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西日本は豪雨に警戒 梅雨末期のような豪雨で線状降水帯発生

饒村曜気象予報士
土砂災害 避難する人々(提供:イメージマート)

消えた梅雨前線の復活

 現在、梅雨明けをした沖縄・奄美地方と、梅雨がないとされる北海道を除いて、梅雨の真っ最中です。

 令和5年(2023年)6月29日は、日本列島から梅雨前線が消え、梅雨明けの様相となり、静岡市で35.8度、山梨県の勝沼で35.0度と、ともに最高気温が35度以上という猛暑日となりました。

 また、最高気温が30度以上という真夏日は374地点(気温を観測している915地点の約41パーセント)、最高気温が25度以上という夏日は、822地点(約90パーセント)にも達しました。

 しかし、6月30日は、日本海で梅雨前線が顕在化し、前線上で発生した低気圧が北日本を通過しています(図1)。

図1 地上天気図と梅雨前線の雲(6月30日15時)
図1 地上天気図と梅雨前線の雲(6月30日15時)

 このため、6月30日には猛暑日を観測した地点はなく、真夏日は121地点(約13パーセント)、最高気温が25度以上という夏日は699地点(約76パーセント)となり、前日からは大きく減っています(図2)。

図2 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月30日)
図2 夏日と真夏日の観測地点数の推移(令和5年4月1日~6月30日)

 6月27日~29日の暑さは、5月17日~18日、6月17日~18日に次ぐ、3回目の暑さということもできますが、前の2回は湿度が比較的低い時の暑さです。

 そして、今後は、湿度が高い暑さが続く見込みですので、熱中症には、例年以上に警戒してください。

南下する梅雨前線は危険 

 6月の末は、日本海まで北上した梅雨前線に向かって大気の下層で暖湿気が北上し、一時的に梅雨明けの様相となりましたが、大気の下層に暖湿気が入っている時は、大気が不安定になり、局地的に雷を伴った強い雨が降りました。

 その後、7月1日にかけて日本海で顕在化した梅雨前線が南下し、下層暖湿気に上層寒気が重なっています(図3)。

図3 予想天気図(左は7月1日9時、右は2日9時の予想) 
図3 予想天気図(左は7月1日9時、右は2日9時の予想) 

 このため、大気が非常に不安定になり、大雨に警戒が必要となっています。

 7月に入ったばかりですが、気温が高く、大気中には多量の水蒸気を含んでいますので、梅雨末期の大雨の様相です。

 大雨警報発表中に、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測または解析し、さらにその地域にとって数年に一度程度しか発生しないような大雨である場合には「記録的短時間大雨情報」が発表されます。

 周辺地域では、土砂災害や河川の増水など、災害の危険性が高まっているため警戒が必要となる情報ですが、この「記録的短時間大雨情報」が山口県と福岡県で発表となっています。

【記録的短時間大雨情報】

(6月30日)

23時50分  山口県下関市豊田 107ミリ(観測)

23時40分  山口県下関市豊浦付近 約100ミリ(解析)

23時40分  山口県下関市豊田付近 約100ミリ(解析)

23時50分  山口県下関市菊川付近 約100ミリ(解析)

(7月1日)

0時00分  山口県美祢市美祢付近 約100ミリ(解析)

0時00分  山口県美祢市美東付近 約100ミリ(解析)

0時30分  山口県下関市下関付近 約100ミリ(解析)

2時00分  福岡県築上町付近 約110ミリ(解析)

 気象庁では早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で示しています。

 これによると、大雨警報を発表する可能性は九州から東北にかけて、ほとんどの府県で「高」か「中」になっています(図4)。

図4 大雨に関する早期注意情報(7月1日朝~夜遅く)
図4 大雨に関する早期注意情報(7月1日朝~夜遅く)

 過去の例から見ても、梅雨前線が南下する時に大雨による災害が発生していますので、最新の気象情報に注意してください。

線状降水帯の予報

 気象庁では、令和12年度を目処として、「線状降水帯の発生を含め、集中豪雨の予測精度向上」に取り組んでいます。とはいえ、毎年のように重大な災害をもたらす線状降水帯に対する防災対策は喫緊の課題となっています。

 このため、令和12年度まで待つことなく、完成した技術を用いた情報の発表を計画しており、線状降水帯に関する情報の第1弾が、令和3年6月より始まった「顕著な大雨に関する情報」です。

 非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を、「線状降水帯」というキーワードを使って解説する情報です。

 「顕著な大雨に関する情報」は、令和5年(2023年)5月より、30分程度早い発表のため、予測も含めての発表となっています。

 この「顕著な大雨に関する情報」が7月1日1時00分に、山口県に対して発表となりましたが、予測を含めての発表でした(図5)。

図5 山口県で発生した線状降水帯(7月1日0時50分)
図5 山口県で発生した線状降水帯(7月1日0時50分)

顕著な大雨に関する全般気象情報

令和5年(2023年)7月1日1時00分 気象庁発表

山口県では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。

 また、線状降水帯に関する情報の第2弾が、令和4年から始まった「線状降水帯の半日前予報」です。

 当面は、国内を11の地方に分けての発表ですが、令和6年には都道府県単位、令和11年には市町村単位での発表が予定されています。

 この「線状降水帯の半日前予報」も、6月30日10時0分に九州北部(山口県を含む)に対して、10時16分に九州南部に対して発表となっています。

 内容は、ともに、6月30日午後から7月1日午前中にかけて、線状降水帯が発生し、大雨のおそれがあるというものです。

 従って、現時点において、九州北部(山口県を含む)の「線状降水帯の半日前予報」は適中したということができます。

 線状降水帯に関する情報は、まだまだ粗い情報で、精度が高くありませんが、現在の技術でも線状降水帯に関する情報が発表となったときはほとんどの場合で大雨が降っています。

 令和12年を待つことなく、線状降水帯の情報が発表となったときは、十分な警戒が必要です。

図1、図4、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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