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草むらをかき分け、山に分け入り掘り越した日本の戦争責任

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

草むらをかき分け、山に分け入り掘り越した日本の戦争責任  

野添憲治編著『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』

日韓両政権の間で慰安婦問題をめぐって手打ちが成立した。脚本・演出は米国オバマ政権。安倍・朴という二人の迷優が振付師オバマの指示で迷演技を披露したが、下心が見えすぎてしらけるばかりだった。アジアに対する日本の戦争責任を政治的道具にしてしまったのが今回の手打ちでが、鉱山や建設現場に中国大陸や朝鮮半島から労働者を強制連行して過酷な労働に従事させ、多数の死者を出したことなど、手つかずの戦後処理問題はたくさんある。その一端を掘り起こしたのが野添憲治さんがまとめたブックレット『秋田県の朝鮮人強制連行-52ヶ所の現場・写真・地図』である。

野添さんはぼくがもっとも敬愛するもの書きである。野添さんの仕事は、大きく二つの流れがある。一つは、秋田・能代にどっかりと腰を据え、秋田の山の民、里の民のくらしの歴史を聞き書きという手法で掘り起こしてきた仕事だ。この列島の民衆史の貴重な記録として歴史の残るものである。もう一つは、日本国家が侵したアジア侵略戦争の残酷さを、掘り起こした強制連行の記録だ。

野添さんがまず取り組んだのは花岡鉱山における中国人強制連行の掘り起こしだった。986人の中国人が強制連行され、過酷な労働、暴行・虐待、劣悪な食事による餓死で419人が死亡した。秋田の民衆運動として、多くの方々とともにこの事件を手がけた野添さんらの仕事は、全国からの募金をもとに設立された花岡平和祈念館として結実した。

野添さんが次に取り組んだのが朝鮮半島から連行され、秋田の鉱山やトンネル工事で強制労働に従事させられた人びとの記録であった。秋田の心ある人たちによって「秋田県朝鮮人強制連行真相調査団」が活動を始めて21年。野添さんはその事務局長として調査団の活動を牽引した。「真相調査団」を名付けたのは、記録がほとんどなく、すべて歴史の闇に隠されているからです。その調査の一端をブックレットの形でまとめたのが本書である。定価600円と安い価格をしたのは、出来るだけ大勢の方にこの事実を知らせたいという思いからだ。

調査団が現段階で確認したのは、強制連行された朝鮮の人たちが働かされた事業所は77か所、1万4000人にのぼる。この数字も事実の一端にすぎない。死亡した朝鮮人を埋葬した場所も草木に覆われ発見できないところがあったと報告書は述べている。

この強制連行に日本国家が直接関与していた事実も出ている。例えば岩手県八幡平と秋田県鹿角にまたがる花輪鉱山でも大勢の朝鮮人労働者が働いていた。花輪鉱山が旧厚生省に提出した資料が残っているが、それによると1940年から1944年にかけ337人が労働に従事しているが、その全員が「官斡旋・徴用」と記録されている。敗戦後、帰国したものは40人という記録もある。297人はどこに消えたのか。花輪鉱山は1986年に閉山となっていおり、当時を知る人も記録も一切ない。

野添さんは本書序文で次のように書いている。

「調査団が長い時間をかけて明らかにした現場も、風雪にさらされたり、また人為的に壊されて跡形もなくなっている所もある。ぜひ現場を訪れて日本人が犯した事実を自分の目で確かめていただきたいと考えて本書をつくった」

発行:秋田県朝鮮人強制連行真相調査団。秋田県能代市鳥小屋59-12。600円+税。振替口座:02530-5-909。2015年7月発行。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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