人物と思想で読み解くインド叙事詩『マハーバーラタ』1:アルジュナ

インド ジャイサルメール ラクダ(写真:アフロ)

『マハーバーラタ』は『ラーマーヤナ』とともにインド二大叙事詩に数えられる、長大な物語である。成立は紀元前四世紀から紀元後四世紀にかけて、長期間にわたって次第に形作られたと考えられている。主題はいとこ同士の戦争である。パーンダヴァと呼ばれる五人の兄弟の王子と、カウラヴァと呼ばれる百人の兄弟の王子の、王位継承権をめぐる諍いが発端だ。これが一族のバラモンや各地の王族にまで波及し、前代未聞の大戦争に発展する。

この記事では、『マハーバーラタ』の登場人物のうち、主役の英雄であるアルジュナについて紹介していきたい。

英雄アルジュナ

『マハーバーラタ』随一の英雄であるアルジュナ。父は神々の王インドラ、母は人間のクンティーだ。彼はアグニ神から授かったヴァルナ神の神弓ガーンディーヴァを操り、ほかにも多くの神々から授かった神的武器を用いて戦う。文明的な英雄であり、兄のビーマが野性的な英雄であることと好対照をなしている。

アルジュナの第一の特徴は「単身での放浪の旅」にある。彼は三度、兄弟や妻と離れて旅に出る。一度目はやむを得ず結婚生活の決まりを破ったための十二年間の放浪。二度目は神々から武器を授かるための修行の旅。ここでは断食をして厳しい苦行を行った。三度目は戦争のあとのアシュヴァメーダ祭で馬とともに旅をした。アルジュナは一人旅によって成長していく英雄なのだ。

アルジュナとクリシュナ

アルジュナの第二の特徴はクリシュナとの友情にある。二人はともに火神アグニの要請に応じてカーンダヴァの森を焼いた。戦争ではクリシュナがアルジュナの戦車の御者となって多くの助言を与えた。このときクリシュナからアルジュナに語られた「バガヴァッド・ギーター」は現代インドにおいても聖典として大切にされている。

そしてクリシュナのさまざまな助言によってパーンダヴァは戦争で勝利を手にする。

アルジュナとクリシュナが密接な「対」を構成していることは、サンスクリット語の文法からもわかる。二人はサンスクリット語の「二つのもの」を表わす両数形で「クリシュナウ(二人のクリシュナ)」と呼ばれたり、「タウ(彼ら二人)」と呼ばれたりするのであるが、「二人のクリシュナ」や、単に「彼ら二人」と呼ばれただけでクリシュナとアルジュナのことだとわかる、という認識が見て取れるのだ。

人と神の友情

アメリカのインド学者マクグラスは、「人間の英雄としてのクリシュナ」と「アルジュナ」の「対」を強調している。アルジュナと友情を築くのは神としてのクリシュナではなく、あくまで地上に生を受けた人間としてのクリシュナだというのだ。なぜなら彼によれば「人間は神の友たりえない」からだ。

しかしそうだろうか。神と人は、インドではもっと近い位置にあるのではないか。アルジュナとクリシュナは人と神としても、友人であると考えてもよいのではないか。

人間は神の友たりえない、のではなく、人間であっても神の友である、そのことこそが最高に重要なのではないか。異なる次元同士の存在、それでも友情を結べる――。