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イージス・システム搭載艦1隻3950億円は妥当なのかを比較、ズムウォルト級よりも大きな巨艦

JSF軍事/生き物ライター
防衛省予算(令和6年度概算要求)より「イージス・システム搭載艦」

 8月31日、防衛省から来年度防衛予算の概算要求が発表されました。「防衛力抜本的強化の進捗と予算」-令和6年度概算要求の概要-(PDF

 注目されていたイージス・システム搭載艦(イージス・アショア代替艦)2隻の予算が判明しています。船体の建造で2隻3797億円、そしてレーダーなど以前に購入済みの装備品の費用を合わせると、なんと1隻あたり約3950億円という巨額の取得費用となります。これは「まや」型イージス護衛艦1隻あたり取得費用約1700億円の2.3倍に達します。

イージス・システム搭載艦:Aegis system equipped vessels (ASEV)

○イージス・システム搭載艦の建造等(2隻:3,797億円)

高度化する弾道ミサイル等の脅威から我が国を防護することを主眼として、早期の就役を目標(令和9年度に1隻目、令和10年度に2隻目)に、令和6年度から建造に着手。

※ 既計上分を含めて機械的に積算すれば、取得経費は1隻当たり約3,950億円。

出典:防衛省予算令和6年度概算要求

 これはイージス・システム搭載艦が新型レーダーSPY-7を採用するのに加えて(従来型SPY-1よりも高価)、船体規模が大型化してアーレイ・バーク級イージス駆逐艦(DDG-51級)の1.7倍にも達して、巨大なズムウォルト級と同等以上の巨艦になるためです。イージス・システム搭載艦は基準排水量1万2000トン、VLS数128セルと伝えられています。また「まや」型の取得時よりも円安が急激に進行している影響もあります。

アメリカ海軍の次世代駆逐艦DDG(X)との比較

 なお参考として2022年にアメリカ海軍と議会予算局(CBO)が見積もった海軍向け次世代駆逐艦DDG(X)の1隻あたり費用では、海軍は21~24億ドル(3000~3500億円)、議会予算局は31~34億ドル(4500~5000億円)と見積もっています。

“The Navy has indicated that the initial design prescribes a displacement of 13,500 tons. If that is the case, then the Navy’s estimates imply that the DDG(X) would cost 10 percent more than the DDG-51 Flight III but would have a full-load displacement that is 40 percent greater.”

「海軍は初期設計では排水量13,500トンを規定していると述べた。もしそうなら、海軍の推定では、DDG(X)のコストはDDG-51 Flight IIIより10パーセント高いが、満載排水量は40パーセント大きいことになる。」

出典:DDG(X) Destroyer Could Cost Up to $3.4B a Hull, SSN(X) Attack Boat Up to $7.2B, Says CBO Report - USNI

 アメリカ海軍のDDG(X)見積もりは非常に楽観的過ぎると指摘されていますが、それでも1隻あたり21~24億ドル(3000~3500億円)に達します。ただしこれは最近の急激に円安が進んだ現在のレート(1ドル145~146円)で計算しています。

 一方で議会予算局はDDG(X)を1隻あたり31~34億ドル(4500~5000億円)と見積もっていますが、これは計画が半ば失敗に終わったDDG-1000ズムウォルト級の費用計算に引きずられている面があり、妥当かどうかは議論があります。

 DDG(X)の13500トンとは満載排水量です。これに対し日本のイージス・システム搭載艦の基準排水量1万2000トンは、満載排水量だと1万5000トンから1万6000トンに達する可能性があります。なおDDG(X)のVLS数は128セルでイージス・システム搭載艦と同じ数で、その他の装備も近い形式が予定されています。DDG(X)のレーダーはSPY-6(レイセオン製)で、イージス・システム搭載艦のSPY-7(ロッキード・マーティン製)とほぼ同時期に開発されたレーダーです。

 日本のイージス・システム搭載艦の1隻3950億円(27億ドル)は、アメリカ海軍のDDG(X)の海軍と議会予算局の見積もりの中間くらいに位置します。そう考えると費用は妥当なように思えてきますが、前述のように円安の影響もあるので一概には言えません。

アーレイ・バーク級フライトⅢとの比較

 アーレイ・バーク級イージス駆逐艦(DDG-51級)の最新型フライトⅢの場合、2023年の最新の見積もりでは1隻20億ドル(約2900億円)です。新型のSPY-6レーダーを搭載した満載排水量9500トンのイージス駆逐艦です。

As of the latest estimate, each Flight III costs about $2 billion, a number that includes the Navy providing about $1 billion of equipment for the ship. The cost to build the hull, electrical and mechanical components is $1 billion.

「最新の見積もりの時点でフライトIIIの費用は1隻あたり約20億ドルであり、この数字には海軍が艦に用意した約10億ドルの装備も含まれています。 船体、電気部品、機械部品の建造コストは10億ドルです。」

出典:Navy Awards Ingalls 6 Flight III Arleigh Burke Destroyers, Bath Iron Works 3 as Part of 5-Year Deal - USNI

 日本のイージス・システム搭載艦をアーレイ・バーク級フライトⅢと比べると、船体規模が1.7倍で調達費用は1.36倍です。VLS搭載数は1.33倍です。こうして見ると妥当のように見えますが、アメリカのインフレによる物価高騰や、急激な円安による円とドルの交換レートの変化なども考慮する必要があります。

 それでも仮にイージス・システム搭載艦の設計を「まや」型イージス護衛艦の準同型(レーダーはSPY-7を想定)で設計した場合、アーレイ・バーク級フライトⅢと同等かそれ以上の調達費用になっていた可能性が高く、1隻2900億円(普通の新型イージス艦の設計)と1隻3950億円(巨艦の新型イージス艦の設計)の差ならば、戦闘能力の差を考慮するとおかしな金額差ではありません。

 イージス・システム搭載艦はアメリカ海軍のDDG(X)を先取りしたような規模の巨大なイージス艦であり、現状の西側の水上戦闘艦(空母系を除く)では最大の艦となります。

 そして当初検討されていたBMD(弾道ミサイル防衛)専任艦ではなく、通常のイージス艦と同じように巡航ミサイルを搭載して攻撃任務も行えます。また大型化しますが省力化も実現し、乗組員数の削減も達成する予定です。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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