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フィリピンの東海上で台風1号の発生か 10年に1個は4月に沖縄や小笠原に接近

饒村曜気象予報士
熱帯低気圧になりそうなフィリピンの東海上の雲の塊(4月9日15時)

熱帯低気圧の発生か?

 フィリピンの東海上で積乱雲がまとまり始めてきました(タイトル画像参照)。

 現在は、気圧が周辺部より低くなっているだけの低圧部という段階ですが、この海域の海面水温は29度位と、台風発生の目安となる27度以上です(図1)。

図1 北西太平洋の海面水温分布図(4月8日の一部)
図1 北西太平洋の海面水温分布図(4月8日の一部)

 気象庁では、4月11日9時には熱帯低気圧の発生を予想しており、水平方向に風が収束し、鉛直方向に風速差がないなど、大気の状態によっては、今年初めての台風、つまり台風1号になるかもしれません(図2)。

図2 予想天気図(4月11日9時の予想で、図中のTDが熱帯低気圧、Lが低気圧、Hが高気圧)
図2 予想天気図(4月11日9時の予想で、図中のTDが熱帯低気圧、Lが低気圧、Hが高気圧)

4月の台風発生と平均経路

 台風の定義が「中心付近の最大風速が17.2m/s以上の熱帯低気圧」と決まった昭和26年(1951年)から台風の統計がありますが、昨年までの72年間に台風が1881個発生しています。

 年平均26.13個の発生ですが、月別にみると、一番多いのは8月の5.54個、一番少ないのは2月の0.26個です(図3)。

図3 月別台風発生数(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年)の1881個)
図3 月別台風発生数(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年)の1881個)

 1月から4月までの台風発生数の合計は年平均1.78個ですので、例年であれば、4月までには1~2個の台風が発生していることになります。

 筆者が過去に調べた4月の台風の平均経路は、ほとんどの台風が低緯度を西進してフィリピンの東海上に達しますが、中には、北上して沖縄近海から小笠原諸島近海を東進するものがあります(図4)。

図4 台風の4月の平均経路
図4 台風の4月の平均経路

 昭和26年(1951年)以降、沖縄に接近した台風は、令和3年(2021年)の台風2号など6個ありますので、年平均は0.08個です。

 また、小笠原・伊豆諸島に接近した台風は、令和4年(2022年)の台風1号など7個ありますので、年平均は0.10個です。

 つまり、4月に台風が北上し、沖縄地方や小笠原地方に接近することは、10年に1回くらいあるといえるでしょう。

 ただ、4月に上陸した台風が0というわけではありません。

4月に上陸した台風

 気象庁では、台風の気圧が一番低い場所が、九州・四国・本州・北海道の上にきたときを「台風上陸」といいます。

 沖縄本島など、島の上の通過や、岬を横切って短時間で再び海に出る場合は上陸ではありません。

 台風の平年値では、4月の上陸数はありません(表1)。

表1 令和5年(2023年)と平年の台風発生数・台風接近数・台風上陸数
表1 令和5年(2023年)と平年の台風発生数・台風接近数・台風上陸数

 ただ、平年値の計算が平成3年(1991年)からは、令和2年(2020年)までの30年平均ですので、この期間に4月の上陸台風がなかったということです。

 平成2年(1990年)以前では、1個だけあります。

台風の最も早い上陸

 台風の統計がある昭和26年(1951年)以降、一番早い上陸は昭和31年(1956年)の台風3号で、4月25日7時半頃、鹿児島県大隅半島南部に上陸しました(表2)。

表2 台風の上陸が早い台風(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年))
表2 台風の上陸が早い台風(昭和26年(1951年)~令和4年(2022年))

 昭和31年(1956年)の台風3号は、4月16日15時に発生したあと、フィリピンの東海上で935ヘクトパスカルまで発達しました。

 しかし、フィリピンのルソン島上陸で衰え、さらにバシー海峡付近で転向して北上するにつれてさらに衰え、大隅半島南部に上陸直後の4月25日9時には消滅しています(図5)。

図5 昭和31年(1956年)の台風3号の経路
図5 昭和31年(1956年)の台風3号の経路

 このため、台風が消えたと報じられました。

台風三号消える

台風三号は二十五日朝九州の南沖まできて消えた。中央気象台の観測では朝六時、台風の名残とみられる小さな低気圧が宮崎県沖にあるが、陸地では風もなく所によってにわか雨が降っただけ。しかしこのように四月中に台風が日本に近づいたのは、大正六年以来三十九年ぶりという珍しい記録を作った。

引用:昭和31年(1956年)4月25日朝日新聞夕刊

進歩している台風の進路予報

 今年も、台風シーズンがはじまりました。

 台風は一つ一つ異なった個性をもっており、年によって予報の難易度が異なっていますが、長期的にみると、台風の予報技術が飛躍的に向上しています(図6)。

図6 台風進路予報(中心位置の予報)の年平均誤差
図6 台風進路予報(中心位置の予報)の年平均誤差

 台風の進路予報で予報円表示が始まった昭和57年(1982年)は、24時間先までの予報しかありませんでしたが、予報誤差は平均で210キロもありました。

 それが、昨年、令和4年(2022年)は72キロと約3分の1になっています。

 昨年の96時間先(4日先)の予報でも平均誤差が195キロですから、40年前の24時間先の予報より精度が良くなっています。

 台風は、必ず南の海上からやってきますので、地震やゲリラ豪雨と違って不意打ちはありません。

 台風発生時は5日先までの予報が発表されますので、最新の台風情報を入手することで、防災対応をする時間を確保し、今の安全な生活を持続してください。

【追記(4月11日13時)】

 気象庁は、4月11日9時にフィリピンの東海上の熱帯低気圧は、今後24時間以内に台風に発達すると発表しました(図7)。

図7 今後24時間以内に台風に発生しそうな熱帯低気圧の進路予報(4月11日9時の予報)
図7 今後24時間以内に台風に発生しそうな熱帯低気圧の進路予報(4月11日9時の予報)

タイトル画像、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図1、図2、図5、図6、表2の出典:気象庁ホームページ。

図3、表1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図4の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年)、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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