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噂される解散総選挙、日程のシナリオと可能性は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
G7を成功裏におさめた岸田首相による早期解散論が高まっています(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

G7を成功裏におさめたとされる岸田首相による早期解散論が報道されています。党内でも「早めの解散総選挙が望ましい」との声も聞かれるなか、150議席獲得をボーダーに設定した立憲民主党や、春の統一地方選挙で躍進した日本維新の会の選挙準備態勢がどこまで整うのか、そして自公の選挙区調整などが判断の鍵となってきています。衆議院解散は首相の専権事項ですから、解散総選挙の有無を占うことは難しいですが、解散から総選挙までの日程シナリオをシミュレーションすることは可能です。いくつかのパターンについて考えていきたいと思います。

過去の解散日から投票日までの日数

まず、前提について考えていきたいと思います。

憲法の定めにより、衆議院が解散された場合、解散日から40日以内に総選挙を行わなければなりません(日本国憲法第54条)。もっとも、時の政権がこの「最大日数」を取ることは稀で、実際はわずか1ヶ月以内で投票日を迎えることが多いのが実情です。小選挙区制導入以降の過去9回の衆議院議員総選挙をみてみると、解散日から投票日までの日数は、平均値27.1日、中央値24日という結果になりました。民主党が政権を奪取した第45回衆議院議員総選挙では最大日数(40日)を経たものの、直近の第49回では史上最短日数(17日)で行われたことは記憶に新しいかも知れません。

衆議院「衆議院議員総選挙一覧表」を元に、筆者が図表を作成
衆議院「衆議院議員総選挙一覧表」を元に、筆者が図表を作成

理由について考えてみますと、今回の解散風は、岸田政権に追い風の状態が発生し、支持率が上昇していることが理由に挙げられていますが、支持率上昇の状態のまま選挙を迎えるためには、解散日から投票日まで日数を空けないことが重要であり、今回も前回同様に解散日から投票日まで日数を空けないことが考えられます。

不信任決議案に対抗して解散するか、裁量的解散か

首相が衆議院の解散をする(解散権を行使できる)ことについて、学説上は69条説(内閣不信任案の可決もしくは信任案の否決への対抗手段としてのみ解散できる)と、7条説(裁量的解散も可能とする)がありますが、通説として7条説が採用されています。一方、内閣不信任案が提出されたことをトリガーにして解散することで「野党による内閣不信任の訴えを、あえて広く国民に問う」という大義名分的な意味合いを持たせることも考えられます。

現在の国会議席数から、内閣不信任案が可決される可能性は極めて低いと考えられますが、仮に野党が内閣不信任案を提出した場合、粛々と本会議で否決するのか、それとも解散の大義名分を手に入れたとして解散総選挙に踏み切るのかが注目されます。内閣不信任案の提出は一事不再議の原則などを鑑み、会期末に行われることが多いことから、仮に野党が提出するとなると、現在の通常国会の会期末である6月21日近く(日程から逆算すると6月14〜16日あたり)に提出されることになるでしょう。国会審議に目を向けると衆議院では重要法案はあまり残っていませんが、G7直前に提出されたLGBT理解増進法案(自公法案、超党派法案)を実質審議入りさせるのかどうかなども注目点です。

一方、不信任案などに依らない「裁量的解散」となると、大義名分が必要です。G7が成功したとか支持率が上がっているというのは状況であって大義名分ではないため、解散総選挙の大義名分を獲得しなければなりません。現時点で国民の信を問わなければならない政策決定があるとも言えず、なかなかこの大義名分がないというのが実情です。解散を否定する論調のなかには、加えて「岸田首相は総裁再選を最も念頭に置いており、現時点で解散総選挙を行っても内閣支持率が高水準をキープし続けられない」との意見もあります。

選挙戦略的には、まずは自公の関係性に注目です。東京28区を巡る自公の交渉は難航しそうであり、大阪における維新と公明の競合や、東京における自民と公明の協力解消といった問題を解決しなければ解散総選挙は難しいかもしれません。全国どの小選挙区でも公明投票は1万票前後あるとされており、接戦区をはじめ自民党にとって厳しい結果を甘受してまで自公連立を解消する可能性まであるようなリスクをとる動きになるのかは甚だ疑問です。

そもそも公明党は統一地方選挙の年に国政選挙があることを嫌うとされており、法律上変えられない参議院議員通常選挙と統一地方選挙の重複年(4年と3年の最小公倍数である「12年おき」で、直近は2019年)はともかく、時の内閣が解散を決められる衆議院議員総選挙と統一地方選挙の被りを受け入れられるかはかなり疑問です(直近の統一地方選挙と衆議院解散総選挙の重複年は小泉内閣による解散で2003年)。さらにいえば、今噂されている今国会会期末解散の場合、統一地方選挙からわずか3ヶ月以内での解散となりますから、公明党からは猛烈な反発が予想されます。

考えられる解散総選挙の日程シナリオ

解散総選挙の日程はいかに
解散総選挙の日程はいかに写真:イメージマート

以上のような状況を踏まえて考えられるシナリオは以下の通りです。

1.6月14〜16日解散、6月27日公示、7月9日投票

野党が内閣不信任案を提出した場合、考えられる日程です。不信任案の提出がいつになるかは国会日程のため不透明ですが、会期末ということを考えれば6月14日あたりが濃厚ではないでしょうか。前回総選挙が解散から投票まで最短で行われたことを踏まえればもう1週前倒しできるとの考えもありますが、内閣が裁量権をもつ衆議院解散による選挙期間中に「沖縄慰霊の日(6月23日)」を重ねることは考えづらいのが実情です。なお、6月27日、7月9日いずれも友引です。また、統一地方選挙の前半日程(都道府県議、政令市議)当選者がこの選挙に立候補する場合、立候補に伴う自動失職が当選後3ヶ月以内に発生するということで、次点者が繰り上げ当選になります。

2.6月30日解散、7月11日公示、7月23日投票

すでに参議院に回されている出入国管理法改正案の審議が想定より長引いたり、LGBT理解増進法案が成立に向けて実質審議入りした場合は、国会延長の可能性があります。その場合、2〜3週間程度の会期延長となる見込みから、上記1.の案から2週間ほど遅れての解散総選挙という可能性があります。もう1週遅らせることも可能(7月18日公示、7月30日投票)ですが、さらに翌週にすると広島原爆の日(8月6日)と投票日が重なるため、現実的ではありません。なお、7月11日は仏滅、7月23日は大安です。

3.秋の臨時国会冒頭解散(10月17日公示、10月29日投票)

通常国会では行われず、秋の臨時国会で解散との声も多く聞かれます。臨時国会に向けて新たな「大義名分」を創出すると同時に、内閣改造や党人事を踏まえて選挙を戦う体制を構築するという考え方でしょう。臨時国会の日程にもよりますが、10月17日公示・29日投票などが想定されます。なお、10月17日、29日はいずれも大安です。

4.来年以降

これら1.〜3.が無かった場合、臨時国会会期末解散もあり得ますが、現実的には来年の解散総選挙の可能性が極めて高くなるでしょう。先程紹介した「岸田首相は総裁再選を最も念頭に置いており、現時点で解散総選挙を行っても内閣支持率が高水準をキープし続けられない」との意見に基づけば、来年の自民党総裁選から逆算して最も効果的な日程で行われることになります。来年の通常国会会期末〜夏の内閣改造のタイミングなどが考えられます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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