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ロシア軍のKh-101巡航ミサイルに搭載されたレーダー欺瞞用チャフ・ディスペンサー

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍司令部Facebookより撃墜したロシア軍Kh-101巡航ミサイル

 ウクライナ軍が2023年1月26日に西部のヴィーンヌィツャで撃墜したロシア軍のKh-101巡航ミサイルの残骸の写真について、謎の部品が装着されていると注目されていました。

 撃墜したKh-101巡航ミサイルは上下逆の状態で引っ繰り返っていますが、機首先端付近に12個の穴が空いた部品が装着されています。これは何かを放出する部品でした。

Командування Повітряних Сил ЗСУ / ウクライナ空軍司令部

ウクライナ空軍司令部Facebookより撃墜したロシア軍Kh-101巡航ミサイル
ウクライナ空軍司令部Facebookより撃墜したロシア軍Kh-101巡航ミサイル

 この部品についてSNSなどでは「フレアー・ディスペンサー(囮熱源放出機器)」ではないかと推定されていましたが、しかしフレアーの場合は敵の迎撃ミサイルが接近したタイミングで放出しないと意味がありません。巡航ミサイルでは迎撃ミサイルの感知が困難ではないかと疑問の声も出ていました。

Kh-101巡航ミサイル用チャフ・ディスペンサー「Л-504」

 そして2月16日にこの部品について、ウクライナ軍の分析報告が上がっています。ウクライナ軍参謀本部傘下の「鹵獲兵器および将来兵器および軍事装備研究センター」代表ミコラ・ダニリュク大佐の説明によると、この12個の穴が空いた部品は「チャフ・ディスペンサー(レーダー電波欺瞞紙放出機器)」ということでした。

ウクライナ軍の説明よりKh-101巡航ミサイル用チャフ・ディスペンサー「Л-504」
ウクライナ軍の説明よりKh-101巡航ミサイル用チャフ・ディスペンサー「Л-504」

 「Л-504」と側面に書かれているこの部品はダイポール対レーダー反射板を放出するチャフ・ディスペンサー(レーダー電波欺瞞紙放出機器)であると説明ボードに書かれてあります。敵レーダーを欺瞞する受動的な偽の囮目標で、対レーダー電波欺瞞紙はホイル(金属の箔)または金属化された紙やガラス繊維の薄い板で構成されていると説明されています。

ウクライナ軍の説明よりKh-101巡航ミサイル用チャフ・ディスペンサー「Л-504」
ウクライナ軍の説明よりKh-101巡航ミサイル用チャフ・ディスペンサー「Л-504」

 ダニリュク大佐が右手に持っているのがЛ-504の12連装カートリッジです。左手に持っている透明フィルムは説明展示用のもので、中身の小さなものがレーダー電波欺瞞紙です。

ウクライナ軍の説明よりチャフのレーダー電波欺瞞紙の入った透明フィルム
ウクライナ軍の説明よりチャフのレーダー電波欺瞞紙の入った透明フィルム

 なお露語・宇語のキリル文字「Х-101」を英語で使われるラテン文字に転写すると「Kh-101」になります。「Л-504」は「L-504」です。

 フレアーと違いチャフならば、事前設定されたタイミングで放出しながら飛行して敵レーダーを欺瞞することが可能です。これはフレアーは直ぐ地上に落下しますが、薄くて軽いチャフは射出後の滞空時間が長いためです。1発だけだとあまり意味はありませんが、先行するミサイルがチャフを放出しながら飛んで来れば後続のミサイルの突入が容易になります。

 また敵レーダー電波を感知しても放出は可能で、大雑把な感知でよいなら小型の機器でも可能かもしれません。ただしこの場合でも迎撃ミサイルの接近を感知することは無理でしょう。

 おそらくЛ-504はフレアー弾とチャフ弾をどちらでも発射できる機材で、Kh-101巡航ミサイルにはチャフ弾のみを搭載する設定なのだと思われます。

 またЛ-504についてはロシアのАО «НИИ «Экран» (NIIエクラン研究所)でよく似た「СП-504」が2017年から生産されているという情報がありますが、詳しい確認は取れませんでした。

 巡航ミサイルにチャフ・ディスペンサーを仕込む発想はおそらく世界初の実装です。多弾頭式の大陸間弾道ミサイルならば囮弾頭(宇宙空間で放出するアルミ蒸着された囮風船)を搭載することは当たり前に行われてきたことですが、弾頭を分離して飛んで来るわけでもなく宇宙空間まで駆け上がるわけでもない巡航ミサイルでの実装は非常に珍しいでしょう。

 ただしチャフを発射すると「ここに何か居るぞ」と敵に知らせる事にもなるので、使い方を間違えると逆効果にもなります。おそらくは少数での奇襲攻撃で使うには向いておらず、多数での飽和攻撃を狙う場合に向いていると言えます。

関連:イスカンデル弾道ミサイル用の囮弾「9Б899」

 またロシア軍はイスカンデル短距離弾道ミサイルに囮弾頭を仕込んでいたこともウクライナ侵攻の初期に発覚しています。1段式で弾頭分離しない弾道ミサイルに囮弾頭を仕込むのも世界初の装備です。※外部まとめ:イスカンデル用デコイ弾9B899(9Б899)

 イスカンデルは弾道ミサイルとしては比較的低く飛ぶので宇宙空間をずっと飛び続けるのではないため、囮弾頭は風船ではなく小型のミサイルのような形状をしていますが、推進機器は装着されていません。放出された後は滑空をしながら、熱源の囮および電波妨害を行うと推定されています。

追記:ロシア軍Kh-101巡航ミサイルがチャフ(電波欺瞞紙)を放出する実戦での初映像(2023年12月30日)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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