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NHK党「ガーシー」は、帰国しないでも国会議員で居続けられるのか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
参院選で第一声をあげるNHK党の立花党首(写真:Motoo Naka/アフロ)

 先の参議院議員選挙では、暴露系ユーチューバーのガーシー(東谷義和氏)がNHK党から立候補し、当選しました。ガーシーは現在UAEのドバイに居住しているとされ、当選後も帰国する意思が現時点でないことを立花党首が会見で明らかにしました。

 国会議員が日本を不在にし、堂々と国会を欠席することを明らかにしたわけですが、そもそもこれは法律に反しないのか、また今後欠席し続けた場合にはどうなるのかを考えてみます。

海外にいても国政選挙に立候補できるのか

 そもそもなぜガーシーは、海外にいるにもかかわらず参議院議員選挙に立候補できたのでしょうか。最近ニュースなどで、地方選挙で立候補し当選した政治家が、住所(居住)要件を満たしていなかったなどとして当選無効となるケースがみられます。最近ではスーパークレイジー君が2021年の戸田市議会議員選挙に当選したものの、住所(居住)要件を満たしていなかったとされ、最高裁まで争いましたが、敗訴し当選無効となりました。

 一方、ガーシーの立候補した参議院議員選挙は国政選挙です。公職選挙法では立候補のできる者(被選挙権)について、以下のように定めています。

公職選挙法第十条 日本国民は、左の各号の区分に従い、それぞれ当該議員又は長の被選挙権を有する。

一 衆議院議員については年齢満二十五年以上の者

二 参議院議員については年齢満三十年以上の者

三 都道府県の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの

四 都道府県知事については年齢満三十年以上の者

五 市町村の議会の議員についてはその選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のもの

六 市町村長については年齢満二十五年以上の者

 このうち、都道府県議会の議員と、市町村議会の議員については、「選挙権を有する者で」との条件がつき、その選挙権に住所(居住)要件があるために問題になりますが、衆参国会議員と首長(都道府県知事・市町村長)については、住所(居住)要件がなく、日本国民であることと、年齢のみが被選挙権の要件となります。

 また、立候補に際しての手続きも、多くの選挙で立候補者本人が立候補手続きを行うことは稀でほぼすべてにおいて代理人が行うことができます。特にガーシーが立候補した参議院比例代表は政党が比例名簿を届け出る制度のため、名簿登載者である本人が行う立候補手続きは極端に少なく、本人が海外にいることで立候補届出が支障をきたすことはほぼなかったとみられます。

 なお、海外に居続けながら参議院議員選挙に立候補をした例はガーシーがはじめてというわけではなく、かつては2007年の参議院議員選挙(比例代表)に国民新党から立候補した元ペルー共和国第91代大統領アルベルト・フジモリ(本名・片岡謙也)がチリにいながら立候補をしたことがあります(結果は落選)。

国会議員には不逮捕特権があるのでは

 結果として、NHK党は比例で1議席を獲得し、ガーシーが比例名簿で最も票を得た候補者として当選をしました。それでは、今後ガーシーは国会議員として、国会に通うことになるのでしょうか。

 NHK党の立花党首は会見で、ガーシーは帰国する予定は当面なく、その理由についてガーシー自身の詐欺容疑などにより、帰国した場合には逮捕される恐れがあるとしています。

 一方、国会議員には不逮捕特権があります。日本国憲法では、国会議員は会期中逮捕されないとされており、また、会期前に逮捕された議員は議院の要求があれば釈放しなければならないとされています。

日本国憲法第五十条

両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

  憲法の条文では、「法律の定める場合を除いては」と留保条件がついていますが、この法律である国会法33条では「各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない。」とされており、例えば国会外で万引きを現行犯逮捕されたなどの事情でもない限り、会期中に逮捕されることはありません。今回立花党首が会見で触れた「詐欺容疑」は現行犯ではないものとみられるため、会期中に逮捕される可能性は極めて低いと言えるでしょう。

 また、国会法34条では、逮捕許諾請求について定められており、内閣が、裁判官が発布した逮捕状を所属議院に提出し逮捕許諾請求をした上で、所属する議院において過半数の賛成により許諾された場合、会期中の国会議員を逮捕できることとされています。憲政においても過去十数例が認めれた過去がありますが、その多くが贈収賄や政治資金規正法違反など政治家として行われたとされる事件によるものであり、政治家となる前の事件での逮捕許諾請求はほぼ例がありません。

国会に行かなくても国会議員で居続けられるのか

 それでは、これらの不逮捕特権があるにもかかわらず、ガーシーが日本に帰ってこずに国会に出席し続けなかった場合には、どうなるのでしょうか。

 今回の参議院議員通常選挙をうけて開催される見込みの臨時国会は、8月3日〜5日の短い会期とされています。今回当選した議員の委員会決めや委員会役員の選任などが主たる議題であり、実質的な審議などは行われない見込みです。

 もっとも、国会法第5条には「議員は、召集詔書に指定された期日に、各議院に集会しなければならない。」定められており、国会法に定めれらた出席義務を満たしていないことには違いありません。

 初当選議員にとっては初登院という大きなイベントなどが控えているわけですが、この3日間を欠席したところで、実質的な審議に影響があるとは言えず、わずかな会期の欠席をもって懲罰の対象とすることは極めて難しいでしょう。言い換えれば、そのことを見越して、立花党首の会見における「欠席宣言」だったとみなすこともできます。

 おそらく問題になってくるのは、秋の臨時国会です。この秋の臨時国会では内閣改造のほか実質的な審議もはじまることとなり、理由の無い欠席が続くようなことがあれば、議院運営委員会などで問題となる可能性があります。

 過去に出席しない理由を欠席届(「請暇書」)として特に届け出ず、召集に応じなかった議員に対しては、「招状」を発した例があります(参議院先例集102)。このときは召集日から3ヶ月経過した日に「招状」を発し、その後すぐに請暇書が提出されたため問題になりませんでした。

 今回、ガーシーが請暇書を出さずに登院しない場合、この先例に基づき3ヶ月程度は様子を見る可能性があります。また、請暇書には「あらかじめその理由と日数を記した請暇書を議長に提出」(参議院先例集101)することとなっていますが、この理由について議長が認めるかどうかがポイントになるでしょう。

 また、国会議員の海外渡航については、昭和36年1月30日の議院運営委員会理事会において、「開会中における海外渡航のための請暇については、あらかじめ同理事会の了解を得ることを要する旨」の決定がされています。一方、ガーシーの場合には、そもそも現住所が海外なのであって、ここでいう「海外渡航」に該当するかどうかが現時点では明らかではありません。現在はドバイにいるとされるガーシーがどのような査証目的でドバイに入国をしているのか、なども焦点の一つとなるでしょう。

 最終的には、議員の懲罰に関する事項を所管する懲罰委員会に付される可能性があります。懲罰委員会では、戒告・陳謝命令・登院停止・除名の懲罰を下すことができますが、一方で選挙という民主主義の根幹を経て当選をしたという事実は極めて大きく、国会において除名処分は憲政史上2例しかありません。また懲罰委員会は「院内の秩序をみだした議員」(日本国憲法第58条第2項)が対象とされ、「議院を騒がし又は議院の体面を汚し、その情状が特に重い者」(参議院規則第245条)を対象とするものと定めていることからも、院外での疑義を理由とする長期欠席を「除名」処分にするのは相当ハードルが高いと想われます。

国会に出席し続けなくても歳費は満額受け取れる

国会議事堂
国会議事堂写真:イメージマート

 「国会議員が国会に登院しなくても歳費は満額受け取れる」という事実は、ガーシーの話題が出る前から知っている方も多いでしょう。最近では吉川赳衆院議員が週刊誌報道以降、国会に登院せず、歳費とボーナスをもらったことがテレビなどでも報道されました。

 国会議員の仕事は本会議や委員会の出席だけではありません。国政に関する調査を行ったりするなども国会議員の仕事であり、会期中であれば質問主意書を内閣に提出することもできます。例えば先述の不逮捕特権にもかかわらず逮捕許諾請求や現行犯逮捕により勾留中の国会議員であっても、郵便などの方法を通じて質問主意書を内閣に提出することができます。

 そのため、必ずしも「国会議員の仕事をまったくしていないのに歳費を受けとっている」という指摘は当てはまらないのですが、国会議員が国会会期中に国会に通わずして歳費を満額受けとることについて、国民の納得が得られることはないでしょう。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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