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産官学連携で進む地方自治体のゲームクリエイター育成支援

小野憲史ゲーム教育ジャーナリスト
高梁ゲームジャム2018の模様(著者撮影)

ゲーム開発イベントでスタートした岡山県高梁市の取り組み

人口減少に悩む地方都市が、街おこしの一環としてゲームやアニメを活用する動きが進んでいる。中でも注目したいのが、ゲームクリエイターを育成し、新規産業の創世と雇用創出につなげようとする取り組みだ。先鞭をつけたのは福岡市や仙台市といった政令指定都市だが、ここ数年で人口数万人規模の自治体でも取り組みが始まった。本稿では岡山県高梁市と富山県魚津市の取り組みを紹介する。

岡山県高梁市は県中西部に位置し、人口3万2000人を数える城下町だ。江戸時代は山陽と山陰を結ぶ交通の要所として栄えたが、戦後は年々人口が減少。2014年に日本創世会議が発表した「消滅可能性都市」のリストでは県内ワーストを記録した。こうした中、県下の大学と自治体が広域連携を結び、30時間でゲームを開発する「高梁ゲームジャム」を2015年に高梁市役所で開催した。

地元商店街からの差し入れで賄われた食事(著者撮影)
地元商店街からの差し入れで賄われた食事(著者撮影)
会期中に5本のゲームが作成され、公開された(著者撮影)
会期中に5本のゲームが作成され、公開された(著者撮影)

その後、本イベントは毎年秋に開催される定例行事となった。2018年には新たに一般社団法人クリエイティブシティ高梁推進協議会が発足し、運営を移管。10月27日・28日に「高梁ゲームジャム2018」が吉備国際大学で開催され、社会人と学生30名が参加した。会場は24時間開放され、遠隔地からの参加者向けに大学側が宿泊施設を無料提供。食事も地元企業が協賛し、参加者に無償でふるまわれるなど、地域ぐるみのイベントとなった。

また、本年度はデジタルコンテンツの協業製作を体験する「デジタルからくり装置作りワークショップ in 高梁」(主催:NPO法人国際ゲーム開発者協会日本)も併催され、小学生15人がPC上でドミノ倒しづくりに挑戦した。他に直前となる9月15日・16日には吉備国際大学で「VTuberハッカソン2018 岡山大会 in 高梁」(主催:岡山Unity勉強会)も開催され、約40名が参加するなど、周囲を巻き込んで成長している。

高梁市は2018年7月に西日本を襲った豪雨災害で、全壊58戸を含む市内440戸が被害を受けた。その一方で、ゲームジャム高梁の参加者を中心にIT&コンテンツ制作関連のベンチャー企業も発足するなど、人材育成に関する取り組みが成果を見せ始めている。

富山県魚津市ではeスポーツや将棋イベントともコラボ

これに対して2017年11月に富山県魚津市でスタートしたのが「つくるUOZUプロジェクト」だ。人口4万2000人の魚津市では、海岸から山岳地までの距離が短く、大規模な企業誘致が難しい状況にある。そこで首都圏から離れた狭小な土地でも展開でき、幅広い世代から関心が高い「ゲーム産業」に注目。自治体・商工会議所・教育機関などが実行委員会を組織し、ゲームクリエイター育成のための、さまざまな取り組みを進めてきた。

2018年12月15日には新川文化ホールでゲームフォーラム2018が開催され、スマートフォンゲーム『チェインクロニクル』などで知られる松永純氏(セガ・インタラクティブ)が基調講演に登壇。会場に集まった地元クリエイターと、その予備軍にエールを送った。他に魚津市では定期的なイベントや勉強会の開催や、地元クリエイターが開発したゲームを「つくるUOZU GAMES」として認定し、プロモーションを支援するなどの取り組みも進めている。

また、ゲームフォーラム2018ではゲームクリエイターのすそ野を広げるために、新たに二つの施策が実施された。富山県eスポーツ協会との共催で開催されたeスポーツ大会「ToyamaGamersDay 2018 Winter - ESPORTS DREAM(TGD18Winter)」と、株式会社AKALIが主催した「将棋大会 in UOZUゲームフォーラム」だ。これらの相乗効果にともない、全体で約880名の集客を達成した。

ToyamaGamersDay 2018 Winterの模様(主催者提供)
ToyamaGamersDay 2018 Winterの模様(主催者提供)
将棋大会 in UOZUゲームフォーラムの模様(主催者提供)
将棋大会 in UOZUゲームフォーラムの模様(主催者提供)

TGD18Winterでは『鉄拳7』(バンダイナムコエンターテインメント)などの人気タイトルに加えて、「つくるUOZUプロジェクト」で制作されたゲームも登場した。一方、「将棋大会 in UOZUゲームフォーラム」では、日本将棋連盟の女流棋士で、ゲームタレントとしても活躍中の香川愛生女流三段が参戦。香川女流はTGD18Winterのオンラインカードゲーム『シャドウバース』部門でゲストコメンテーターとして登壇するなど、新旧ゲームの橋渡し役もつとめた。

一連の取り組みにおけるキーマンの一人が、AKALIの代表で「つくるUOZUプロジェクト」の総合戦略アドバイザーもつとめる蛭田健司氏だ。AKALIはコーエーテクモゲームスやヤフーなどでゲーム開発経験を持つ蛭田氏と香川女流が2018年1月に設立し、将棋×ゲームを主眼にした総合企画・プロデュースを目的としている。

香川愛生女流三段(左)と蛭田健司氏(右)(主催者提供)
香川愛生女流三段(左)と蛭田健司氏(右)(主催者提供)

「将棋大会」も当初は香川女流のトークショーの予定だったが、「eSports大会が開催されるということで、日本初となる最新ゲーム大会と伝統ゲーム大会の同時開催に挑戦したい」という香川女流の発案により、開催に至ったという。自治体のゲームクリエイター育成施策が周囲を巻き込み、より大きな広がりを見せた形だ。

高梁市や魚津市のような人口減少に悩む自治体は全国に数多く存在する。こうした中でゲームはPCとインターネットさえあれば、世界中どこでも開発でき、全世界に向けて販売できるとして、世界各地で産業振興に活用されている。産官学連携でスモールスタートし、徐々に周囲を巻き込みながら大きな輪に広げていくスタイルも共通だ。2019年は両自治体のコラボレーションなどで、さらに大きな成果につながることを期待したい。

なお、両イベントで制作されたゲームは下記からダウンロードできる。

高梁ゲームジャム2018 https://itch.io/jam/game-jam-takahashi-2018/entries

つくるUOZUプロジェクト https://unityroom.com/events/1008

ゲーム教育ジャーナリスト

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。雑誌「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲーム教育ジャーナリストとして活動中。他にNPO法人国際ゲーム開発者協会名誉理事・事務局長。東京国際工科専門職大学専任講師、ヒューマンアカデミー秋葉原校非常勤講師など。「産官学連携」「ゲーム教育」「テクノロジー」を主要テーマに取材している。

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