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80代父親の退院が決まり、病室で長男長女が「喧嘩」を始めた理由

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ画像(提供:イメージマート)

 高齢の親が病気やけがをすると心配なものです。入院となれば、家族は病院に駆け付け、医師の話を聞き、手術があれば付き添うことになるでしょう。子としては、慣れないことに戸惑いの連続。仕事の予定を調整したり、有休を取ったり……。と、思っていると、まさかの早さで、退院の日を告げられることがあります。

平均入院日数は短期化

 病気やけがによる入院日数は短くなる傾向があります。厚生労働省の「病院報告」(2022年調査)で、一般病床の平均入院日数(精神病床・感染症病床・結核病床・療養病床を除く)は16.2日。1995年は33.7日だったので、27年間でおよそ半分になっていることがわかります。

 今回ご紹介する田中幸三さん(仮名/80代)も、脳の病気だったにもかかわらず、10日ほどで退院できました。

 妻を亡くしてから、自宅で1人暮らしをしていた幸三さん。ある日、庭で脚立に乗って、植木の手入れをしていました。バランスを崩して、脚立から転落。上手に落ちて、軽い打撲で済んだと思っていたのですが……。

 転落から1か月ほどして、ふらつきなどの症状が……。次第に言葉が出にくくなるなどの異変があり受診したところ、「慢性硬膜下血腫」と診断されました。頭の中に血がたまって脳を圧迫し、さまざまな症状が出るものです。「落ちたときに、軽く頭を打ったが、その時はどうということはなかったのだが」と幸三さん。

 それほど怖い病気ではありません。高齢の特に男性に多く、頭部に小さな穴を開ける手術をし、血を排出すれば完治することが多いようです。

退院後は誰が世話をするか

 幸三さんは緊急入院となりました。

 遠方で暮らす長男と長女には病院から電話。うまく説明できないでいると、看護師が電話を代わって「手術になりますので、できる限り早く来てください」と言ってくれました。長男も長女も、翌朝一番で病院に来てくれたそうです。

 無事手術を終えた幸三さんの予後は順調でした。術後8日で退院できることになりました。

「頭の手術と聞いて、内心、どうなることかと思いました。早く退院できるとわかって、嬉しかったですよ」と幸三さんは当時を振り返ります。

 ところが、病室にやってきた長男長女の反応は異なりました。

 幸三さんが不思議に思っていると、長男が口火を切りました。

「僕はとにかく仕事が忙しい。退院後、親父を看ることはできない。同居もムリだ。姉貴、看てやってくれ」

 長女は即座に答えました。

「はあ? 何を言っているの? 私だって、仕事をしているし、子どものことも忙しいのよ」 

 こともあろうに、幸三さんの横で2人の子は言い争いを始めたのです。

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「僕は、『世話をしてくれ』などとひと言も言っていない。それなのに、押し付け合いをされるなんて。それどころか、『施設に入れるしかない』と言い出したんだ」と幸三さんは当時を思い出し、苛立った表情になります。

「退院即入居」する高齢者は多い

 高齢者施設の取材をしていると、施設関係者から「病院を退院となって、そのまま入居する高齢者が多い」という声をよく聞きます。

 実際、こんな調査(*1)もあります。

 高齢者施設への入居前にどれだけ自宅で介護をしていたかを聞いた結果です。「自宅での介護期間はない」は15.4%と、「1年以上〜2年未満」の18.5%に次いで多いのです。病気やけがで入院し、退院後に自宅で暮らすことが難しくなったケースと考えられます。

 また、有料老人ホームを運営するベネッセが、入居検討を主導したのは誰かという調査をしています(*2)。

 結果は、入居した「本人主導」は15.4%と少数、大半は「家族主導」で81.8%。

 多くの場合、本人ではなく、家族が施設入居を検討し、決断することがわかります。

在宅でサービスを利用

 幸三さんが入居していたら、「在宅介護期間なし/家族主導で入居」というパターンに該当するところでした。

 幸三さんは、病室で言い争いを始めた長男長女に対して、「放っておいてくれ。1人で大丈夫だ」と怒鳴りつけました。

 結局、病院のソーシャルワーカーに相談し、医療的に幸三さんの1人暮らしは継続できるだろうということになりました。

 介護保険を申請し、自宅に戻り、ホームヘルプサービスとデイサービスを利用するようになりました。

「あのとき黙っていたら、今頃、施設に入れられていたところだよ」と幸三さんは顔をしかめながら笑います。いまは、長男と長女が月に1回ずつ通ってきてくれるそうです。

 親と子それぞれに事情や思いがあり、ときには対立することがあります。

 幸三さんのケースでも、筆者は、病室で喧嘩を始めた長男長女を責める気はありません。幸三さんのことを邪険にしようとしたわけではないとわかるからです。多くの子世代は、仕事と日常に追われて精一杯……。

 家族だけで話し合うと感情的になり、よりより選択肢が見えなくなることが多いので、医療や介護の専門家に意見を求めることが大切だと思います。

*1「介護施設入居に関する実態調査 2023年度」(株式会社LIFULL senior)

*2「介護に関する意識調査」(平成28年ベネッセ シニア・介護研究所)

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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