現行刑法は「男尊女卑の発想」 性 犯罪刑法改正、残る論点は

イベントの様子。中央左は鈴木貴子衆議院議員

それから約半年後、他の警察署から電話がありました「〇〇という会社のことで調査をしています。ご協力いただけますか。」会社名を聞いてすぐに何の事件かわかりました。

「性犯罪ですよね?私も被害に遭っています。」とそこで名乗り出て、後日事件現場と警察署で事情聴取を受け、刑事告訴することにしました。被害者は他に2人いたそうです。さらに後日、検察の事情聴取を受けました。しかし、結果は他の被害者の事件も含めて全て「不起訴」でした。理由は「被害者が激しく抵抗したとは言えないから」だそうです。

出典:わたしたちのストーリー 「学生時代に」

3月7日に閣議決定した性 犯罪に関する刑法改正案。

法定刑の下限を懲役3年以上から懲役5年以上に引き上げることや、被害者の告訴が必要だった「親告罪」から「非親告罪」となることなど一定の改正はあるものの、「暴行・脅迫要件の削除もしくは緩和」など被害者の訴えの一部は今回の改正法案の中に入らなかった。

15日に行われた関連イベントでは、与野党の議員から性 犯罪に関する刑法改正案について、それぞれの思いが聞かれた。

■警察に「被害届を出しても激しく抵抗していなければ起訴されない」と言われた

15日、東京・永田町の衆議院第二会館第4会議室で、10~20代を対象としたイベント「キャンパスレイ プを止めよう!~お互いを尊重する性のあり方を考えよう~」が行われた。主催は、「刑 法性犯罪を変えよう!プロジェクト」(※)。

イベントの目的は、昨年から相次いだ大学内での性 暴力事件や、今回の刑法性 犯罪改正について考えること。イベントの冒頭では、同プロジェクトが行う「Believe~わたしは知ってる~キャンペーン」の一環、「わたしたちのストーリー」から、被害者の手記3点が紹介された。

その1つが記事冒頭のエピソード。手記の中では、学生時代に登録制派遣会社の社長からイベントの衣装合わせという口実で呼び合され、全身を触られたことが書かれている。

仕事として来ているので何が起こっているのか理解できずに頭が真っ白になり、もっとひどいことをされるのではないかという恐怖から、力が入らず強く抵抗できなくなっていました。

普段の性格上、自分はそのような場面になれば相手を蹴り飛ばせると思っていましたが、被害に遭って計り知れない恐怖感や自分の精神状態が狂ってしまい正常な判断ができなくなる現実を知りました。

出典:わたしたちのストーリー 「学生時代に」

警察に相談したが、「被害届を出しても激しく抵抗していなければ起訴されない」と言われた。その半年後に他の警察署から電話があり、他にも被害者がいたことが判明。刑事告訴したが、「不起訴」となった(記事冒頭の引用文通り)。

このケースでも明らかだが、強制わい せつ、強 姦(改正後は強制性交等罪)については、「暴行・脅迫」要件がある。現行刑法では、被害者が13歳以上のときは、被害者に対して加害者が暴行・脅迫を行い、被害者を抵抗できない状態にして行為を行った場合において罪と見なされる。このため、「被害者がどれだけ抵抗したのか」が裁判で大きな焦点とされることがある。

しかし実際には、暴行・脅迫を用いずとも、上記ケースのように強弱のある関係性を利用した強要がある。「刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト」は暴行・脅迫要件の撤廃もしくは緩和を求めていたが、今回の改正法案には盛り込まれなかった。

■若狭議員「日本を成熟した社会にするために変えなければならない」

若狭議員
若狭議員

イベントには、与野党から複数の議員が出席。入れ替わりで複数の議員が会場を訪れる中、自民党の若狭勝衆議院議員は2時間以上にわたったイベントの開始から終わりまですべてを見守った。

「もともと検事をしていて、35年間性 犯罪に取り組んできた。国会議員になった目的の1つが刑法性 犯罪を変えること。選挙の公約の1つも強 姦罪を始めとする性 犯罪刑法を変えることだった」という若狭議員は、今回改正法案に盛り込まれた強盗強 姦罪の例を挙げて、次のように語った。

「日本を成熟した社会にするためには、女性のこうした問題を変えなければならない。一つ例を挙げますと、強盗した後で強 姦した場合は強盗強 姦罪。(最大で)無期懲役になる重い罪があるんです。しかし順番が逆で、強 姦が先で続いて強盗をした場合は、そういう罪はない。強盗罪と強 姦罪で別で裁かれるため、無期懲役のような重い罪にはならない。

女性にとっては肉体的、精神的な屈辱は全く同じなのにも関わらず、順番が違うだけで違う刑となる。(今回の改正では)これが盛り込まれて(最高刑が)同じ無期懲役刑になった。

どうしてこういうことになったのか(現行刑法では量刑に差がついているのか)というと、(刑法が制定された)明治時代が男尊女卑の発想がすごく強かった。つまり強 姦罪は軽いものと思われていた。『強 姦罪という“軽い罪”を行った後、女性が怖がっているのを見て、つい“出来心”で強盗まで働いたとすれば、情状はそんなに重くないだろう』という発想があった。

日本は国連から毎年のように女性差別の撤廃が進んでいないという不名誉な勧告を受けています。こういうところから一つずつ変えないと成熟した社会にならない」(若狭議員)

現在の刑法は明治40(1907)年に制定。今から110年前だ。1970~80年代に法改正が行われた諸外国に比べ、日本は性犯罪に関する要件が厳しいと指摘する識者もいる。

■20年前には強 姦の告訴を逆恨みした殺人事件も

松島議員
松島議員

イベントの終わり近くには松島みどり衆議院議員が姿を見せた。松島議員は法務大臣に任命された2014年に性犯罪刑法改正の見直しを主張。今回の改正につながった。

「法務大臣になった日に、閣議後にこの話をした。強 姦罪が懲役3年以上、強盗罪が5年以上。これはおかしいじゃないかと。物を奪うほうが重いという明治時代の刑法がそのまま残っている。これを変えてほしいということを言った。次の日に検討会が設置された。刑法の改正には時間がかかるけれども、法務省としては珍しくスピーディーにやってくれた」(松島議員)

今回の改正で、懲役の下限が3年から5年に引き上げられた。

また、松島議員は親告罪が非親告罪に変わったことを挙げ、非親告罪化について思いを強くしたというある事件について触れた。

1997年に江東区で起こった殺人事件。被害者を刺殺した加害者の男は、7年前に被害者を強 姦し、服役していた。被害者が警察に届けたことを逆恨みし、出所2日目から被害者を探していたことが裁判で明らかになった。

「さらなる被害が起こった。何とかしないといけないと思った。親告罪をなくすといういい改正ができたと思っている」(松島議員)

■「現行刑法が時代に全く合っていないのはその通り」

このほかに出席した議員からの発言は次の通り(抜粋)。

・宮川典子参議院議員

宮川議員
宮川議員

「議員になる前は中学・高校の先生をしており、こういう問題にはリアルに取り組んできた中のひとりだと思っています。教育現場にいた者の反省としては、今の日本の教育は、ただの知識なんですね。どこに卵巣があって子宮があって睾丸があってということだけで、パートナーができて性 行為をして、妊娠をして、その間には何がないといけないのか。それを率直に話さない。

本来性 行為があった後、お互いが幸せだと思わないとおかしい。しかしそう思えないもののようにタブー視して話していることが偏っている。私たちがやらなければいけない人間教育ができていないのではないかということを感じています。

刑法を変えることはもちろんですけれども、その前の時点で、教育の中で人との触れ合いをする中で、いろんな関係性の中で相手を尊重し合う大切さを訴えていきたい。LGBTのことにしても、“差別禁止”ではなくて“理解増進”。どんな法律を作っても、それを理解する気持ちがなければ意味がない」

・階猛衆議院議員

階議員
階議員

「東京弁護士会で犯罪被害者支援会をやる中で、この問題にも取り組んできた。暴行又は脅迫要件については、すでに与党案は閣議決定されていて、この部分はなおっていない。我々野党は、ぜひこれを修正していきたい。今日は与党の皆さんも多数出席されているので、ここは一致団結してできれば。

(いま法務委員会で議論されている)共謀罪に関しては、これは犯罪の合意を処罰するもの。私が矛盾だと思うのは、性犯罪に関しては同意を要件とすることについては『訴追するために内心を調べなければならないから立証が困難になる』と言うわけですけれども、共謀罪はまさにその内心を処罰するもの。私は共謀罪には反対ですけれども、もし共謀罪ということを法務省がやれると考えるのであれば、(性犯罪刑法に関して)『同意に基づかないで』ということを要件にしても全く問題ないのではないか」

・逢坂誠二衆議院議員

逢坂議員
逢坂議員

「現行刑法が時代に全く合っていないのはその通り。

この分野の問題は多くの人が平場で大きな声で議論をする問題ではないだけに、わかりにくい部分もあると思っています。今回の法案をひとつの契機にして、なんとか(被害者や被害者支援に携わる)皆さんの思いに、うまく添うようなかたちで議論をゴールに向かわせていきたい」

・鈴木貴子衆議院議員

鈴木議員
鈴木議員

「どんなバックグラウンドを持つ人同士でも互いを尊重することは重要。どんな局面でも必要、重要だと思う。今回の法案改正に関しては課題もあります。これは間違いのない事実。我々政治家はできることを一歩一歩着実に。忌憚ない声を聞きながら最終的ゴールに進んでいければ」

■残る論点は

2014年から検討会で議論された下記の論点のうち、改正法案に盛り込まれたのは(1)(4)(8)と、(6)の一部のみ。

(1)性犯罪を親告罪とすることについて

(2)性犯罪に関する公訴時効の廃止または停止について 

※幼少期に被害に遭った場合、被害を自覚し加害者を訴えることができるまでに時間がかかることから改正が議論されたが、「(時間が経つと)証拠がない」「子どもの言うことは信用できるのか」などの反論があったとされる

(3)配偶者間における強姦罪の成立について 

※現行刑法では強姦罪に配偶者は含まれないという一文はないが、実際には配偶者を訴えることが非常に難しいことからフランス刑法にならい「婚姻関係にあっても」などの注意的な規定を設けるべきという意見があった。

(4)強姦罪の主体などの拡大及び性交類似行為に関する構成要件

(5)強姦罪などにおける暴行・脅迫要件の緩和

(6)地位・関係性を利用した性的行為に関する規定の創設 

(7)いわゆる性交同意年齢の引上げ 

※現状では13歳。アメリカやカナダでは16歳であり、「国際的に見て低すぎる」という意見がある。

(8)性犯罪の法定刑法の見直しについて

(9)刑法における性犯罪に関する条文の位置について 

※性犯罪を人の心身の尊厳に対する罪と捉え直すのであれば、殺人の章の次に置くべきではないかという意見があった。

刑法性犯罪を変えよう!プロジェクトでは引き続き、イベントやロビーング活動を通じて、この問題に関する理解・関心の喚起を行っていく予定だ。

(※)<刑法性犯罪を変えよう!プロジェクト>は、「明日少女隊」「NPO法人しあわせなみだ」「性暴力と刑法を考える当事者の会」「ちゃぶ台返し女子アクション」の4団体から成る。