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北朝鮮が弾道ミサイル発射。ロフテッド軌道で準中距離級に相当

JSF軍事/生き物ライター
日本防衛省の発表より2022年12月18日発射の北朝鮮の弾道ミサイル

 12月18日正午前、北朝鮮が日本海に向けて弾道ミサイル2発を発射しました。発射場所は北西部の平安北道・東倉里で、西海衛星発射センターからと見られています。この場所では12月15日にICBM級の固体燃料ロケットモーター燃焼試験を行ったばかりです。

自衛隊による観測

  1. 11時11分、水平距離550km・最大高度500km
  2. 11時52分、水平距離500km・最大高度500km

 韓国軍もほぼ同じ観測数値を発表しています。ロフテッド軌道(高く打ち上げる山なりの弾道)で発射されていて、仮に最大射程で撃った場合は射程約1000kmの準中距離弾道ミサイル(MRBM)に相当する性能になります。

ミサイル発射実験の北朝鮮の目的の推定

 ですが単純にこれは準中距離弾道ミサイルの試験ではなかった可能性があります。例えば大陸間弾道ミサイル(ICBM)の予備実験(わざと性能を抑えた条件での試験)での可能性も考えられます。理由は幾つかあります。

  • 発射場所はICBM級の固体燃料ロケットモーター燃焼試験を行ったばかり
  • 1000kmは日本攻撃用MRBMとしては東京が射程圏外で性能が不足気味
  • ロフテッド軌道は機動式弾道ミサイルや極超音速滑空ミサイルではない

大陸間弾道ミサイル(ICBM)の予備実験の可能性

  • 固体燃料ICBMの予備実験の可能性。固体燃料ICBMは通常は三段式ですが、これの一段目のみを試験した可能性。ただしそれなら1回の試験は1発で済ませるのが普通で、2発も発射した説明が付かない。
  • 発射場所と推定される東倉里の西海衛星発射センターは12月15日にICBM級の固体燃料ロケットモーター燃焼試験を行ったばかりで、関連した実験の可能性。

準中距離弾道ミサイル(MRBM)の予備実験の可能性

  • 極超音速滑空ミサイル(HGV)はブースター部分に弾道ミサイルを流用しているため、このブースター部分のみ新設計の物を試験した可能性。ただし上述の説明と同様に、2発も発射した説明が付かない。
  • HGVは滑空することで速度と引き換えに射程が伸ばせます。つまり弾道ミサイルとして射程1000kmの性能があるなら、弾頭がHGVならば1000km以上の射程を発揮できるので、実用上、射程1300kmもあれば東京が射程圏内に。
  • ただし固体燃料の場合、準中距離級ならばロケット推進部分は二段式とするのが設計上は普通だが、12月18日に発射したミサイルは二段式だったとは確認されていない(二段式だったならば途中で投棄した一段目がレーダーで捕捉可能)。

通常の準中距離弾道ミサイル(MRBM)の発射の可能性

  • 既に準中距離級の「極超音速ミサイル」を2022年の今年2回発射しているのに、今さら通常の準中距離弾道ミサイルを発射する必要性が低い。
  • しかし日本が射程の準中距離弾道ミサイルには固体燃料式の「北極星2」があるものの大量生産された様子が無く、現在の対日本用の液体燃料式の準中距離弾道ミサイル「ノドン」は旧式化しつつあり何時かは更新する必要がある。
  • ただし前述のように固体燃料の場合、対日本用の準中距離級ならばロケット推進部分は二段式とするのが設計上は普通だが、12月18日に発射したミサイルは二段式だったとは確認されていない(ちなみに北極星2は二段式固体燃料)。

 以上の可能性を検討すると、本日12月18日に発射したミサイルは準中距離弾道ミサイル(MRBM)相当の飛行性能ですが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の予備実験だった可能性も十分に考えられます。

追記(2022年12月19日):北朝鮮が軍事偵察衛星の試験品を打ち上げ。使用したロケットはノドン弾道ミサイルの流用か

12月18日に発射された弾道ミサイルの正体は、衛星の試験機材の打ち上げに使われたノドン準中距離弾道ミサイルの流用品だったようです。

北朝鮮の2022年ミサイル発射数カウント(発射成功69発)

  • 11月02日朝夕 49号~54号 SRBM×4、CM×2 ※SAM×23は除外
  • 11月03日朝夜 55号~60号 ICBM×1、SRBM×5 
  • 11月05日昼  61号~64号 SRBM×4 
  • 11月09日夕  65号 SRBM×1
  • 11月17日朝  66号 SRBM×1
  • 11月18日朝  67号 ICBM×1 ※火星17
  • 12月18日昼  68号、69号 MRBM相当×2 ※ICBM予備実験の可能性

※2022年の総合計数は、失敗2発を含め34回の発射機会で71発のミサイル発射となります。予備実験を含め発射成功は69発です。

※発射機会は1日分を1回とします。朝夜にそれぞれ撃っても1回分でカウントしています。

※11月3日発射のICBMは発射失敗の可能性がありますが、観測された限りではIRBM相当の飛行性能を発揮しており予備実験だった可能性もあるので、暫定的に発射成功(部分的な成功)に分類しています。

※3月20日に発射された口径300mm以下と推定される多連装ロケット4発は発射機会にカウントしていません。これを発射機会に数えると35回目になります。

※SRBM=短距離弾道ミサイル

※MRBM=準中距離弾道ミサイル

※IRBM=中距離弾道ミサイル

※ICBM=大陸間弾道ミサイル

※SAM=地対空ミサイル

※CM=巡航ミサイル

※HGV=極超音速滑空ミサイル

※カウント基準は弾道ミサイルおよび巡航ミサイルのみ。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

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