「性犯罪ではなく性暴力をなくす」 ワンツー議連総会で語られたこと

(写真:ロイター/アフロ)

■被害はたとえ1件でも多すぎる「1 is 2 many」

「この問題に携わるようになってから、思った以上に(性暴力の)被害者が多いと知り、大きな社会問題と痛感する日々」

 3月19日、衆議院第一議員会館で行われた「1 is 2 many!(ワンツー)議連」の総会で、挨拶を行った同議連会長の赤澤亮正議員は、そう語った。

 ワンツー議連は昨年12月に発足。正式名称は「性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟」で、「被害がたとえ1件であってもあれば多過ぎる=1 is too(2) many」の意味から「ワンツー議連」と通称されている。

(参考)

2014年4月、アメリカ政府が制作した「女性への性的暴力撲滅」を訴える動画のタイトルは「1 is 2 Many」だった。オバマ大統領(当時)も出演している。

上記動画について日本語訳のある解説記事:

アメリカ政府による「女性への性的暴力撲滅」を訴えるバイラル動画『1 is 2 Many』

■問題に関わると「自分も被害に遭った」と打ち明けられる

 赤澤議員は、同議連の活動に携わるようになってから、会合の席などで「自分も被害に遭った」と打ち明けられる機会が増え、問題の大きさを知ったという。女性だけでなく男性から打ち明けられることもあったといい、「この問題が重要であるという情報はどんどん流れ込んでくる」とも語った。

 赤澤議員の発言の通りのことを感じている人、感じてきた人は、性暴力の支援関係者や、取材者の中には多いのではないだろうか。性暴力の被害は親しい人に対してでも打ち明けないことが多い。だが、「性暴力をなくす活動をしている」ことや、「性暴力の取材をしている」ことが伝わると、自分の被害を教えてくれる人はとても多い。

■「性犯罪」ではなく、「性暴力」

 また、赤澤議員に続いてマイクを持った、性暴力救援センター・大阪SACHICOの加藤治子代表は、「『性暴力のない社会を目指す議員連盟』ということで、『性暴力のない』という言葉を使われたことに、私はとても感銘を受けております」と発言した。

「今までは『性犯罪のない社会に』ということに限られていたんですけれども、性犯罪とは認識してもらえない範囲の性暴力が非常に多いということを、私自身、地元で救援センターをやっている中で非常に感じております」(加藤代表)

「性暴力救援センター・大阪SACHICO」の資料より。「犯罪被害者等基本法」で支援できる性被害は一部
「性暴力救援センター・大阪SACHICO」の資料より。「犯罪被害者等基本法」で支援できる性被害は一部

 一般に「性犯罪」という言葉が使われることが多いが、被害者が警察に届け出ることができない、被害を立証できない、などの理由から「犯罪」としてカウントされていない被害も少なくない。このため、当事者や支援者の間では「性犯罪」ではなく「性暴力」の言葉が使われることが多い。支援者らは、「犯罪被害者等基本法」で支援できる被害は一部であるため、「性暴力被害者支援法」が必要であると訴えている。

■法改正後の運用をフォローアップすることが目的

 昨年7月に性犯罪の改正刑法が施行された。同議連は、法改正後の運用に関するフォローアップなどを行うことが目的。改正された刑法については衆議院で6項目、参議院で9項目の附帯決議がついており(記事末尾に要約)、附帯決議で示された取り組みに関して進捗状況などを確認する意味もある。

 また、改正刑法は「厳罰化」とも言われるが、審査会で検討された9項目のうち、実際に改正されたのは3項目と1項目の一部(参考:現行刑法は「男尊女卑の発想」 性犯罪刑法改正、残る論点は)。当事者団体、支援者団体からは附帯決議の検討状況を見ながら、刑法の更なる見直しを求める声も上がっている。

■二次被害の防止、どのように行う?

 19日の総会には、性暴力救援センター・大阪SACHICOを含め7団体の代表が出席し、欠席した1団体を含む8団体の要望・質問が読み上げられた。

「(衆議院附帯決議<三>などにある)二次被害の防止というところ。専門の捜査員の方は研修を受けていらっしゃると思いますが、夜間や土日に身近な警察署に駆け込まれることもある。交番や警察署の警官の方も研修が必要だと思います。

ワンストップセンターへの交付金については、全国の数で見ると圧倒的に少ない。予算の増額を考えられるかということを質問したいと思います」(性暴力禁止法をつくろうネットワーク)

 警察に相談・通報した際の「二次被害」(性暴力の被害者が『あなたも悪いのでは?』など配慮のない言葉をかけられること)は残念ながら未だに耳にする。もちろん、適切な対応を取る警察署員がいることも確かだが、取材で話を聞く限り、「警察の対応は一般の人が思うよりも属人性が高い」という印象がある。性暴力に理解のある警察署員に対応してもらえるかどうかが「運任せ」の状況にならないよう、さらなる対応の徹底を求めたい。

「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター開設・運営の手引」(警察庁HPより)
「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター開設・運営の手引」(警察庁HPより)

 また、ワンストップ支援センター(性暴力被害の対応の拠点となる機関)は全国にまだ約40カ所。2020年までに全都道府県に1カ所の目標については達成予定というが、国連が提唱する「女性の人口20万人につき1ヵ所のワンストップ支援センター」には、ほど遠い。被害者が直接足を運ぶことを考えれば、北海道など広域の自治体ではさらなる拡充が必要だ。

「最低限の数をクリアして、例えば北海道など広域の自治体では政令指定都市や中核都市にもセンターを設置して、そこにも交付金がおりるようにしてほしい。また、単に設置すればいいというわけではないので、更に相談しやすいように機能を充実させる、ということが求められています」(性暴力禁止法をつくろうネットワーク)

 日本は他国と比べて性暴力の件数が少ないからワンストップ支援センターの数が少なくていいというわけではなく、被害者支援の場、被害者の受け入れ先がないから明るみに出ない被害がある可能性を考えなければならない。

 主にワンストップ支援センターの設置促進を目的とした性犯罪・性暴力被害者支援交付金の予算額は、昨年度の1億6300万円から増額し、1億8700万円となった。しかしそれでも、支援センター1カ所につき約467万円。交付金の額が足りないことを、支援者団体らは訴えている。

■「強制性交等罪の被害経験がある?」と聞かれて答えられますか

「衆議院附帯決議(二)について、(性犯罪被害者の心理学などの調査研究を推進するとあるが)推進とはいったい、何を指すのかを質問したいと思います。また、『暴行脅迫』の認定についての調査は実施しないのか、行うとすればどのような調査項目を設定するのか。特にこれに関心を持っています。

 今回(の改正で)も、暴行脅迫要件が残ってしまいました。被害者にとって(立証の)ハードルが高く理不尽な状況がこの要件によって続いています。この実態を明らかにするために、『暴行又は脅迫』ならびに『抗拒不能』の認定の調査を、誰を対象に、どんなふうにいつ実施するのか、被害当事者のヒアリングを行う予定があるのかを質問したいと思います」(一般社団法人Spring)

一般社団法人Springのパンフレットより
一般社団法人Springのパンフレットより

 たとえば、3年ごとに行われる内閣府の「男女間における暴力に関する調査」の平成26年度版では、女性を対象に「無理矢理性交された経験」の有無を聞いている。6.5%(約15人に1人)があると回答しており、これが性暴力の発生数について信頼できるほぼ唯一の公式調査と指摘する人もいる。

 これがもし、「強制性交等罪に遭った経験があるか」だった場合、「強制性交等罪」の名称の認知度がまだ低いため、結果は少なくなると予想される。また「強姦被害に遭った経験があるか」という質問だった場合、匿名のアンケートであっても「ある」と答える心理的ハードルは高い。また、「強姦」という言葉に自分を重ね合わせたくない被害者もいることを考えると、実態を把握する性暴力調査のためには、専門的な知見を持つ人の言葉選びが必須となる。

 「どのような調査項目を設定するのか」という質問には、こういった懸念があるだろう。

※「男女間における暴力に関する調査」の平成29年度版(平成30年3~4月公開予定)では法改正に合わせて、「無理矢理“性交”された経験の有無、から無理矢理“性交等”をされた経験の有無へ変更」「調査対象の拡充(女性のみから、性別問わずの調査に変更)」「調査項目の追加(加害者が監護する者であったかなど)」などの変更が行われた。

 総会の取材が許可されたのは、各団体からの質問までだった。

 ワンツー議連では、被害当事者団体や支援団体、議員、各省庁の職員らが意見を交わしながら、実態把握や調査の確認を行っていく予定。

■(関連・参考情報)

<出席団体>※質問順

・性暴力救援センター・大阪SACHICO

・性暴力禁止法をつくろうネットワーク

・NPO法人人身取引被害者サポートセンターライトハウス

・NPO法人全国シェルターネット

・NPO法人ポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)

・NPO法人BONDプロジェクト

・NPO法人しあわせなみだ(※代読)

・一般社団法人Spring

<性犯罪刑法改正における附帯決議>※筆者による要約

【衆議院】

●附帯決議(一)性犯罪に関する認識、法整備に至る経緯などを、関係機関・裁判所職員に周知すること。

●附帯決議(二)「暴行又は脅迫」及び「抗拒不能」の認定について、被害者心理の調査研究や研修を行うこと。

●附帯決議(三)刑事事件の捜査や公判過程で被害者のプライバシーや権利に充分な配慮を行うこと。起訴・不起訴処分は被害者の心情に配慮し、必要に応じて丁寧な説明に務めること。

●附帯決議(四)性犯罪被害が潜在化しやすいことを踏まえた実態把握。

●附帯決議(五)刑事裁判中の被害者の氏名秘匿措置検討に際しての配慮・検討。

●附帯決議(六)ワンストップ支援センターの整備を促進すること。

【参議院】

●附帯決議(一)性犯罪に関する認識、法整備に至る経緯などを、関係機関に周知すること。

●附帯決議(二)「暴行又は脅迫」及び「抗拒不能」の認定について、被害者心理の調査研究や研修を行うこと。

●附帯決議(三)刑事事件の捜査や公判過程で被害者のプライバシーや権利に充分な配慮を行い、二次被害防止に努めること。また適切な証拠保全を行うこと。

●附帯決議(四)強制性交等罪が被害者の性別を問わないものとなったことを踏まえ、男性や性的マイノリティに対する偏見による不当な取り扱いをしないための研修など。

●附帯決議(五)起訴・不起訴処分は被害者の心情に配慮し、必要に応じて丁寧な説明に努めること。

●附帯決議(六)実態把握に努めることと、ワンストップ支援センターの推進。

●附帯決議(七)刑事裁判中の被害者の氏名秘匿措置検討に際しての配慮・検討。

●附帯決議(八)児童が被害者となる性犯罪について、被害児童へ配慮した取り組みを一層推進すること。

●附帯決議(九)性犯罪者の調査研究・効果的な再犯防止対策を講ずるよう努めること。