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北側に強い風雨を伴った台風8号が東北~東日本に上陸か 東京オリンピックへの影響は

饒村曜気象予報士
タイトル画像 台風6号の雲の塊(左)と台風8号の雲の塊(右)(7月25日15時)

台風6号と台風8号

 沖縄県先島諸島では、台風6号がゆっくり通過したため、7月21日の早朝から24日の昼過ぎまでの約80時間も暴風が吹き荒れ、農作物を中心に大きな被害が発生しました。

 この台風6号は、東シナ海を北上して中国・華中に上陸し、まもなく華中で熱帯低気圧に変わる見込みです。

 一方、南鳥島近海の台風8号が進路を西寄りに変え、7月27日には東北~東日本に接近、上陸の可能性があります(図1)。

図1 台風6号と台風8号の進路予報(7月26日3時)
図1 台風6号と台風8号の進路予報(7月26日3時)

台風の進路予報は最新のものをお使いください

 台風8号の予報のように、台風が日本付近を西進するときには、ほとんどが台風の近くに寒冷低気圧が存在し、その寒冷低気圧と相互作用をしているときです。

 寒冷低気圧は、上空にある冷たい低気圧で、地上天気図を書いただけではわからない低気圧です。

 このため、昔は台風が急に西進する理由がまったくわからず、台風の進路予報が外れて大きな被害が発生していました。

 現在、日本の東海上を、寒冷低気圧がゆっくり南下しており、台風8号は、この寒冷低気圧の周辺を回るように移動しています。

 つまり、寒冷低気圧によって西へ振り回されているといえます(図2)。

図2 上空約7000メートルの気温分布と気温偏差の予測(左から25日15時、26日15時、27日15時)
図2 上空約7000メートルの気温分布と気温偏差の予測(左から25日15時、26日15時、27日15時)

 台風は発達すると、華南にある台風6号のように、上空7000メートルくらいまで周囲より気温が高い、暖かい低気圧になります。

 しかし、台風8号は、上空7000メートル付近でははっきりせず、気温も周囲より高くならない予報です。

 このことは、台風8号は、台風としてはそれほど発達しないことを意味しています。

 事実、台風の強度予報でも、暴風域を伴うまでは発達を予想していませんが、このことは、台風の被害が発生しないということではありません。

台風8号と類似の台風

 台風8号が東北地方の太平洋側に上陸した場合、台風統計がある昭和26年(1951年)以降では、平成28年(2016年)の台風10号に次ぐ2例目となります。

 この時も、上空の寒冷低気圧と相互作用をしていました。

 それ以前には、大正2年(1913年)8月27日に東北地方に上陸した台風くらいしかありませんので、50年に1度くらいの珍しい台風です。

 また、台風8号のように、日本付近を大きく西進する例として、平成30年(2018年)の台風12号がありますが、この時も寒冷低気圧と相互作用をしていました(図3)。

図3 日本付近を西進した台風の例
図3 日本付近を西進した台風の例

 平成30年(2018年)の台風12号は、台風8号より、経度にして8度くらい西を通り、7月28日から30日にかけて東海から西日本を通過しています。

 そして、「台風がきてもここは周囲より風が弱く高波が押し寄せない」と言われた場所でも被害が発生しています。

 局地的に台風の風が強まる場所や波が高くなる場所は、台風が東寄りに進む場合と、西寄りに進む場合は違います。

 日本付近を西へ進む台風は、普段とは違うという認識での警戒が必要です。

北側に強い風雨の台風8号

 台風8号は、多くの台風のように中心部に発達した雲の塊がありません。

 中心の北側や西側に発達した雲の塊があり、そこで強い風や雨となっていることが考えられます(タイトル画像、図1参照)。

 加えて、台風が接近する東北から東日本では、台風進路の右側(危険半円)に入ります。

 台風から離れていても雨や風に注意です。

 東北地方と東日本では、大気の状態が非常に不安定となり、7月27日にかけて雷を伴った非常に激しい雨が降り、大雨となる所があるでしょう(図4)。

図4 7月26日3時から29日3時までの72時間予想降水量
図4 7月26日3時から29日3時までの72時間予想降水量

 東北地方と東日本では土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫、暴風や高波に警戒・注意してください。

東京の天気

 東京オリンピックは、台風8号の接近で、スケジュール変更等、影響が出始めました。

 東京の16日先までの天気予報によれば、台風8号が接近する27日は雷雨で、その前後の日も傘マーク(雨)がついており、いずれの日も降水の有無の信頼度は5段階で一番高いAとなっています(図5)。

図5 東京の最高気温と最低気温の推移(7月25日~8月1日は気象庁、8月2~10日はウェザーマップの予報)
図5 東京の最高気温と最低気温の推移(7月25日~8月1日は気象庁、8月2~10日はウェザーマップの予報)

 東京オリンピック期間で、雨の可能性が高いのは、この3日間と、8月4日ですが、8月4日は降水の有無の信頼度が5段階で一番低いEです。

 東京の最高気温と最低気温の推移をみると、東京オリンピック開幕時までは、平年よりかなり暑い日が続いていました(図6)。

図6 東京の最高気温と最低気温の推移(7月25日~8月1日は気象庁、8月2~10日はウェザーマップの予報)
図6 東京の最高気温と最低気温の推移(7月25日~8月1日は気象庁、8月2~10日はウェザーマップの予報)

 しかし、台風8号により、最高気温・最低気温は平年より低くなり、その後は、ほぼ平年並みの日か平年よりやや高い日が続く予報です。

 猛暑日になりそうな極端に気温が高い日はなさそうですが、平年並みの暑い日の中でオリンピックの熱戦が繰り広げられることになりそうです。

タイトル画像、図1、図2、図4、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図3、図6の出典:気象庁資料をもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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