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『RRR』と英雄の二つのタイプ

沖田瑞穂神話学者・博士(文学)・大学非常勤講師・神話学研究所所長。
(写真:アフロ)

今、大人気のインド映画『RRR』(ラージャマウリ監督作品)。ラーマとビームという二人の主人公が、イギリス統治下のインドで自由を得るために戦う話だ。ここでは、この二人の戦士としての類型について考えていこうと思う。

フランスの神話学者デュメジルによると、インドを含むインド=ヨーロッパ語族の神話には、三機能体系と呼ばれる構造が認められる。三つの機能をそれぞれ第一機能、第二機能、第三機能と呼ぶ。第一機能は聖性と王権、第二機能は戦闘、第三機能は生産性をあらわす。さらにそれぞれの機能は、相対立する二つの要素からなる。たとえば第二機能に属する戦士には、文明的で主権に忠実な戦士と、野性的で主権者を脅かしかねない戦士がいる。

戦士の二分化について典型的なのが『マハーバーラタ』の主役の二人の英雄、ビーマとアルジュナである。ビーマはその腕の怪力で悪魔や羅刹と戦う野性的な戦士で、アルジュナは神的な弓を操り戦場で戦う文明的な戦士だ。

ギリシア神話では、ヘラクレスとアキレウスだ。ヘラクレスがビーマ型に、アキレウスがアルジュナ型に分類される。

それでは映画のラーマとビームはどうだろう。ラーマは銃という武器に強いこだわりを持つ戦士で、彼の書斎には本があふれている映像からも、この戦士が文明的で武器を操って戦うアルジュナ型であることがわかる。ビームの方は、最初の虎との力比べや、ラーマが閉じこめられた地下牢の蓋を開ける場面などから、怪力を特徴とする戦士であり、英語が分からないことになっていることからも、野性的な戦士であることがわかる。

ラーマはもちろん、『ラーマーヤナ』の主人公のラーマ王子の投影である。婚約者の名がシータであることからもそのことは明らかだ。他方のビームは『マハーバーラタ』のビーマである。しかしラーマには先に述べたようなアルジュナ的な側面も見られ、ラーマとアルジュナの複合的な英雄であるとみなすことができる。

デュメジルの説に戻ると、機能の内部における分化は、意味は対立しているものの、それぞれ相補う関係にある。映画のラーマとビームも、最後の戦いの場面で、ラーマは弓矢を、ビームは槍を持って協力して戦う。この場面には神話からの連続性が感じられるのだ。

神話学者・博士(文学)・大学非常勤講師・神話学研究所所長。

1977年、神戸市生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。東海大学文学部在学中よりサンスクリット語とインド神話を学ぶ。専門はインド神話・比較神話。著書に『マハーバーラタの神話学』(博士論文、弘文堂)、『怖い女』(原書房)、『人間の悩み、あの神様はどう答えるか』(青春文庫)、『マハーバーラタ入門』(勉誠出版)、『世界の神話』(岩波ジュニア新書)、『マハーバーラタ、聖性と戦闘と豊穣』(みずき書林)。監訳書に『インド神話物語 マハーバーラタ』(原書房)がある。

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