Yahoo!ニュース

全国的な荒天をもたらす「二つ玉低気圧」のち「爆弾低気圧」

饒村曜気象予報士
二つ玉低気圧の予想天気図(11月17日9時の予想)

「二つ玉低気圧」と「爆弾低気圧」

 11月17日(金)は、日本海と本州南岸を低気圧が発達しながら北東進する見込みです(タイトル画像)。

 二つの低気圧が日本列島を挟むように通過する、このような天気図を「二つ玉低気圧型」といい、全国的に雨が降る天気図の型です。

 これらの低気圧や前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込むため、大気の状態が非常に不安定となり、局地的に雷雲が発達するおそれがあります。

 このため、西~北日本では広い範囲で雨が降り、雷を伴った非常に激しい雨の降る所もある見込みです。

 暴風や高波に警戒し、土砂災害や低い土地の浸水、河川の増水に注意・警戒してください。南西諸島は概ね晴れますが、所によりにわか雨があるでしょう。

 11月18日(土)になると、2つの低気圧が千島近海で一つになり、急速に発達する見込みです。

 気象庁では戦争をイメージするなどの理由で「急速に発達する低気圧」と表現していますが、いわゆる「爆弾低気圧」になる見込みです。

 世界気象機関(WMO)では、北緯60度に温帯低気圧がある場合は24時間に24ヘクトパスカル(hPa)以上、北緯40度の場合は18ヘクトパスカル以上、中心気圧が低下する温帯低気圧を「bomb low pressure(爆弾低気圧)」と呼んでいます(図1)。

図1 「爆弾低気圧」の定義
図1 「爆弾低気圧」の定義

 「爆弾低気圧」は、強い寒気の南下と強い暖気の北上が重なったときに発生します。

 11月16日9時に東シナ海で1020ヘクトパスカルの低気圧が、24時間後の17日9時には日本海で1000ヘクトパスカルに、24時間に20ヘクトパスカルも中心気圧が下がる予想です。

 また、18日9時にはサハリン近海で982ヘクトパスカルと、24時間で18ヘクトパスカルも気圧が下がる予想となっていますので、世界気象機関(WMO)の基準を満たして爆弾低気圧となります。

 日本付近では、世界的に見ても爆弾低気圧の発生が多い地域で、季節的には、冬から春が一番多く、次いで、今回のような秋から冬にかけてです。

 台風も、爆弾低気圧のように気圧が急激に低下して発達することがあります。台風の中には、爆弾低気圧より大きな気圧低下、例えば、24時間に50ヘクトパスカル以上も発達する場合が約1パーセントあります。

 しかし、気圧が急激に低下して暴風が強まるといっても、台風の場合、暴風が強まるのは台風の中心付近だけです。

 しかし、爆弾低気圧は広範囲で暴風が強まり、被害が広範囲に及びますので、防災対策は、台風より爆弾低気圧の方が難しいといえます。

 爆弾低気圧の暴風を、「台風並みの暴風」と表現することがありますが、「台風以上に危険な暴風」なのです。

早期注意情報

 気象庁では、5日先までに警報を発表する可能性を、「高」「中」の2段階で予想し、早期注意情報を発表しています。

 このうち、暴風に関する警報を発表する可能性は、11月17日朝から夜遅くでは、北海道や九州北部・山口県に「高」が、18日は北海道、東北、九州北部・山口県に「高」となっているほか、広い範囲で「中」となっています(図2)。

図2 暴風に関する早期注意情報(上段:11月17日朝から夜遅く、下段:18日)
図2 暴風に関する早期注意情報(上段:11月17日朝から夜遅く、下段:18日)

 また、大雨に関する警報を発表する可能性は、11月17日朝から夜遅くでは、東日本から北日本の太平洋側を中心に「中」が、18日は東日本に日北海側と秋田県、北海道東部で「中」となっています(図3)。

図3 大雨に関する早期注意情報(上段:11月17日朝から夜遅く、下段:18日)
図3 大雨に関する早期注意情報(上段:11月17日朝から夜遅く、下段:18日)

 暴風とともに、11月ですが、雨に警戒が必要です。

 これは、低気圧に向かって暖くて湿った空気が北上するからで、各地とも、最新の気象情報の入手につとめ、低い土地の浸水、河川の増水、土砂災害に十分注意してください。

 また、竜巻などの激しい突風や落雷にも注意してください。

冬日と夏日

 令和5年(2023年)は、9月20日に最高気温が30度以上という真夏日が全国で224地点(気温を観測している914地点の約25パーセント)となるなど、記録的な残暑が続いていましたが、10月に入ると、真夏日はほとんど観測されなくなりました。

 また、最高気温が25度以上という夏日は、11月に入っても多くの地点で観測される日がありましたが、11月6日に303地点(約33パーセント)を観測したのを最後に、急減しています(図4)。

図4 真夏日、夏日、冬日の観測地点数の推移(9月1日~11月19 日、11月17日以降は予報)
図4 真夏日、夏日、冬日の観測地点数の推移(9月1日~11月19 日、11月17日以降は予報)

 変わって、最低気温が0度未満という冬日が増え始め、11月16日は255地点(約28パーセント)が冬日でした。

 しかし、11月17日は、二つ玉低気圧によって暖気が北上しますので、冬日は50地点(約5パーセント)には届かない見込みです。

 かといって、夏日が増えるわけではありません。

 千島近海で低気圧が発達すると、北日本を中心とした西高東低の冬型の気圧配置となり、強い寒気が南下してきますので、大きく減った冬日は、再び大きく増加する見込みです。

 体調を崩しがちとなる、寒暖差の大きな日が続きますので、年末に向けて最大限の注意が必要です。

タイトル画像、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:饒村曜(2014)、天気と気象100 一生付き合う自然現象を本格解説、オーム社。

図4の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事