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老いた親の懐事情を上手に聞く方法 親の支払える額が”介護の予算”

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 介護という行為は子が行うことが多いせいか、「介護費用も子が負担しなきゃ」と思い込んでいる人は少なくありません。しかし、介護を行う目的は、親の自立を応援すること。かかる費用に、本人のお金をあてるのは当然だと言えるでしょう。罪悪感を抱く必要はありません(いつか、あなたに介護が必要になったら、あなたのお金で!)。

 言い換えれば、親の支払える額が“介護の予算”。おおよその額を知り、いざというときには親に代わって使えるように準備しておきたいものです。

「財産狙っているのか」と親は怒る

家族とはいえ、懐事情は聞きづらい」という声が聞こえてきます。下手に聞こうものならタカシさん、サナエさんのように地雷を踏んでしまうので注意してください。

タカシさん(50代)のケース:

 両親(80代)は実家で2人暮らし。タカシさんは大学進学以来、親とは同居していないため、「親のお財布事情は、まったくわからない」と言います。筆者の著作を読み、「聞かなければ!」と一大決心。帰省した折に、「いくら持っているのか教えておいてほしい」と切り出したそうです。

「みるみる父親の顔はゆがみ、『お前は、財産を狙っているんだな』と怒鳴られました。そのあとは、食卓が凍り付いてしまって……」と話します。

サナエさん(40代)のケース:

 両親(父80代,母70代)は実家で2人暮らしです。筆者の出稿したyahooニュースの記事「避けたい 親の介護で家計ひっ迫―」を読み、スグに母親の携帯に電話。「イザというときに備えていくら蓄えがあるのか教えて。ついでに暗証番号も」と言ったそうです。

「電話の向こうで、明らかに母が不快な顔になっているのがわかりました。『しまった』と思いましたが……。なんとも嫌な雰囲気で、電話を切られてしまいました」とサナエさん。

地雷を踏まない聞きだし方

 親の怒りを買わないように、親の懐事情を聞くにはどうすればいいのでしょう。3つの方法を紹介します。

1, ダイレクトに聞く

2, 他人の事例を出しながら聞き出す

3, ひと工夫しながらアプローチ

 1はダイレクトに。しかし、2人のように怒りを買う可能性があるので、焦らず、時間をかけて。できれば電話やメールではなく、顔を合わせたときに話しましょう。

「お父さん、お母さんのことを心配しているから聞くんだよ」という気持ちを前面に出します。「いつか、もし倒れたりすれば、お父さん(お母さん)自身のために、良い形でお金を使いたいよね。なるべく希望をかなえてあげたい。そのとき、どのお金を使えばいい?」という風に。

 しかし、これは常日頃から対話があってこそ使える方法。ずっと話していないと、どうしても唐突感から誤解を生む可能性があります。

 2は他人の事例を出しながら話す方法。テレビやネット記事で見た事例でもいいですが、効果があるのは小中学校時代の同級生の話。親はその子の顔も、その親の顔も覚えており、イメージしやすく“自分ごと”になりやすいようです。

「〇〇ちゃんところのおばちゃんが倒れて入院したんだよ。〇〇ちゃんは、入院費用をおばちゃんの口座から出そうとしたけど、出せなくて困っていた。寝たきりになりそうで、退院後は施設を検討しているらしいけれど、おばちゃんの年金や貯金がどれくらいあるか分からず、途方に暮れていたよ」と話します。

 そして、「そんなこともあるんだね。もしも、そういうことが起きたらどうしようね」と話を展開します。

 3は、“ひと工夫”。一方的に聞くのはフェアじゃないので、まず、あなた自身が加入している民間保険の状況を確認します。例えば、入院したら1日5000円出る保険に入っているとしましょう。

「民間保険を見直したら、私は1日5000円出る保険に入ってたよ。お父さん(お母さん)は民間保険に入っている?」と尋ねます。一緒に保険証券を確認し、そこからじわじわとお金全般に話を展開します。

 “ひと工夫”には、確定申告をうまく利用する手も。そこそこの医療費がかかっている親に、「確定申告を手伝うよ」と言って、お金まわりをすべて見たという成功談を複数聞いています。

「お金の話」ができる親子関係を築く

 お金の話ができるのは、普段から親子の対話ができていてこそ。今後、お金のことだけでなく、終末期をどのように迎えたいかなど(延命治療の希望有無など)、デリケートな話題は増えていきます。

 そうしたことも話せる関係になっていると、気持ちはラクです。

 それでも、親が「お金の話はしたくない」と拒否したら、強引に聞き出すことは法に触れる可能性があるので注意してください。焦らず、話し合えるタイミングを計るか(病気やケガで入院したときなど)、「どこかわかるところに書いておいて」と言ってみるのも一案です。

 一方、親世代の方は自身の今後をシミュレーションしてみてください。子世代を悩ませないために、自分から開示するなどスムーズな方法を検討したいものです。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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