚だ別居だと、個人や家庭の事情を打ち明けるのが当たり前とされがちですが、よくない慣習です。それは個人情報のなかでも最も取り扱いに注意が必要とされる「要配慮個人情報」であり、PTAのような団体が扱うべきものではありません。

 なお、筆者は8年前、小学校に入って初めてのクラス役員決めのとき、みんな順繰りに理由を言うなか、「すみません」と深々と頭を下げてスルーしました。言おうと思えばなんとでも言えましたが、納得がいかず、言いたくなかったのです。ほかの人にどう思われたかは知りませんが、それで問題は起きませんでした。

 ひとり理由を言えば、ほかの人も言わざるを得なくなります。なるべく自分が言わないことで、「理由を言わない」を常識にしていけたら、と願います。

 以上、2018年度のクラス役員決めに向けて、頭に置いていただきたいことでした。「もし委員が決まらなかったらどうするの?」と心配かもしれませんが、自分から手を挙げた人たちで、やれることをやるしかありません。ボランティアとはそういうものです。もしそれで何か問題が起きるとしたら、原因は別のところにあります。

 なお、「やはり委員会制から見直す(必ず何人、というのをやめる)必要があるのでは」と思われる方は、ぜひPTAに提案してもらえたらと思います。4月か5月に行われるPTA総会の場で発言してもいいですし、あるいは会長や本部役員、校長・教頭先生に伝えるのもいいでしょう。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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