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北海道の春を告げる「雨一番」と、西日本から東日本の春を告げる「春一番」

饒村曜気象予報士
衛星画像と地上天気図(2月18日9時)

二十四節気の「雨水」

 令和6年(2024年)2月19日は、二十四節気の「雨水(うすい)」です。

 暦の上では、空から降るものが雪から雨に変わり、雪が溶け始めるころとされています。

 昔から農耕の準備を始める目安とされ、雛人形を飾るのに適した日とされてきました。

 「雨水」は3つに分けられ、初候が土が雨で湿り気を帯びるという「土脈潤起(つちのしょううるおいおこる)」です。

 次いで、二候が「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」、三候が「草木萌動(そうもくきざしうごく)」となっており、いずれも春の気配がしてくるというものです。

 ただ、北海道での「雨水」は、まだまだ雪のシーズンです。

 春を告げるとされる「春一番」は、2月15日に北陸と関東、四国で吹きましたが、「春一番」は東日本と西日本の現象で、北日本と沖縄にはありません

 気象庁が「春一番」の目安となる定義をきめて、「お知らせ」を発表しているのは、東日本と西日本だけです(表)。

表 「春一番」を発表する目安となる定義
表 「春一番」を発表する目安となる定義

 北海道では、春を告げる「春一番」がない代わりに、気象庁が定めたものではありませんが、「雨一番」という言葉があります。

「雨一番」

 立春のあと、はじめて雪をまじえずに雨だけが降る日のことをいい、気象庁の初代広報室長だった平塚和夫さんが昭和60年(1985年)に作った言葉です。

引用:平塚和夫(平成12年(2000年))、日常の気象事典、東京堂出版。
雨一番は北海道南部からはじまって、次第に他へおよぶ。札幌管区気象台の技術者たちが道内各地の平均日を調べた結果がある。
それによると、追分で知られる江差の平均日は2月27日。
以後、函館3月2日、札幌3月15日、釧路3月18日、帯広3月19日、旭川3月21日、網走3月27日の順。…。
ある日、降りだしたのが雨。雪がまじってしまえば雨一番ではない。ずっと雨だけが降り通すのを見届けたあと天気の回復を待たないことには、雨一番だと確認できない。
だから、「今降っているのが雨一番です」という発表はできない。その点ではもどかしい思いがする現象である。

 平塚和夫さんの調査時点から年月が経ち、世界の気温が全体的に高くなっていますので、ほとんどが3月に入ってからという、雨一番の日付は、早まっていると思います(図1)。

図1 雨一番の平均日(昭和26年(1951年)から昭和55年(1980年)の30年間の平均)
図1 雨一番の平均日(昭和26年(1951年)から昭和55年(1980年)の30年間の平均)

 ただ、北海道南部から始まって日本海側を北上しはじめるという傾向は変わらないと思います。

 昨年、令和5年(2023年)札幌の雨一番は、3月9日でした。

 今年、令和6年(2024年)は、2月15日に朝方に雨が降りましたが、6時40分からみぞれに、7時30分から雪に変わりましたので、まだ「雨一番」はありません。

記録的な暖かさ

 今冬の札幌は、12月上旬までは、時折、季節外れの暖かさの日が出現していましたが、12月中旬以降は季節外れの暖かさはなくなっています。

 しかし、2月中旬以降は、再び季節外れの暖かさの日がではじめ、2月19日の札幌の最高気温は15度と、札幌としては記録的な温かさの予報です。

 これは、日本海北部の低気圧に向かって暖気が北上するからです(図2)。

図2 予想天気図(左は2月19日9時、右は20日9時の予想)
図2 予想天気図(左は2月19日9時、右は20日9時の予想)

 また、西日本でも前線や低気圧が近づくため、19日朝の通勤・通学の時間帯で本降りの雨となり、午後は東日本や北日本でも雨が降り出す見通しで、雷を伴う所もありそうです。

 2月19日の札幌の最低気温の予想は3度ですが、これは朝方の気温です。降水が予想されている夕方以降は10度近い気温であることから、この降水は雪ではなく雨の見込みです。

 つまり、2月19日には雨が降って、「雨一番」になりそうです(図3)。

図3 札幌の最高気温と最低気温の推移(令和5年(2023年)11月1日~令和6年(2024年)3月5日、2月19日以降はウェザーマップの予報)
図3 札幌の最高気温と最低気温の推移(令和5年(2023年)11月1日~令和6年(2024年)3月5日、2月19日以降はウェザーマップの予報)

 また、南からの風が強まって荒れた天気となるおそれがありますので、九州南部から北部、中国、近畿や東海では「春一番」が発表されるかもしれません。

 そうなれば、「雨一番」と「春一番」、春を告げる2つの一番が同じ日ということになります。

 ただ、この記録的な暑さと雨一番のあとは、北日本中心の冬型の気圧配置となり、寒気が南下して最高気温、最低気温ともに平年並みで推移しそうです。

【追記(2月19日16時15分)】

 福岡管区気象台は、2月19日夕方、九州北部で「春一番」が吹いたと発表しました。札幌の19日の最高気温は12.1度と、予報には少し届きませんでしたが、それでも平年より11.4度も高くなっています。

 春を告げる「雨一番」と「春一番」が同じ日という可能性が高くなってきました。

【追記(2月19日17時10分)】

 鹿児島地方気象台は、2月19日夕方、九州南部・奄美で「春一番」が吹いたと発表しました。

菜種梅雨もどき

 菜の花の咲くころ、だいたい3月から4月にかけて雨が続き、まるで梅雨のような天気になることを「菜種梅雨」と呼ぶことがあります。

 週明けの2月19日以降は、日本付近に前線が停滞し、西日本から東日本を中心に雨が降ったりやんだりの天気が続き、季節は早いのですが、菜種梅雨のような長雨となりそうです(図4)。

図4 各地の10日間予報(数字は最高気温)
図4 各地の10日間予報(数字は最高気温)

 東京都心では、2月20日は雨の予報ですが、最高気温は5月上旬並みの22度の見込みですが、21日以降は、最高気温が10度以下と、真冬並みの日が続く見込みです。

 そして、2月23日(金)の天皇誕生日は、関東は山沿いを中心に雪が降り、平野部でも雨に雪が混じる可能性があります。

 予想より気温が低くなった場合は平野部でも雪に変わり雪が積もるおそれがありますので、今後も最新の情報入手に努めてください。

 「春一番」が吹き、「雨一番」が降っても、そのまま春を迎えるわけではありません。

 寒の戻りがあり、その後も寒暖を繰り返しながら春に向かいます。

 ただ、今年は、春の訪れが早そうです。

タイトル画像、図4の出典:ウェザーマップ提供。

表の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

図1の出典:「平塚和夫(平成12年(2000年))、日常の気象事典、東京堂出版」をもとに筆者作成。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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