7日告示された参議院議員補欠選挙(山口県選挙区・静岡県選挙区)は、24日に投開票日を迎え、うち静岡県選挙区では無所属の元静岡県議会議員で立憲民主党と国民民主党が推薦する新人・山﨑真之輔氏が、自民党の元御殿場市長で公明党が推薦する新人・若林洋平氏、共産党の党県委員会部長の新人・鈴木千佳氏に競り勝って初当選を決めました。

 現在も衆院総選挙が行われている中ですが、まずはこの参議院補選(静岡県選挙区)で野党山﨑候補がなぜ勝利したのか、その理由と衆院総選挙への影響について分析してみたいと思います。

参議院補欠選挙は与党2勝が「絶対ライン」だった

 そもそもこの参議院補欠選挙(山口県選挙区・静岡県選挙区)は、いずれも自民党の参院議員の辞職によるものであり、自民党としては落としてはいけない選挙でした。参議院補欠選挙は、前職議員の辞職時期によって選挙日程が公職選挙法で決まっており、この選挙が行われることは静岡県知事選挙に立候補した自民党前参院議員の出馬が確定した時点でわかっていたことでした。一方、この日程がわかっていながらも岸田首相は衆院解散総選挙の日程を1週間早めたのは、衆院選参院選が変則的に被る日程となってでも日程を早めたい理由があったからで、これはやはり内閣支持率がご祝儀相場で高い間に総選挙を行いたいという意図があったからでしょう。

 結果として山口県選挙区は野党共闘が成立せず、実質的な無風選挙となり、24日午後8時に当確が出るいわゆる「ゼロ打ち」となりましたが、静岡県選挙区は激戦にもつれこみ、出口調査でも接戦が伝えられました。当初、この参院補選(静岡県選挙区)の告示直前までは与党優勢が伝えられていましたが、告示日に川勝知事が山﨑候補の応援にサプライズで登場してから、野党候補に勢いが出てきて、ついには逆転に至ったことになります。

なぜ与党候補が敗れ野党候補が勝ったのか

 では、なぜ与党系候補が敗れ野党系候補が勝ったのでしょうか。選挙には「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」との格言があります。この格言を解説するとそれはそれで一原稿となってしまうので別稿に譲るとして、まずは与党系候補がなぜ敗れたのかを考えたいと思います。

 時計の針を今月頭に戻すと、岸田文雄氏が自民党新総裁に選出されて初めての地方訪問が静岡県でした。4日に首相就任後まだ3日しか経っていない7日午後、補選告示にあわせてJR静岡駅前での応援演説を行い、その足で静岡市内の龍華寺にある故・望月義夫元環境相の墓前に首相就任を報告する動きから、岸田首相がこの参院補選(静岡県選挙区)にかける思いの大きさがうかがえます。さらに19日には甘利明自民党幹事長が、21日には再度岸田文雄首相が静岡入りし、この参院補選にかける思いがさらに強まっていました。

 一方、野党側は告示日に川勝知事が山﨑候補の応援にサプライズで登場すると、その後も選挙応援を過熱化させます。更に22日には枝野幸男立憲民主党代表、玉木雄一郎国民民主党代表、芳野友子連合会長が揃い踏みで街頭演説を行ったことで野党側にも勢いがつきました。もっとも衆院選公示前には参院静岡県選挙区の情勢が緊迫していることから、野党としてはこの参院補選を利用したい思惑が一致したことがこの立憲・国民・連合の揃い踏みが成立したとみられています。

 選挙戦での戦い方をみると、若林氏は御殿場市長を務めていたことなどから主に企業や団体を中心とした組織戦を中心に展開したのに対し、山﨑氏は知事や野党の応援を利用した選挙戦を展開しました。ただ、衆院解散総選挙が公示を迎える前後には自民党によるメディアジャックが終わってしまったことから、野党系候補者に勢いが出る状況がつくられる結果になり、更にそこに川勝知事という静岡県でパワーのある応援弁士が告示日から積極的に応援に入ったことも、形勢が逆転した理由の一つと言えるでしょう。

 実際のところ、地元テレビ局の出口調査によれば、若林候補は自民・公明の支持層のほとんどを固め、山﨑候補は立憲・国民の支持層のほとんどを固めましたが、無党派層は山﨑候補への投票に大きく傾いたことからも、中盤以降に山﨑候補が猛追したという情勢の変化がうかがえます。

東西に長い静岡県、若林候補は東から、山﨑候補は西から攻めた
東西に長い静岡県、若林候補は東から、山﨑候補は西から攻めた提供:yotto/イメージマート

 さらに今回の参院補選(静岡県選挙区)は東西横に長い静岡県の東西対決とも言われました。山﨑候補は静岡の西端である浜松を地盤にしているのに対し、若林候補は静岡の東端である御殿場を地盤にしています。ただ人口・人口密度が最も高いのは県庁所在地である県中央部の静岡市ではなく県西部で山﨑候補が地盤とする浜松市であり、こういった地の利を生かした選挙を山﨑候補が展開できたのも勝利の一因と言えるでしょう。

 候補者の演説にも差が出ました。若林候補は市長を12年務めた実績をアピールしたのに対し、山﨑候補は政策訴求に徹する形でした。若林候補の市長12年アピールは行政経験としての実績を伝えるのには効果的でしたが、今年1月に行われた御殿場市長選挙で再選してわずか9ヶ月での辞職に対する批判が最後まで残ったのもまた事実です。一方、山﨑候補は知事の応援が序盤から入ったことや告示前の劣勢報道があったことから、あくまで「若林候補を追いかけている」という訴えを続けていました。その後も中盤以降「姿が見えてきた」と猛追していることをアピールすると、衆院選公示後は「もう手が届くところまで」という表現を使って差が肉薄するところまできていることを伝え、結果的に差し切ることに成功しました。

衆院選へ与える影響は静岡にとどまらない

 この参院補選(静岡県選挙区)の与党1敗は告示前のコンセンサスであった「与党2勝」という予想から外れるもので、現在行われている衆院選への影響は確実にあります。静岡県下の小選挙区や、静岡県を含む東海ブロックでは衆院選での与野党接戦の小選挙区が多く、これらの選挙区ではこの参院補選の余波によって野党に勢いづく可能性があります。

 ただし、岸田内閣の支持率は未だに「支持する」が「支持しない」を上回っているのも事実であり、総選挙の期日を1週間早めたことは与党にとってプラスに働く情勢です。また、野党は参院補選に終盤力を入れたのは事実ですが、さらに1週間続く衆院選では289もの小選挙区での戦いであり、党首クラスの応援や支援といった効果を全国波及させるだけの時間があるとは言えない状況です。すでに公示後に入っているため議席予測などを改めることはしませんが、参院補選(静岡県選挙区)が衆院選のターニングポイントになることは不可避です。

 いずれにせよ、この自民党や与党にとっては、この最後の選挙期間をどう乗り切って議席をできる限り守るのか、立憲民主党や野党にとってはこの参院補選での1勝をどう衆院選に生かして全国波及できるのかが、いよいよ残り1週間となった衆院選最後の見どころと言えるでしょう。