Yahoo!ニュース

Z世代はティックトックでファクトチェックを伝える 〜Global Fact10報告(その4)

奥村信幸武蔵大教授/ジャーナリスト
メディアワイズのティックトックのページ。ティーンのファクトチェックが並ぶ。

(文中敬称略)

世界各地からミスインフォメーション、ディスインフォメーションと戦うファクトチェッカーが集まった「Global Fact10(グローバルファクト・テン、以下『GF10』と表記)」(2023年6月27日〜30日 ソウル)の報告4回目です。

3回目にレポートした「元ツイッターのX」のコミュニティノートのセッションのプレゼンターだったアレックス・マハデバンには「別の顔」があります。

彼は「すべての人にデジタルリテラシーを」が合言葉の「メディアワイズ」のディレクターでもあります。すでにフランスやブラジル、インドなどにも拡がっているプロジェクトです。

「プロ並みの語り」はどこから?

その中のひとつTFCN(Teen Fact Checking Network ティーン向けファクトチェック・ネットワーク)で行われている、「Is This Legit?(それ、ほんとに正しいの?)」というシリーズは、昨年ノルウェーで開かれたGF9でも注目されていました。

メディアワイズのホームページ。「すべての人にデジタル・メディアリテラシーを」というキャッチフレーズが掲げられている。
メディアワイズのホームページ。「すべての人にデジタル・メディアリテラシーを」というキャッチフレーズが掲げられている。

中高生が画面に登場し、自分がやったファクトチェックの結果をプレゼンするショート動画をユーチューブティックトックなどで公開するものです。

「素人」のティーンをどうやってトレーニングしているのか?というのは、ぜひ聞いてみたいと思っていました。たくさんある動画のどれを見ても、みんな、かなり上手に話せています。目線が泳いだりせず、しかし打ち解けた感じのプレゼンテーションです。

例えば、これは2023年1月2日、米NFLバッファロー・ビルズのディフェンスの要であるセーフティのダマール・ハムリン選手が試合中に倒れ、一時心停止に陥り救急搬送された出来事をめぐり、その直後から新型コロナウィルスの反ワクチンを主張する陰謀論者らが「ワクチンの副作用だ」というディスインフォメーションを拡散しようとしたことに対するものです。

「ひとつ、ハムリン選手がワクチンをどれだけ接種したのかは公表されてないよ!」

「ふたつ、専門家は『心臓震とう(心臓にごく強い力が加わった時、まれに起きる心停止)』だと言っているよ!」

「このニセ情報は何度も広められようとして、何度も食い止められてるヤツだよ!」

「感情的にならず、一呼吸置いて深呼吸!そして自分でチェックしてみよう」と呼びかけるものです。

ティックトックの実際の動画はこちら。 

堂々としていて、とても説得力のあるプレゼンです。

アメリカなどでは子どもの頃から、パブリックスピーチのトレーニングをする機会があるようなところが多いようです。息子が以前通っていた小学校でも、朝のホームルームの時間に、みんなの前で2〜3分、家族で見に行った映画の話をするとか、最近のニュースについて感想を述べるなどの「仕事」がありました。

しかし、そのような「基礎」はあったとしても、日本ではテレビ局の記者さえも苦労している、「正確で品もありながら、過度に堅苦しかったり、ぎこちなくならず自然な、くだけた感じの話し方」を実践できているのは、なぜなのか訊いてきました。

ティーンからすべての世代に

メディアワイズについて、ざっと説明をしておきましょう。2018年にグーグルが資金を提供し、アメリカのジャーナリズムの研究機関として有名なフロリダ州のポインター研究所で始まった、メディアリテラシーとファクトチェックを教育するプロジェクトです。

「2020年までに100万人の中高生にリーチし、オンライン上で事実とフィクション(創作されたもの)を見分ける方法を教える。その半分は低所得のコミュニティの子どもたちとする」という目標を掲げてスタートしました。

ターゲットも、次第にアダルト層へと拡大、2020年までには、当初の目標を大きく上回る1千万人以上が参加する規模になりました。

有名なジャーナリストやクリエイターも「アンバサダー」となって、出前授業などを行っています。

「アンバサダー」には各国の有名なジャーナリストが名を連ねる(メディアワイズのホームページより)
「アンバサダー」には各国の有名なジャーナリストが名を連ねる(メディアワイズのホームページより)

NBCテレビの平日夕の看板ニュース番組「NBC ナイトリーニュース」のアンカーであるレスター・ホルトや、ワシントン・ポストの「ティックトック・ガイ」として知られるデイブ・ヨルゲンセンらの顔も見えます。

蛇足ですが、NBCは子ども向けのニュースコンテンツにも積極的に進出しています。NBCナイトリーニュースには「キッズエディション」があり、ホルトがアンカーを務め、大人版の記者もちゃんと登場し、子ども向けに解説をしています。

現在のメディアワイズは、メディアリテラシー/ニュースリテラシーの授業と、ティーンが行う実際のファクトチェック作業をソーシャルメディアで発信するという2つの活動が併行して進んでいます。

ファクトチェック機関としても存在感

メディアワイズはIFCN(国際ファクトチェック・ネットワーク)が定めた国際的な原則に沿った活動で、実績を上げていると認証を受けた、正式なファクトチェック組織(「シグナトリー」と呼ばれています)です。

彼らの「編集の基本原則」には以下の5つが掲げられています。

1.事実に基づいていて正確であること。

2.「オンライン上の事実とフィクションを区別する方法を教える」という使命に基づいていること。

3.オーディエンス(受け手)に合った発信をすること。

4.コミュニティの安全に貢献すること。そのために対話を促進すること。

5.不偏不党であること。

メディアワイズはディスインフォメーションが発生する事態にも素早く反応し、落ち着いて情報を検証することを呼びかけ、存在感を示してきました。プログラムを支援するジャーナリストや図書館の司書など、大人のスタッフも手を出して、ファクトチェックの見本を見せるのです。

例えば2020年6月1日、「#DCBlackout」というハッシュタグが飛び交い、首都ワシントンDCとその周辺で、電力供給や携帯電話やネットなどの通信網が強制的に遮断されるとの、うわさが飛び交ったことがありました。

前月にミネアポリスで、黒人のジョージ・フロイドさんが警官に首を長時間にわたって押さえつけられて拘束され、死亡する事件が起きたのをきっかけに、アメリカ全土で「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命だって大切だ)」の抗議活動が続いていました。

ワシントンDCでもトランプ大統領(当時)が、ホワイトハウス前の抗議活動を催涙弾などを使って退散させ、近くの教会まで歩いて行くというパフォーマンスを行い、市内の各所でも小競り合いが起きていました。

夜になってホワイトハウスの近くで爆発と火災が起きているという、偽の画像が拡散されました。「ブラックアウトの前ぶれだ」というメッセージが飛び交う事態になりました。

メディアワイズはかなり早い段階でファクトチェックのツイートを発信していました。「リバース(裏返して)画像サーチをかけると、『Designated Survivor(宿命の大統領)』というテレビドラマのシーンと同じですよ」と指摘しました。

2020年6月1日のメディアワイズのツイート。ニセの画像だと見破るための方法を教え、画像が「フェイク」であると明確に伝えている。
2020年6月1日のメディアワイズのツイート。ニセの画像だと見破るための方法を教え、画像が「フェイク」であると明確に伝えている。

デバンキング」という、ファクトチェックの形で、オリジナルの画像を突き止めたり、改ざんされている箇所を指摘して、正しい情報を伝え、ミス/ディスインフォメーションの拡散を防ぐものです。

ファクトチェックを「見せる」

メディアワイズのメインの活動のひとつは、冒頭で紹介したファクトチェックや画像や映像のデバンキングなどのプロセスを、中高生が同年代の子たちに向かって話しかける、1〜2分の動画を制作し、ティックトックなどで公開するものです。(ユーチューブには少し長めの映像もあります。)

この動画にはモデルがあります。これは約4年前に制作されたアメリカのバズフィード(今はニュースの発信をほとんどやめてしまいました)が制作したものです。アメリカで銃の乱射事件が起きるたびに、ソーシャルメディアに「犯人だ」として登場する「サム・ハイド」という人物のナゾを解明するものです。

プレゼンターはネット上のコンテンツや情報検証では世界的に有名な、クレイグ・シルバーマンです。現在は調査報道専門のニュースメディア「プロパブリカ」に移籍しました。ビジュアル素材を大量に使った軽妙な語り口は「ファクトチェックをエンタメにまで高めた」とも言われています。

メディアワイズのティーン・ファクトチェッカーたちも、このスタイルをまねています。信頼できるニュースメディアの情報を探し当て、グーグルの画像検索などを駆使して、もっともらしく見えた画像や情報が「信用に足らない」ことを解明していきます。

例えば、かなり多くの「いいね」を獲得しているこのコンテンツは、2023年4〜5月のフランスでの年金支給開始年齢引き上げに反対するデモの画像が「AIによって作られたものである可能性が高い」ことを指摘し、AIで生成された画像や映像であることを疑うための「目の付け所」を解説するものです。

ティックトックの実際の動画はこちら

彼女はデモの女性を抱きしめる警官の手袋の指が6本あることを発見し、リバース画像サーチをかけると、ヒットした画像はすべてAIが生成したもので、現実に撮影されたものではない可能性が高いことがわかったと伝えています。そしてバズフィードなどのニュースメディアの解説を引用し、AIの不自然さを見極めるために、人間の画像なら、手、髪、耳、歯などに注目するべきと教えています。

話し方のトレーニングは「しない」

メディアワイズのディレクターのマハデバンに「ニュースアンカーやレポーターにさせるようなトレーニングとかさせているの?」と聞くと意外な答えでした。

「話し方のトレーニングは何もしていないんだよ。何度か撮り直しはするけどね。そんなにたくさんでもない」

メディアワイズのディレクター、アレックス・マハデバン(筆者撮影)
メディアワイズのディレクター、アレックス・マハデバン(筆者撮影)

マハデバンもテレビ業界でのキャリアはありません。映像の制作に携わるスタッフは2人で、ひとりは壮年の映像編集をするオペレーター、もうひとりは撮影を指導するコーディネーターだけです。

最初はカメラを嫌がっていても

さらに意外だったのは、こんな言葉でした。

「メディアワイズに応募してくる子のほとんどは、映像に出演するのを嫌がるんだ。」

みんなファクトチェックやオンライン・コンテンツのデバンキングには興味があるのですが、発信にはあまり関心がない子が多いとのこと。

「それでは、どうやってあんな話し方にまで持って行くのか?」と問うと、出演をためらう子には、本人とマハデバン、他2人のスタッフの間限りの「デモ映像を撮ってみよう」と誘い、その映像を家に持って帰って見てもらい、公開までこぎ着けたいかを決断させるのだということです。

そうすると、数日後にはほとんどの子が「やります」と申し出てくれるのだと。

マハデバンもその理由は「正確にはわからないんだけど・・・」と言っていました。しかし、いったん決心するとティーンたちは、もともと話すのが上手だし、ソーシャルメディアに長けた子もいるし、自分で努力してくれるとのことです。

重要なのはネタ選び

どのような題材を選んでプレゼンをするかは、ティーンの応募者とマハデバンが話し合い、最終的に決めているということです。

このようなコンテンツを「顔出し」で公開すると心配になるのが、「炎上」やオンライン上の攻撃ですが、マハデバンは、それを避けるためには「とにかく、『どのような問題を選ぶか』が最も重要で、そこはプロの大人が誘導してあげるべきところだ」と答えました。

政治的なネタは避け、左右(あるいは共和党と民主党)の党派の一方から批判や攻撃を受けるようなものは絶対に扱わないこと。人種など時に強く感情的になるような題材も扱わない、オンライン上の風刺画像やネットのミームなど、政治性が低く、バイラルに拡散していて関心が高いものを探す、という「ニュースの初心者向け」の姿勢を守ってきました。

「炎上」してしまったことが、1回だけあるそうです。アジア系の女の子が新型コロナのワクチンの話題を扱ったコンテンツでした。おそらく白人の子がプレゼンすれば、問題がなかったかもしれなかったものでしたが、当時は「アジア人種ヘイトとみられる人たちから、攻撃を受けてしまった」そうです。

日本では、このような形で映像が公開されるだけで「いじめのきっかけになり得る」などと心配する向きもありそうで、「直輸入」には課題もありそうです。しかし「人に説明する」というのは、その本人も深く理解することにつながる、効果的な学びの機会ともなります。

「同年代の子が、自分の成果を教えてくれる」コンテンツは、それを真似て自分でやってみて理解するのにも役に立つでしょう。

例えば学校内だけでシェアして教材にするとか、地域でコンテストをやってみるような試みから始めると、導入できる可能性があるかもしれません。

武蔵大教授/ジャーナリスト

1964年生まれ。上智大院修了。テレビ朝日で「ニュースステーション」ディレクターなどを務める。2002〜3年フルブライト・ジャーナリストプログラムでジョンズホプキンス大研究員としてイラク戦争報道等を研究。05年より立命館大へ。08年ジョージワシントン大研究員、オバマ大統領を生んだ選挙報道取材。13年より現職。2019〜20年にフルブライトでジョージワシントン大研究員。専門はジャーナリズム。ゼミではビデオジャーナリズムを指導し「ニュースの卵」 newstamago.comも運営。民放連研究員、ファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)理事としてデジタル映像表現やニュースの信頼向上に取り組んでいる。

奥村信幸の最近の記事