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広い範囲で大雨が続いている場合の避難のタイミング

饒村曜気象予報士
広島県で発生した線状降水帯(8月13日9時10分)

広島市で大雨特別警報

 令和3年(2021年)8月中旬は、東日本から西日本付近に前線が停滞し、西日本を中心に大雨となっています(図1)。

図1 地上天気図(8月13日9時)
図1 地上天気図(8月13日9時)

 8月13日(金)8時48分には、これまでに経験したことのないような大雨となっているとして、広島市に大雨特別警報を発表しました。

 また、9時9分には、広島県では線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いているとして「顕著な大雨に関する全般気象情報」を発表しました。

 さらに、10時0分から国土交通省と共同で「緊急記者会見」を行い、大気海洋部の黒良龍太予報課長が最大限の警戒を呼びかけました。

 台風以外での「緊急記者会見」は異例のことで、過去には、平成30年(2018年)7月豪雨(通称「西日本豪雨」)直前の「緊急記者会見」があるくらいです。

 それだけを気象庁が極めて強い危機感をもっているものと思います。

広い範囲で長期間の大雨

 広島市の大雨特別警報は、13時に大雨警報に切り替えとなりましたが、気象庁では、今後、西日本から東日本では、ところによっては大雨特別警報を発表する可能性があるとしています。

 すでに長崎県の雲仙岳で700ミリを超えるなど、九州を中心に200ミリ以上の雨が降っている所があります(図2)。

図2 48時間降水量(8月11日12時から13日12時までの48時間)
図2 48時間降水量(8月11日12時から13日12時までの48時間)

 これに、さらなる大雨が広い範囲で降る見込みです。

 しばらく、本州付近に前線が停滞し、南から暖かくて湿った空気の流入が続くからです。

 気象庁は、早期注意情報を発表し、5日先までの警報級の可能性を「高」「中」の2段階で予測しています。

 これによると、8月13日から15日は、九州から東北まで多くの県で「高」または「中」となっています(図3)。

図3 大雨に関する早期注意情報(8月13日~18日)
図3 大雨に関する早期注意情報(8月13日~18日)

 また、16日以降は「高」または「中」の範囲が狭くなりますが、九州・中国・四国地方は「高」または「中」が18日まで続きます。

 つまり、これからしばらくは、広い範囲で長期間にわたる雨に対する警戒が必要となっているのです。

避難のタイミング

 今後、広島市以外の市町村で大雨特別警報を発表する可能性がありますが、特別警報が発表されてから避難するのでは手遅れとなります。

 自分の命、大切な人の命を守るため、特別警報の発表を待つことなく、地元市町村からすでに発令されている避難情報に直ちに従い身の安全を確保してください。

 ずっと雨が降り続いている今回のような状況の場合、どのタイミングで避難すればよいのだろうか迷う方がでてくると思います。

 しかし、迷うのは最悪です。

 迷っているうちに事態はどんどん悪くなります。

 市町村から警戒レベル4(避難指示)や警戒レベル3(高齢者等避難)が発表されたときはもちろんですが、気象庁から警戒レベル4相当の情報や警戒レベル3程度の情報が発表された時が避難のタイミングです(表)。

表 5段階の警戒レベルと防災気象情報
表 5段階の警戒レベルと防災気象情報

 警戒レベル5では安全な避難には遅すぎますので、この時点で避難していなかった場合は、避難にこだわらず、命を守るための最善な行動をとるということになります。

 警戒レベル5になる前、レベル3、レベル4の時点での避難行動を心がけてください。

長引くことを想定しての避難

 今回のように大雨が続いている場合は、避難が長くなることを想定してすみやかに避難することになります。

 このため持ち物が増えますが、増えすぎた場合は、「我慢できるか」という観点で持ってゆくものを絞ってください。

 食料など必要最小限のものは避難所に備蓄があり、速やかではないかもしれませんが補給もされます。

 「がまんしろ」と言われたときに一刻も我慢できないもの、それを最優先で多めに持って行ってください。

 例えば、赤ちゃんのミルクや持病の薬などです。

 また、夜間の移動は危険ですので、できるだけ明るいうちに避難してください。

 そして、避難中の火災を防ぐため、自宅を出る際には火の元を確認してガスの元栓を閉めてから避難してください。

 災害の状況によっては、想定していた避難場所への経路が危険という場合もあり得ますので、柔軟に考え、場合によっては、避難所へ行くのではなく、自宅や建物内でより安全な部屋へ移動するようにしましょう。

 避難が長引くと、「もう大丈夫だと思う」とか、「自宅が気になる」などと考えて家に戻る人がでてきます。

 気持ちは分かりますが、避難指示が解除されるまでは勝手に戻らないというのが二次災害に巻き込まれることを防ぎます。

タイトル画像、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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