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平年値があるが最早や最遅の記録はなくなった初雪

饒村曜気象予報士
初雪(写真:イメージマート)

冬型の気圧配置から移動性高気圧へ

 令和4年(2022年)11月30日は、西高東低の冬型の気圧配置が強まり、強い寒気が南下し、青森、秋田、山形では初雪を観測しました(表1)。

表1 令和4年(2022年)の初雪
表1 令和4年(2022年)の初雪

 このため、山陰から北の日本海側では断続的に雪や雨が降り、北日本の日本海側では平地でも降雪量が増えた、寒い師走入りとなりました。

 今冬は冬の訪れが遅く、11月27日に青森県八甲田山系の酸ケ湯で、最高気温が氷点下0.1度と、気温が0度未満となったのが、11月唯一の真冬日でした。

 しかし、12月1日には、札幌など165地点(約18パーセント)で真冬日となっています(札幌の最高気温は-3.5度)。

 青森では初雪が降り積もって、12月1日20時には28センチの積雪となっており、北日本ではそのほかの市街地でも積雪が増加している状況です。

 ただ、冬の初めでもあり、この冬型の気圧配置は長続きしません。

 12月2日は、大陸からの移動性高気圧に覆われてきますので、雲が多かった近畿~関東も晴れ間が広がる見込みです(図1)。

図1 予想天気図(左は12月2日9時の予想、右は12月3日9時の予想)
図1 予想天気図(左は12月2日9時の予想、右は12月3日9時の予想)

 とはいえ、2日以降も全国的に気温が上がりません。

 そして、移動性高気圧が通過した後は、再び西高東低の冬型の気圧配置となり、北海道の日本海側や東北北部を中心に雪の量は多くなる見込みです。

 師走と共に本格的な冬の寒さが始まりました。

 令和4~5年(2022~23年)の冬は、10月25~27日の寒気南下で始まったといえます。最低気温が氷点下となる冬日が、全国の約20パーセントで観測されました。

 その後、しばらくは冷え込まなかったのですが、立冬の少し前から冬日の観測地点数が増えていますが、冬日の観測地点数は、全国で気温を観測している915地点のうち約200地点(全体の20パーセント強)前後から大きく増えていません(図2)。

図2 夏日と冬日の観測地点数の推移(10月16日~12月1日)
図2 夏日と冬日の観測地点数の推移(10月16日~12月1日)

 冬への歩みが止まったのですが、師走に入ると季節が大きく冬へと進み、12月1日の冬日の観測地点数が約300地点となり、以後増加すると思われます。

大きく変わった初雪の観測

 各地の気象台職員が目視で行った各種観測は、平成31年(2019年)2月の関東甲信地方の8地方気象台を皮切りに、令和2年(2020年)2月からは青森など37地方気象台で自動化に移行しています。

 目視での観測を機器での観測と併用して行っているのは、札幌・仙台・東京・大阪・福岡の管区気象台と沖縄気象台、新潟・名古屋・広島・高松・鹿児島の地方気象台だけとなっています。

 この自動化により、管区気象台等の一部の気象官署を除き、目視で行っていた雲の量や形、視程(見通せる距離)の観測は終了しており、天気や初雪などの観測は新しい方法での観測に変わっているのです。

 つまり、11の観測地点以外の初雪の観測は、自動観測による天気の判別に基づいて、雪を判別し、それをもとに初雪を発表しています。

 11月30日に発表された青森地方気象台の初雪情報は、11月30日で、平年の11月8日に比べて22日遅く、前季に比べて7日遅いとなっていますが、過去一番の遅さという情報は入っていません。

 統計開始年が、令和3年寒候年(2021寒候年)となっているからです。

 平年値は、観測方法の変更前の目視観測データを自動観測相当データで補正した値を求めているので、平年値はあるのですが、最も早い日や最も遅い日の統計はありません。

 観測方法の変更前であれば、青森で観測が始まった明治20年(1887年)以降、最も遅い初雪の日は、平成27年(2015年)11月28日、次いで、昭和35年(1960年)11月26日です。

 自動観測による初雪の観測は、目視による観測より早まる傾向にありますので、今年の青森の初雪は、文句なく、135年間で最遅ということになりそうです。

早くなる自動観測の初雪

 自動観測となると、人には感じきれない微妙なみぞれを感知することがあります。

 みぞれは、雪と分類されますので、みぞれが降ると雪が降ったと判断されます。

 例えば、平成3年(2021年)12月14日に横浜で初雪が降っていますが、この時は、高気圧と高気圧の間で小さな低気圧が発生し、関東南部を中心に日中が雨となり、気温が上がりませんでした(図3)。

図3 地上天気図(平成3年(2021年)12月14日9時)
図3 地上天気図(平成3年(2021年)12月14日9時)

 この日の横浜でみぞれが降ったと判断されたのは、9時台のあわせて20分たらずです。

 湿度は51パーセントでしたが、気温は約6度と一般的には雪が降るにしては高い気温でした(図4)。

図4 令和3年(2021年)12月14日の横浜の気温と降水現象
図4 令和3年(2021年)12月14日の横浜の気温と降水現象

 もし、横浜で目視観測が継続されていたら、このような詳細な降水現象は観測できないと思われますので、初雪とは観測されなかったと思います。

 人間の感覚による観測と、機械による観測の差を比較したデータがあります(表2)。

表2 自動観測に伴う平年値(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年))の比較
表2 自動観測に伴う平年値(昭和56年(1981年)~平成22年(2010年))の比較

 これによると、全ての官署で自動観測のほうが早くなっています。

 特に、暖かい地域である南関東では大幅に早くなっています。

 これから、暖かい地方でも初雪が観測されますが、初雪の情報は、これまでと違っていることに注意が必要です。

図1、図3の出典:気象庁ホームページ。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4、表1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

表2の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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