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避けたい「親の介護で家計ひっ迫」 介護と切り離せぬお金問題、必要な準備とは

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 突然自分の身に降りかかってくる親の介護。共通する不安の種のひとつは「お金」。けれども、日本には“奥ゆかしい”ことをよしとする文化が残っているせいか、たとえ家族間でも、「露骨に金銭のことは話しづらい」という声が少なくありません。そして、話し合いのないまま、なし崩し的に子が親の介護費用を支払う状況に陥ることがあります。

介護とお金は切り離せない

 “介護”といえば、親の食事やトイレ、お風呂などの世話をイメージする人が多いと思います。もちろん、それらは大切な介護ですが、家族だけで行うことは難しいと言えます。そこでたいていの人がサービスを利用することになります。“サービス”と言っても、すべてにお金がかかります。介護保険でのサービスを利用する場合でも、自己負担が発生。つまり、介護を担う子がサービスを上手に使って親の介護を“マネジメント”していくことも、直接的なお世話と同様、大切な“介護”だと言えるのです。

 親の介護に苦しむ子世代を取材すると、「長生きしてくれるのは嬉しいがお金が……」とか、「介護はお金だね」というため息まじりの声を聞くことが少なくありません。2人のケースを紹介します。

Aさんのケース: 1人暮らしの父親が転倒骨折で入院し、お金はあるのに引き出せない

 Aさん(50代、男性)の父親(82歳)は実家で1人暮らし。ある時、転倒して骨折。Aさんは病院に駆けつけました。

 入院手続きをしたところ、“入院保証金”が必要とのこと。「ベッドに横たわる父に、『5万円出せ』とは言いづらくて、立て替えました」。退院時に入院費用で相殺されるからと、その時は気にしていませんでした。

 しかし、父親はどんどん弱っていきました。リハビリ病院に転院する頃には、認知症のような症状が……。結局、Aさんが転院の手続きを行い、最初の病院の費用も、リハビリ病院の費用も支払う羽目に。

「妹からは『お兄ちゃんは長男なんだし』と押し付けられました」。入院費用だけではありません。半年間に10回以上往復することになりました。1回の交通費に、タクシー代も含めて4万円近くかかります。

 父親の下着やオムツを購入する費用、その他もろもろも重なるとバカになりません。

「実家を家探ししたところ、年金が振り込まれる通帳が出てきました。地元の信用金庫です。記帳してみたところ、そこそこのお金は入っているのですが……。まさかの、キャッシュカードは作っていなかったようで」

 信用金庫の窓口で事情を説明したところ、お金を引き出すには、父親の委任状が必要だと言われました。けれども、父親は自分の名前を書ける状況になく……。「最終的には、信用金庫の支店長が僕の携帯に電話をかけてきてくれて、それを父親に渡し、父が『はい、はい』と言ったことで、病院の費用を引き出すことができました」とAさん。

 負担が軽減したとはいえ、今後、自宅に戻るにしろ、施設に入るにしろ、支払いの問題がついてまわります。「先が見えないんですよ。1年とか、期限があるなら、僕が立て替えますが、もしかしたら、10年単位になるかもしれません。その間、僕が払い続けることになったら、こっちの家計が破綻します」

写真:アフロ

Bさんのケース: 弱っていた母親が、高齢者施設に入居して元気に、そしてお金が不足

 Bさん(60代、女性)の母親(92歳)は、9年前まで実家で1人暮らしをしていました。83歳の時病気で入院。「回復したものの、退院後1人暮らしさせるのは心配でした」。

 Bさんは弟とも相談し、父親の残したお金で母親を有料老人ホームに入れました。「母の年金だけではムリでしたが、母も83歳になっていたので、生きても85歳くらいまでかなと。まさか90歳超まで生きるとは想像しませんでした」とBさん。父親の残したお金と母親が受給している年金で、5年くらいなら大丈夫と見積もったのです。

 ところが、母親は入居してどんどん元気になりました。栄養士が管理している食事を食べ、リハビリやレクリエーションを楽しみ、広いお風呂を利用でき……。「実家は田舎だし、売るにも買い手はつきません。父の残したお金もなくなり、ホームの利用料の不足は弟と私が折半で払っています」とBさん。

 しかし、それも限界だとか。母親を、利用料の安い公的な特別養護老人ホーム(特養)に移したいと考えています。しかし、特養に申し込めるのは要介護3以上。元気になった母親は、現在、要介護2。「母親が弱るのを待っているようで、ひどい娘ですよね」とBさんはため息をつきました。

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イメージ写真写真:イメージマート

“親の介護費用は親のお金をあてる”が大前提

 AさんBさんの事例から、親の介護とお金の密接な関係を理解いただけたでしょうか。Aさんは50代、Bさんは60代ですが、30代くらいで親に介護が必要になるケースもあります。

 AさんもBさんも、望んだわけではないのに、倒れた親にかかる費用を負担しています。そして、それにより彼らの家計がひっ迫。彼らには彼らの生活があり、Bさんに至っては、すでに“高齢者”と言われる年代です。

 2人のようにならないためには、親が元気なうちから、「介護費用は本人のお金をあてる」「ムリしてまでは援助しない」と決意し、準備をしておくことが欠かせません。

知っておきたい親のお金事情

 介護は突然やってきます。AさんBさんの親がそうだったように、入院がきっかけとなるケースが非常に多い印象です。入院すれば、遠くない時期に“退院”が待ち受けています。その時、介護をどうするかについて無計画だと、AさんBさんのようになりかねません。親のお金事情を知っていてこそ、どれくらいサービスを使えるか、どんな施設を選べるかを考えることができるのです。

聞いておきたい親のお金事情

年金、その他収入(/月)

預貯金(どこの金融機関、キャッシュカードの有無)

民間医療保険・生命保険(保険証書の保管場所)

不動産

ローン、負債

 あなたは親の年金受給額を知っているでしょうか。生活費でカツカツという額なら、いずれ、預貯金を取り崩すことになるでしょう。有料老人ホームに入居となれば、預貯金から一時金などを支払うことになります。一時金の額は数十万円のところがある一方、数千万円というところも。月々の利用料は、地方でも15万円以上すると思います(介護費、食費込)。月額20万円、30万円というところもざらです。

 預貯金を取り崩す場合、気を付けるべきことは親の余命を見誤らないこと。Bさんの母親のように、その時弱っていても、高齢者施設に入居したところ、「元気になった」という声をしばしば聞きます。仮に1000万円あったとして、5年で使うのか、10年で使うのかでは、大きな開きがあることは誰しもわかることです。

 親は100歳まで生きると考えて計算しましょう。母親であれば、105歳と考えておくほうが安心です。「そんなに長くなると、経済的に立ち行かない」というのであれば、有料老人ホームへの入居は選択肢から外し、施設であれば“特養”一択に。特養であれば、一時金は不要で、月々の利用料も、所得に応じた額となります(介護費、食費込で月額5万円~15万円くらい)。要介護3くらいまでは在宅で、居宅サービスを使い倒します。ケアマネジャーには「費用はこの範囲内で。それに、僕(私)は仕事を辞めるわけにはいかないので、傍にいなくても不自由がないように介護プランを立ててください」と言いましょう。

「もっと、快適にしてあげたい」と思うかもしれませんが、仕方のないこともあります。仕事でも予算ありきのように、介護も予算ありき。予算のなかで、介護のプロの意見を聞きながら、パフォーマンスを上げます。

その時、誰がどう引き出す?

 親の預貯金がどの金融機関にどれくらいあるかわかっても、知っているだけでは、原則、本人以外は引き出すことができません。窓口に通帳と印鑑を持参しても、「委任状をお持ちですか」と問われます。子どもがダメなのはもちろん、倒れた者の配偶者であってもおろせません。なので、両親が揃っていても、名義が一方に偏っている場合は要注意です。

 では、みんなどうしているのでしょう。

 多くの人は、親のキャッシュカードで親のお金を出金しています(親がある程度の年齢になると、定期預金などを解約し普通預金に移してもらっている人も)。しかし、Aさんの父親のようにキャッシュカードを作っていない場合や、財布に入っていても、暗証番号がわからないケースも。本人に確認しても、判断力の低下などにより覚えていないこともあります。

 そうした事態に備えて、あらかじめ「代理人指定」できたり、2枚目のキャッシュカードである「代理人カード」を作成しておけたりする金融機関もあります。親本人が行う手続きなので、元気なうちに行動してもらう必要があります。

親に対しどう切り出すか

 親が元気なうちに、いざ倒れた時にどのお金をどのようにして引き出せばいいかを話し合っておく必要性はわかっても、容易ではありません。親子とはいえ、話しづらいテーマです。しかし、冒頭で説明した通り、“マネジメント”も介護です。仕事で何らかのハードルが生じた時には工夫するように、ここは知恵を絞りましょう。

 親とゆっくり話せる機会があれば(短時間では難しい)、本記事のAさんBさんの事例を説明してみてはどうでしょう(親が不快な気持ちにならないよう、話し方には注意を)。「こういうこともあるから、考えておかないとね」と言ってみてください。

 それでも、親が頑なに口を閉じたままなら、焦らず、急がず、「いま、教えてくれなくてもいいから、どこかに書いておいて」とお願いしてみましょう。できれば、キャッシュカードの暗証番号も書いておいてもらえれば、一定金額は引き出せるので助かります。

 間違っても、「キャッシュカードの暗証番号を教えろ」と怒鳴りつけたりはしないでください。子は親に対して、お金事情を聞いてもいいけれど、聞く権利はありません。あまり強引な態度に出れば、法に触れます(高齢者虐待)。

提供:イメージマート

親の経済状態が厳しいことが判明したら

 親と対話したところ、思った以上に親のお金事情が厳しいことがわかることもあります。でも、そういうケースでは、親は“住民税非課税”に該当している可能性があります。所得が低い場合、税の支払いが免除されており、医療費も介護費も、そして特養に入る費用も、軽減されるのです。

 子には子の人生があるので、ムリな援助はしないこと。自分自身の将来設計も考え、“できるところ”までに。そして、親の暮らす自治体の役所(高齢福祉課など)か、地域包括支援センターに行き、医療費や介護費を軽減する制度を教えてもらいましょう。子どもがいない高齢者は大勢いますが、それでも何とかなっているように、子が経済的な支援をしなくても、やっていけるようになっています。

 繰り返しますが、介護は突然やってきます。その時になり時間のない中では、適切な行動を取ることは困難を極めます。親が元気なうちに話し合い、備えておきたいものです。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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