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渋谷の中心に「空き地」が出現!? 渋谷サクラステージにインディーゲームの聖地が誕生する理由

小野憲史ゲーム教育ジャーナリスト
渋谷サクラステージのSHIBUYAサイド(A街区)(著者撮影)

渋谷駅前再開発のラストピースとインディーゲームの関係

渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、渋谷フクラスと、東急不動産が100年に1度と言われる大型再開発を進める渋谷。そのラストピースが渋谷桜丘地区に位置するShibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)だ。オフィス、住居、そして商業施設が融合する大型複合施設で、JR渋谷駅直結という抜群の利便性を持ち、2023年11月23日の竣工から順次、店舗などの開業が予定されている。

この渋谷の新たなランドマークで、ひときわ異彩を放つことになるであろう空間が、2024年7月にオープンを予定しているイベントスペース「404 Not Found」だ。運営を担うのは「一般社団法人渋谷あそびば制作委員会」で、理事にはゲーム、アート、フードなど、各分野で活躍するクリエイターが並ぶ。そのビジョンはずばり、「渋谷にインディーゲームの聖地を創出する」ことだという。

ゲームといえば秋葉原というイメージが強い中、なぜ渋谷なのか。そして、なぜゲームの中でも作家性が強いとされるインディーゲームなのか。そもそも、都市の再開発事業でここまで「ゲーム」推しなのも珍しい。同法人の共同代表理事で、京都に拠点をおくゲーム会社「Skeleton Crew Studio」の代表取締役もつとめ、インディゲームの祭典「BitSummit」の中心メンバーでもある村上雅彦氏に話を聞いた。

一般社団法人渋谷あそびば制作委員会の村上雅彦氏(著者撮影)
一般社団法人渋谷あそびば制作委員会の村上雅彦氏(著者撮影)

ゲームと他ジャンルの化学変化で渋谷を盛り上げる

404 Not Foundはインディーゲームから広がる「渋谷のあそびば」を創出することを目的としたグローバル・クリエイション拠点だ。中核をなすのは施設4階のフロア中央に位置するイベントスペースで、その周囲にフードエリア、書店、コワーキングスペース、配信スタジオなどが並ぶ予定。渋谷サクラステージを訪れる一般客が気軽に足を運べる、開放的な作りがみてとれる。

メディア向けのプレゼンで村上氏は「性別・年齢・国籍を問わず誰もが楽しめるゲームと、多様性のまちである渋谷には強い親和性がある。BitSummitとの連携を通して、日本の優れたゲームコンテンツの海外発信や、次世代の才能、さらには海外のクリエイターが気軽に集まれる拠点を構築していきたい」と抱負を語った。KADOKAWA Game Linkage、ID@Xbox(Microsoft)、ケベック州政府在日事務所など、国内外の企業・団体と基本合意も締結ずみだという。

このように、404 Not Foundがめざすのは、インディーゲームクリエイターのコンテンツ制作・パブリシティ活動・国際交流・海外展開支援などを一気通貫で実現するエコシステムの推進だ。来年7月のオープンに向けて、まずは渋谷サクラステージから徒歩1分の場所にある「SHIBUYA SACS」でトークイベントやインディーゲームの展示会を実施し、コミュニティの育成を通して、気運を高めていきたいという。すでに本年8月に学生のゲーム作品などを展示した「週末限定 渋谷桜丘ゲームセンター」が開催され、注目を集めたのも記憶に新しい。

もっとも法人理事にはゲーム以外にも、さまざまなジャンルのクリエイターが並ぶ。ただし村上氏によると、ゲームとアート、ゲームと食、ゲームと音楽といった具合に、その中核をなすのがゲームなのだという。村上氏は「ゲームはさまざまなジャンルを取り込めるメディア。ゲームとコラボすることで、新しい化学変化が生まれることを期待したい。そうした活動を通して、広域渋谷圏(※)を盛り上げていきたい」と述べた。この発言には正直、驚かされた。都市開発の文脈でここまでゲーム、それもインディーゲームが表舞台に出てきたことは、なかったからだ。

※東急不動産が提唱する、渋谷駅から半径2.5kmのエリア。青山、代官山、恵比寿などが域内に含まれる。

404 Not Foundのイメージ画像。イベントスペースを囲んで多数のデジタルサイネージが並ぶ(東急不動産提供)
404 Not Foundのイメージ画像。イベントスペースを囲んで多数のデジタルサイネージが並ぶ(東急不動産提供)

404 Not Foundではセミナー、ワークショップ、展示会など、さまざまなイベントが開催され、クリエイターと交流できる場にもなるという(東急不動産提供)
404 Not Foundではセミナー、ワークショップ、展示会など、さまざまなイベントが開催され、クリエイターと交流できる場にもなるという(東急不動産提供)

フロア中央の黄色いスペースが404 Not Foundとなる。図の右側はフードエリア、左側は書店で、一般客がインディーゲームに気軽に触れられる場所になる(プレゼン資料を撮影)
フロア中央の黄色いスペースが404 Not Foundとなる。図の右側はフードエリア、左側は書店で、一般客がインディーゲームに気軽に触れられる場所になる(プレゼン資料を撮影)

インディーゲームが渋谷のまち文化とマッチする理由

これに対して村上氏は、渋谷という街の文化や魅力を新たに発信していく上で、インディーゲームのもつ作家性や、文化が適していたのでは、と述べた。

村上氏と東急不動産とのかかわりは2年前にさかのぼる。BitSummitの活動などを通して、さまざまなクリエイターと接点があった村上氏のもとに、再開発についてのヒアリングがあった。その時点でキーワードに「ゲーム」が含まれていたが、そこには秋葉原や池袋を代表としたゲームファンのカルチャーや、eSportsなどの文脈も含まれていた。これに対して村上氏は「ゲームを作る」という視点を強調した方が、渋谷の独自性が際立つのではないか、という提案を行ったのだという。

これに対して東急不動産側にも「渋谷にはアート・演劇・音楽といった『文化発信の街』という性格があるが、近年は『消費の街』としての性格が高まっている」という問題意識があった。そこで村上氏はBitSummitやインディーゲーム展示会などの視察を提案し、実際に足を運んでもらった。そこでの熱気を通して、渋谷のもつクリエイティブな文化と、作家性の高いインディーゲーム文化との親和性の高さが理解され、具体的な話へと進んでいった。

「404 Not Found」という名称も、「誰の所有物でもない空間=空き地」(インターネットで指定されたWebページが存在しない場合のエラーコード)という意味と、世間にまだ知られていないクリエイターが、そこでさまざまな活動をして、世間に発見(Found)されて、世に出て行く場所という意味からつけられた。「偶然にもオープンが2024年度のBitSummit(7/19-21)の翌週なので、まずはBitSummitでアワードをとったゲームの展示を行う予定です」(村上氏)

2023年7月に開催され、国内外の多数の出展者や来場者でにぎわったBitSummit Let's Go!!の会場(著者撮影)
2023年7月に開催され、国内外の多数の出展者や来場者でにぎわったBitSummit Let's Go!!の会場(著者撮影)

BitSummitでは毎年アワードが設定され、優れたゲームがステージ上で表彰される(著者撮影)
BitSummitでは毎年アワードが設定され、優れたゲームがステージ上で表彰される(著者撮影)

BitSummitで展示するゲームを開発する学生イベント「BitSummitゲームジャム」東京会場の模様(著者撮影)
BitSummitで展示するゲームを開発する学生イベント「BitSummitゲームジャム」東京会場の模様(著者撮影)

点から線へ、そして面へと広がるインディーゲーム

来年で12回目を迎え、今やインディーゲームの世界的なイベントに成長したBitSummitだが、まだまだゲームファン以外に対する知名度は低い。また、年に1回しか開催されず、会場スペースなどの都合から、出展がかなわないクリエイターも少なくない。一方でBitSummitにとどまらず、より多くの露出機会を求めている開発者も多いはず。国内外の業界関係者やインディー・クリエイターをつなぐハブも必要になる。こうした課題を解消する上で、404 Not Foundは最適な場所になるというわけだ。

「日本と海外の学生でオンラインゲームジャムを開催し、その模様をパブリックビューイングで流したり、完成したゲームを展示したりと、さまざまな企画を考えています。セミナーやワークショップなどもやりたい。他にもBitSummitの文脈には含まれていないゲーム、たとえば同人ゲームやフリーゲーム、さらにはアナログゲームなど、さまざまなゲームや、クリエイターの皆さんが集まれる場にしていきたいですね」(村上氏)。現在、活動の趣旨に賛同し、ともに盛り上げてくれる人々を「クラン」という形で糾合し、コミュニティを広げていく試みが進行中だ(問い合わせ先はこちら)。

他にも産学連携の場として活用したり、行政機関との連携をはかったりと、インディーゲームを活性化させる拠点としての役割を進めていく予定だ。事務局長や常任スタッフの人選なども進んでおり、オープンに向けて粛々と準備が進められている。京都で生まれ、成長したBitSummitに加えて、404 Not Foundという組織が加わることで、点と点がつながって線が生まれる。そこから国内外のクリエイターや関係者を巻き込み、面に広げていく計画だ。草の根で始まった日本のインディーゲームが、新たなステージに入りつつあることが予感される。

「渋谷の駅前にインディゲームのクリエイターが集まれる空き地を作るという、不思議だけどうれしいプロジェクトが立ち上がっています。BitSummitに集う人々だけでなく、さまざまな人々、特に個人や少人数で制作されているクリエイターにとって、居心地の良い遊び場を作りたいので、ぜひ注目してほしいですね。いろいろな人々が気軽に使っていただき、おもしろいものが生まれる場所に育てていきたいので、もしこのビジョンに賛同していただける人がいたら、ぜひ連絡してください。一緒にもりあげていきましょう」(村上氏)

ゲーム教育ジャーナリスト

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。雑誌「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲーム教育ジャーナリストとして活動中。他にNPO法人国際ゲーム開発者協会名誉理事・事務局長。東京国際工科専門職大学専任講師、ヒューマンアカデミー秋葉原校非常勤講師など。「産官学連携」「ゲーム教育」「テクノロジー」を主要テーマに取材している。

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