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「春分の日」の寒気南下とさくらの開花 花見は農作業にとって重要な行事

饒村曜気象予報士
お花見のイメージ(写真:アフロ)

「春分の日」の寒気南下とさくらの開花

 令和6年(2024年)3月19日は、日本海の低気圧が東進し、沖縄付近の前線上発生した低気圧も東進し、西日本や南西諸島では雨が降った所もありました(図1)。

図1 地上天気図と衛星画像(3月19日12時)
図1 地上天気図と衛星画像(3月19日12時)

 全国的に雲が多くなり、西日本や南西諸島では雨が降りやすくなっています。北陸や北日本も夕方以降は雪や雨の範囲が広がりそうです。

 20日の「春分の日」は、これらの低気圧は日本の東海上で一つとなって発達し、強い寒気が南下する見込みです(図2)。

図2 予想天気図(3月20日21時の予想)
図2 予想天気図(3月20日21時の予想)

 このため、20日の「春分の日」は、大気が不安定となって広い範囲で雷が発生する可能性があります。

 発雷確率の予想をみると、20日の朝は山陰から北陸で50パーセント以上という高い確率になっており、昼過ぎには関東地方でも50パーセント以上の高い確率の所があります(図3)。

図3 発雷確率の予想(上は3月20日朝、下は昼過ぎの予想)
図3 発雷確率の予想(上は3月20日朝、下は昼過ぎの予想)

 西日本から東日本では所々で雨や雪が降り、雷を伴う所もある見込みです。

 落雷や竜巻などの激しい突風、急な強い雨、降ひょうなどに注意してください。また、山沿いを中心に大雪による交通障害やなだれに注意、警戒してください。

 黒い雲が見えたら、すぐに安全な場所への移動が必要です。

全国で冬日を観測した地点数の推移と東京の気温変化

 3月19日に最高気温が0度に満たない真冬日を観測した所は82地点(気温を観測している全国914地点の約9パーセント)、最低気温が0度に満たない冬日は481地点(約53パーセント)でした。

 今冬一番の強い寒気が南下してきた令和5年(2023年)12月22日の冬至寒波の頃は、真冬日は約29パーセント、冬日は約85パーセントでしたので、これに比べれば、かなり少なくなっています(図4)。

図4 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2024年1月1日~3月22日、3月20日以降は予想)
図4 真冬日、冬日、夏日の観測地点数の推移(2024年1月1日~3月22日、3月20日以降は予想)

 ただ、冬日は、22日には619地点(約68パーセント)くらいまで増える見込みですが、1月上中旬寒波や、1月下旬寒波などと比べると、寒気の南下が長続きせず、寒波とは呼べない状況になっています。

 東京の最高気温と最低気温の推移をみると、春分の日のあと、最高気温、最低気温ともに平年を下回るのですが、今週末以降はともに平年より高い日が続く予報となっています(図5)。

図5 東京の最高気温と最低気温の推移(3月20日~26日は気象庁の予報、3月27日~4月4日はウェザーマップの予報)
図5 東京の最高気温と最低気温の推移(3月20日~26日は気象庁の予報、3月27日~4月4日はウェザーマップの予報)

 「春分の日」は少し寒くなるものの、その後は4月にむけて気温が高い日が続きそうです。

さくらの開花

 さくらの開花は、「春分の日」の寒気の南下で少し遅れますが、その後の気温上昇でリカバリーしそうです。

 ウェザーマップが3月18日に発表した「さくら開花前線」の予想では、高知で21日、名古屋・岐阜・広島で22日などと平年より早い所が多くなっています(図6)。

図6 さくら開花前線(3月18日にウェザーマップが発表)
図6 さくら開花前線(3月18日にウェザーマップが発表)

 今年も「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず(中国・唐の劉希夷(リュウキイ)の詩)」の季節、お花見の季節が始まります。

引用:農林水産省のホームページ
お花見の始まり
お花見の始まりは、古くは平安時代の貴族が桜を見ながら歌を詠んだり、蹴鞠(けまり)をした行事が始まりで、次第に農民の間でその年の豊作を願って桜の下で宴会をするようになったといいます。庶民がお花見を楽しむようになったのは江戸時代の寛文年間のころからです。当時は寺社の境内に咲く桜の観賞でした。享保年間に八代将軍吉宗が、飛鳥山や隅田川堤、小金井堤などに数千本の桜を植えて庶民のお花見を奨励。このころから庶民は咲き誇る桜を見に繰り出し、桜の下でお弁当を食べながらお花見を楽しみました。

 さくらの語源には、いろいろな説があります。

 その中の一つに、サは穀霊(稲などの霊)の意で、クラは神の座る場所の意味だという説があります。

 冬期間に山に住んでいる田の神が、田植えの時期になると人里に下りて来て、さくらの木に座ると満開と考えていたという意味です。

 稲にまつわる言葉には、稲を植える月が「サツキ」、稲の苗が「サナエ」というように「サ」がついているのが多いのですが、実際にさくらの開花は農業と深く結びついていました。

 さくらの満開を、たわわに稔った稲穂のように見ていたのかもしれません。

 そして、さくらの花を見て、稲作を進めていった名残が、各地に残っている「田打桜」「種蒔き桜」、「田植え桜」という言葉であり、花の咲き方で秋の収穫の豊凶を占う「作見桜(さくみざくら)」という言葉です。

 春に咲く花は、秋から冬、春先の気温などの影響を受け、季節の遅れ進みによって遅く咲いたり、早く咲いたりします。しかし、この遅れ進みがあまりにも大きくでると、農業用の季節時計としては使えません。

 さくらの場合、早い年と遅い年の違いは3週間程度ですが、梅は40から60日、ツバキは60~100日もあります。

 しかも、九州から東海・関東地方では、開花から満間まで約7日と、咲いている期間が短いという特徴があります。

 このため、春の花のうち、「さくらが種まきの目安」などという農業用の季節時計として最適だったと思われます。

 また、未来の姿を先に喜び、祝うことで、そのとおりの結果が得られるという俗信にもとづいて行われる「予祝(よしゅく)」という行事があります。

 さくらの花見は、秋の豊作を引き寄せる「予祝」として、日本人の生活の中に組み込まれていたのかもしれません。

図1、図3、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図5の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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