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70代父親から「母さんが認知症」と同居催促 子の出した答えとは

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ画像(提供:イメージマート)

 子どもに迷惑をかけたくないと考える老親が増えています。「世話にはならない。介護が必要になったら施設に入る」と子に言っている人が少なくありません。しかし、いざ、その時がくると、親本人も迷いが生じるようです。子はどうサポートすればよいのでしょう。

排泄介護を子に望むのは2割未満

 もし本格的な介護が必要になったら誰に介護をしてもらいたいか……。ある程度の年齢になると、誰しも1度や2度は考えることがあると思います。親の介護を行いながら、「自分だったら……」と想像する人も多いようです。

 全国の65歳以上の人に「排泄などの介護が必要になったら誰に頼みたいか」を問うた調査(*1)があります。その結果は、「ヘルパーなど介護サービスの人」(46.8%)が最も高く、次いで、「配偶者」(30.6%)。「子」(12.9%)、「子の配偶者」(1.0%)と続きます。「特にない」は 4.3%。  

 性別でみると、男性は、女性よりも「配偶者」(男性 50.8%、女性 12.5%)が高くなっています。その分、女性は、男性よりも「ヘルパーなど介護サービスの人」(女性 58.0%、男性 34.3%)、「子」(女性 19.0%、男性6.1%)が高い結果です。

 ただし、この調査も健康状態の良い回答者が多いので、いざ、そのときになると考えは変わる可能性があります(女性の19%は「排泄介護を子に頼みたい」という結果……、少なくない数字と言えるかもしれません)。

 今回、紹介する大塚巧さん(仮名/70代)も、妻の認知症発症によりそれまでの言動と違う考えに至りました。

長男長女のつれない態度に愕然

 巧さんは妻と2人暮らしです。長男長女がいますが、どちらも結婚し、遠くで暮らしています。

 巧さんの妻は、巧さんより5歳年下。「僕に何かあったら、妻が世話をしてくれると思い込んでいました」と巧さんは本音をもらします。

 一度、長男から「家を建てる。もう実家の方に戻ることはないから、父さんたちも、こっちに越してこない?」と誘われたことがあったそうです。巧さん夫婦の部屋を用意すると言ってくれました。しかし、当時、巧さんも妻も元気でした。地域に友人もいて、それなりに充実した日々を過ごしていたので、長男の家に越すという発想はゼロだったといいます。「何かあっても自分たちのことは自分たちでするから、心配するな。引っ越す気持ちはないし、子の世話になるつもりもない」と即断りました。

 あれから、10年。巧さんの妻が認知症を発症。1人でふらっと出かけて戻ってこられず、交番から連絡がきたことも1度や2度ではありません。

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 ある日、巧さんは意を決し長男長女に言いました。

「どちらでもいいから、一緒に母さんのことを看てほしい。前に、同居の提案をしてくれたよな。母さんと2人でそっちに行ってもいいか?」

 しかし、1分ほどの沈黙の後、長男は首を振り、それを見た長女も「できない」とひと言。そして、長男は「『子どもの世話にはならない』と言っていたじゃないか」と呟くように言いました。巧さんは2人の態度に愕然としたと言います。すると、長男は言いました。

「来ないというから、父さんたちの部屋を用意していない。かなえ(妻)も在宅で仕事をしているから、同居はムリだ」

子どもには子どもの生活がある

 巧さんの長男も長女も、突然「同居を」と言われても、それは難しいでしょう。それぞれに家族があり、仕事があります。住宅購入や転居のタイミングでは、親の老後に思いを馳せ、同居・近居などの提案をすることがありますが、日常は慌ただしく多忙に過ぎていきます。一旦親から断られると、それは終わった話となっても仕方のないことです。

「僕の考えが甘かった。確かに、僕はずっと『子どもの世話にはならない』と言っていたんですよ。まさか、妻が認知症になるなど、考えもしなかった。あのとき、長男の家に行っておけば良かったのだろうか」と巧さんは話します。

 現在、巧さんは、妻を自宅近所の高齢者施設に入居させることを検討しています。長男長女も頻繁に連絡をくれ、施設見学にも一緒に行ってくれるそうです。

気遣う親と配慮する子

 なにをもって、“迷惑”と捉えるかは個人個人で異なると思います。

 ダスキンが別居の老親がいる子・別居の子がいる老親の双方の世代に対し意識調査(*2)を実施しています。

「子どもの負担になりたくないと思いますか?」の問いに、親世代の 97.8%が「子どもの負担にはなりたくない」と答えています。  

 そして、親世代の 8 割、子世代の 7 割がこれからの親の老後について「親子で真剣に話し合った経験がない」と回答。理由は、親は「子に迷惑をかけたくない」、子は「何をどう話していいかわからない」。

 調査報告では、親は子に気を遣い、子も親に配慮するという、お互いを気遣う気持ちが老後の話題を避ける理由となっていると分析しています。

 家族である以上、ある程度の負担のかけあいは仕方のないことだと思います。「迷惑をかけたくない」という考えが大きいと、しっかりとしたシミュレーションや話し合いが不足することにつながります。

「世話にならない」と断言するのではなく、「負担をかけることもあるかもしれないが、できるだけ頑張る」という気持ちでいるほうが、気持ちはラクだと思います。親世代、子世代、それぞれが「できること」「できないこと」を整理して考え、話し合い、サービスや施設を上手に活用しながら老いと向き合っていくことが大切なのではないでしょうか。

*1 「令和4年 高齢者の健康に関する調査結果」(内閣府)

*2 「『親のいま』に関する親子 2 世代の意識調査」(2022, ダスキンヘルスレント)(※自身の年齢が 60〜70 代以上で別居の子どもがいる男女 1,000 人 、自身の年齢が 20〜69 歳で 60 代以上の別居する親がいる男女 1,000 人に調査)

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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