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ゲームは社交場だ。音のみで遊ぶAUDIO GAME CENTER+の新規性とSony Park展

小野憲史ゲーム教育ジャーナリスト
Ginza Sony Park地上階風景(筆者撮影、以下同様)

東京・銀座のGinza Sony Park(銀座ソニーパーク)で2021年6月26日から「Sony Park展」が開催中だ(9月30日まで)。2024年完成をめざす「新Ginza Sony Park」の建設工事を前に実施されるもので、同社が取り組む主要6分野「ゲーム・音楽・映画・エレクトロニクス・半導体・金融」をテーマにしたプログラムが展開される。

中でもユニークなのが、ゲームにちなんで6月26日から7月7日まで開催される関連イベント「AUDIO GAME CENTER+」だ。ビジュアル要素を排し、オーディオのみで楽しめるオリジナルゲームが3点試遊展示されている。6月25日に開催されたメディア向け内覧会で体験してみた。

永野大輔氏(ソニー企業(株) 代表取締役社長・チーフブランディングオフィサー)
永野大輔氏(ソニー企業(株) 代表取締役社長・チーフブランディングオフィサー)

変わり続けるソニーの今を象徴する催し

Ginza Sony Parkは旧ソニービル設立当初からの「街に開かれた施設」というコンセプトを継承し、ソニービル建て替え前の期間限定で2018年8月にオープンしたものだ。地上階を公園という公共空間とし、地下4階までの空間を活用して、全14回のアクティビティが開催されてきた。「ビルを建て替える前に一度公園にする」というコンセプトが高く評価され、2019年度グッドデザイン賞金賞などを受賞している。

Ginza Sony Parkのデザインと運営を主導してきた永野大輔氏(ソニー企業(株) 代表取締役社長・チーフブランディングオフィサー)も、「ソニービルの建て替え構想が始まったのは、ソニーが4567億円の営業赤字を計上した2012年3月期の翌事業年度。当時ソニービルは『変われないソニーの象徴』と揶揄されていた。Ginza Sony Parkの建設はソニーの構造改革と共に進行した」と挨拶した。

こうした経緯から、今回開催される「Sony Park展」も、「変わり続けるソニーが取り組む6つの分野」と、「そうした変化を支えるテクノロジーとデザイン」、そして「変わらぬDNAの象徴」という3層でプログラムを編成したと説明。本年10月から開始される「新Ginza Sony Park」の建て替え工事を前に最後に行われるプログラムとして、ソニーの今が象徴されるような内容となった。

プログラムの概要と構造(公式サイトより画像キャプチャ)
プログラムの概要と構造(公式サイトより画像キャプチャ)

PSを代表するゲームの数々が楽しめる

本プログラムのトップバッターとして6月26日から開催されるのが、PlayStation(PS)に代表されるゲーム分野の展示だ。

地下2階の特設エリアには「①ゲームは、社交場だ」というテーマとともに、PS5向けバラエティゲーム『ASTRO’s PLAYROOM』が大勢で楽しめるエリアと、歴代PlayStationの主要ゲームが楽しめるエリアを配置。本イベントのコラボアーティストの一人である岡崎体育氏が選んだゲーム群や、PS4向けドライブゲーム『グランツーリスモSPORT』が楽しめるドライブ筐体が設置されていた。

Play Stand
Play Stand

ASTRO's PLAYROOM広場
ASTRO's PLAYROOM広場

AUDIO GAME CENTER+で遊べる3タイトル

地下3階には連動イベントとして、7月18日まで「AUDIO GAME CENTER+」が開催されている。「AUDIO GAME CENTER」は2016年からスタートした、音だけで遊ぶゲームを作り、展示する協働プロジェクト。東京ゲームショウ2019出展をはじめ、さまざまな場所でハッカソンや展示を行ってきた。今回は新作1点を含めた合計3点が「Sony Park展」に展示されている。

ゲームはレーシングゲームの『大爆走!オーディオレーシング』、リズムアクションゲームの『スクリーミング・ストライクneo』、そして完全新作のストーリーテリングホラー『幽霊のいるところ』の三本だ。

『オーディオレーシング』はプレイヤーの進むべき方向を示す「ガイドメロディ」を頼りにハンドルを切り、ゴールをめざすというものだ。メロディがステレオヘッドフォンの右から聞こえてきたと思ったら右へ、左だと思ったら左へ、ハンドルを切りながらコーナーを駆け抜けていく。実況中継とメロディが重なりあい、これまでにないレースゲームが楽しめる。

大爆走!オーディオレーシングと会場概要
大爆走!オーディオレーシングと会場概要

スクリーミング・ストライクneo
スクリーミング・ストライクneo

『ストーリーミング・ストライクneo』は音を頼りに左・中央・右のスイッチをスティックで叩きわけるゲームだ。近寄ってくるゾンビの足音を聞きながら撃退するモードと、飛翔音をたよりに飛んでくる亙をたたき割る2つのモードが楽しめる。足音の大小と飛翔音の「ぴゅ~ん」という音の違いで、どちらが遊びやすいかなど、体験を比べてみるのも一興だ。

そして『幽霊のいるところ』では、ヘッドフォンから流れる女性の幽霊のモノローグを聞きながら、選択肢を選んでストーリーを進めていくという、新感覚のノベルゲームが楽しめる。プレイヤーは周囲の環境音と、ヘッドフォンから流れてくるモノローグを同時に聞きながら、VRコントローラーを手に室内を歩きまわり、選択肢を選んでいく。選択肢は合計3つあり、幽霊が成仏するか否かはプレイヤー次第だ。

こうした体験を可能にするのが、会場に設置されたソニー製13.1chの360度立体音響と、周囲の音を聞きながら音楽や通話が楽しめる、オープンイヤー型のステレオヘッドセットの組み合わせだ。ストーリーの進行によって、扉のノック音や電話のベル音が鳴ると、その方向や距離がくっきりと想像がつき、驚かされた。この音を頼りに室内を歩きまわり、選択肢を選ぶという行為が興味深く感じられた。

AUDIO GAME CENTERプロデューサーの田中みゆき氏は本展示に関して「ゲームを開発する過程で、音の響きから空間の構造を予測したり、ものの存在を認識したり、(自分自身が)音が持つ情報の豊かさに改めて気づかされていきました。今回は、3つの異なるオーディオゲームを体験して頂きます。それぞれのゲームを通して、音から想像を広げることや、音で体験を共有する面白さに触れて頂けたら嬉しく思います」とコメントしている。

オーディオ&ビジュアルはソニーのモノづくりに脈々と流れるキーワードだが、本展示ではそこからオーディオのみを切り出してゲーム体験にまとめられている。PSのゲーム群との比較としても、ソニーグループ全体との比較としても、興味深い内容だと言えるだろう。

Bar Moritaカウンター
Bar Moritaカウンター

地下4階ではソニーのファウンダーの一人で、ソニービルを創業した盛田昭夫氏の生誕100年を記念した「Bar Morita」もオープン中だ。盛田氏がソニービルの脇に作られた10坪の公園スペースを「銀座の庭」と命名したことにちなんで、バーの広さも10坪となっている。ここで飲み物を楽しみながら、ソニービルの過去・現在・未来に思いをはせてみるのも良いだろう。

Sony Park展は入場無料だが、一部事前予約制で、先着順なので注意が必要だ。予約は特設サイトから行える。

https://www.ginzasonypark.jp/program/029/

ゲーム教育ジャーナリスト

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。雑誌「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲーム教育ジャーナリストとして活動中。他にNPO法人国際ゲーム開発者協会名誉理事・事務局長。東京国際工科専門職大学専任講師、ヒューマンアカデミー秋葉原校非常勤講師など。「産官学連携」「ゲーム教育」「テクノロジー」を主要テーマに取材している。

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