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台風3号の北上で再び梅雨前線と台風の危険な組み合わせに 今年は去年に比べ台風発生海域が南東へ

饒村曜気象予報士
台風3号の雲と沖縄付近から東日本の南海上の弱まった梅雨前線の雲(6月7日12時)

梅雨前線の一時的な南下

 令和5年(2023年)6月7日は、梅雨前線が南下し、朝のうちは雲が広がっていた西日本は概ね晴れてきました。東日本~東北南部も、太平洋側を中心に降っていた雨もやみ、次第に晴れ間が広がりました(図1)。

図1 地上天気図(6月7日12時)
図1 地上天気図(6月7日12時)

 東北北部~北海道は上空に寒気を伴った低気圧の影響で雨の降る所が多く、所により雷を伴って激しく降ったところがありましたが、晴れて気温が高くなったところが多くありました。

 最高気温が25度以上の夏日は、気温を観測している全国915地点のうち560地点(約61パーセント)もありました(図2)。

図2 真夏日・夏日と冬日の観測地点数の推移(令和5年3月1日~6月7日)
図2 真夏日・夏日と冬日の観測地点数の推移(令和5年3月1日~6月7日)

 最高気温が30度以上の真夏日の観測地点数は52地点(約6パーセント)でした。

 北日本で気温が上がらなかったことから、今年一番の暑さとなった5月17日に観測した夏日712地点(約78パーセント)、真夏日219地点(約24パーセント)には及びませんでした。

 ただ、梅雨前線の南下は一時的です。

 6月8日は、梅雨前線は再び活発になって北上し、西日本から次第に雨が降りだす見込みです(図3)。

図3 予想天気図(6月9日9時の予想)
図3 予想天気図(6月9日9時の予想)

 西日本から東日本太平洋側では、南海上からの暖かく湿った空気が北上し、8日から9日にかけて雷を伴って非常に激しい雨が降る見込みです。

 気象庁は早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で発表しています。

 大雨に関する早期注意情報によると、6月8日は鹿児島県を中心に「高」、九州と四国の一部、近畿の一部で「中」となっています(図4)。

図4 大雨に関する早期警戒情報(上:6月8日、下:6月9日)
図4 大雨に関する早期警戒情報(上:6月8日、下:6月9日)

 そして、6月9日は鹿児島県と宮崎県が「高」、九州から関東の広い範囲で「中」となっています。

 各地とも大雨に警戒してください。

 ただ、フィリピンの東海上にある台風3号が発達しながらゆっくり北上しています。

 6月8日~9日の雨は、梅雨前線と台風3号とは距離がありますので、台風の影響はほとんどない状態での大雨です。

 台風の動向によっては、来週前半には、台風周辺の湿った空気が入ることで前線がさらに活発化し、さらなる大雨となる可能性もあります。

台風3号の北上

 台風3号は、海面水温が台風発達の目安となる27度を上回る、29度という暖かい海域を発達しながら西寄りに進んでいます(図5)。

図5 台風3号の進路予報と海面水温(6月7日21時)
図5 台風3号の進路予報と海面水温(6月7日21時)

 台風3号は、次第に向きを北に変え、6月11日の日曜日には強い勢力で沖縄の南に達する見込みです。

 台風3号によって暴風域に入る確率は、沖縄県大東島地方では、12日15時までの5日間に入る確率は34パーセントで、3時間ごとの確率では6月12日未明(0時から3時)の24パーセントが一番大きな値です(図6)。

図6 沖縄県大東島地方が暴風域に入る確率
図6 沖縄県大東島地方が暴風域に入る確率

 予報円の広がりを考慮して計算していますので、暴風域に入る確率の値は小さいのですが、今の所、6月12日未明が大東島地方に最接近と考えられます。

ラニーニャ現象からエルニーニョ現象へ

 今年の夏は、2年近く続いたラニーニャ現象が終わり、エルニーニョ現象、それも強いエルニーニョ現象になると考えられています(図7)。

 図7 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値
図7 エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値

 東太平洋熱帯域の海面水温が平年より低くなるのがラニーニャ現象、高くなるのがエルニーニョ現象で、ともに世界的な異常気象が発生する目安となっています。

 エルニーニョ現象が発生すると、インドネシア付近の西太平洋熱帯域の海面水温は東太平洋熱帯域とは逆に低下し、積乱雲の活動が不活発となります。

 この影響で、日本付近の夏季は太平洋高気圧の張り出しが弱くなって、気温が低くなる傾向があります。

 また、熱帯域から太平洋高気圧の周辺をまわるように湿った空気が流れ込み、梅雨末期のような大雨となる可能性もあります。

 さらに、夏の台風の発生数は平常時より少なくなりますが、台風の発生位置が、平常時に比べて南東にずれ、長期間にわたって暖かい海を移動する可能性が高くなり、数は少なくても発達している可能性があります。

 ラニーニャ現象のときの台風は、発生位置が平常時に比べて北西にずれる傾向があり、ラニーニャ現象だった令和4年(2022年)は、日本の近くで台風が多く発生しました。

図8 令和4年(2022年)の台風発生海域(1号~25号)と令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~3号)
図8 令和4年(2022年)の台風発生海域(1号~25号)と令和5年(2023年)の台風発生海域(1号~3号)

 図8は令和4年(2022年)の台風が発生した場所を表したもので、丸数字は台風番号で25号まであります。

 台風の発生海域が北西側にずれ、図8の楕円で囲んだ領域で台風が多く発生したことから、発生してすぐに日本に影響した台風が多い年でした。

 これに対し、令和5年(2023年)は、まだ3号までしか発生(図8の四角数字)していませんが、平常時より南東側で多く発生している傾向を示しています。

 令和5年(2025)年は、梅雨にも台風にも警戒が必要な年になりそうです。

タイトル画像、図4、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図3、図6の出典:気象庁ホーム―ページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図7、図8の出典:気象庁ホーム―ページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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