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島根・鳥取で線状降水帯が発生 記録的短時間大雨情報を作るきっかけとなった38年前の山陰豪雨

饒村曜気象予報士
解析雨量で見た線状降水帯(7月7日5時)

島根・鳥取で線状降水帯

 令和3年(2021年)7月7日の山陰地方は、梅雨前線が活発となって記録的な大雨となり、浸水やがけ崩れなどの被害が相次いでいます。

 島根県では5時頃から線状降水帯が発生し、「顕著な大雨に関する島根県気象情報」が5時9分発表されています(タイトル画像参照)。

 また、5時47分には記録的短時間大雨情報「5時40分島根県で記録的短時間大雨 松江市付近で約100ミリ」が発表となっています。

 さらに、鳥取県では6時50分頃から別の線状降水帯が発生し、「顕著な大雨に関する鳥取県気象情報」が6時59分発表されています。

 7月7日の降水量(24時間降水量)は、鳥取県倉吉で300ミリを超えるなど、日本海側の地方で多くなっています(図1)。

図1 7月7日の24時間降水量
図1 7月7日の24時間降水量

 気象庁では、1時間降水量が20ミリ以上30ミリ未満を「強い雨」、30ミリ以上50ミリ未満を「激しい雨」、50ミリ以上80ミリ未満を「非常に激しい雨」、80ミリ以上を「猛烈な雨」と表現しています。

 倉吉では、「非常に激しい雨」や「猛烈な雨」が降らなかったものの、「強い雨」が8時から16時まで降り続いたことで300ミリを超えました。

 線状降水帯による顕著な大雨は、毎年のように発生し、数多くの甚大な災害が生じています。

 気象庁では令和12年(2030年)までの10年計画で、早め早めの防災対応に直結する予測として「線状降水帯を含む集中豪雨の予測精度向上」に取り組んでいますが、その第一弾が、「線状降水帯」というキーワードを使って解説する「顕著な大雨に関する情報」です。

 令和3年(2021年)6月17日13時より始まった「顕著な大雨に関する情報」は、線状降水帯が発生したことをいち早く伝えることでより一層の警戒をよびかけるもので、予報ではありません(予報は来年度以降の計画)。

 「顕著な大雨に関する情報」の初発表は、この情報の開始から12日後の6月29日2時49分の沖縄本島地方です。

 沖縄付近に停滞していた梅雨前線は、南海上からの暖かくて湿った空気の流入によって活発化し、沖縄県の本島北部では線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続き、400ミリを超える大雨となりました。

 次いで、7月1日には東京都の伊豆諸島北部でも梅雨前線が活発となったことにより「顕著な大雨に関する情報」が発表となり、伊豆諸島でも400ミリを超える大雨となりました。

 そして、7月7日には島根県と鳥取県で3回目と4回目の「顕著な大雨に関する情報」が発表となっています(図2)。

図2 顕著な大雨に関する情報(6月29日から7月7日)
図2 顕著な大雨に関する情報(6月29日から7月7日)

 そんなに多く発表することがないと思われていた情報ですが、約20日間で4回と、想定以上の頻度です。

「顕著な大雨に関する情報」と「記録的短時間大雨情報」

 線状降水帯という言葉が頻繁に用いられるようになったのは、観測網が充実してきた平成26年(2014年)8月豪雨による広島市の土砂災害以降です。

 近年、線状降水帯が増えてきたというより、観測が充実したことから線状降水帯が原因であることが分かり、この線状降水帯による大雨が、災害発生の危険度の高まりにつながるものとして社会に浸透しつつあります。

 そこで、線状降水帯が発生していることを素早く伝えることで、より一層の警戒を呼び掛ける「顕著な大雨に関する情報」が作られたわけです。

 記録的な強雨の発生を素早く伝えることでより一層の警戒をよびかける「記録的短時間大雨情報」に似ています。

 「記録的短時間大雨情報」のきっかけとなったのは、38年前の山陰豪雨です。

昭和58年(1983年)の山陰豪雨

 昭和58年(1983年)は、7月20日から21日にかけて、低気圧が日本海を進んで梅雨前線の活動が活発となり、23日は本州の日本海側を中心に大雨となりました。

 特に島根県西部の浜田では、1時間降水量91.0ミリ(23日)、日降水量331.5ミリ(23日)を観測するなど記録的な大雨となっています。

 全国では、山がけ崩れや土石流、洪水によって死者・行方不明者117名、住家被害約3000棟、浸水被害1万9000棟などの大きな被害が発生しています。

 気象庁は、7月20日から23日にかけての大雨を「昭和58年7月豪雨」と命名したのですが、通称である「山陰豪雨」の方が有名です(図3)。

図3 地上天気図(昭和58年(1983年)7月23日9時)
図3 地上天気図(昭和58年(1983年)7月23日9時)

 「記録的短時間大雨情報」が設けられたのは、昭和58年(1983年)10月からで、この年の山陰豪雨と、前年の長崎豪雨などの経験から、すでに大雨警報が発令されていても、状況によっては、さらに注意を喚起する必要性があると考えられたためです。

 「記録的短時間大雨情報」は、大雨警報が発表中に、数年に1度しかないような集中豪雨が観測されると発表されますので、言わば“スーパー警報”だという受け止め方をされました。

 特別警報などがない時代の話です。

今週は大雨に警戒

 今週は、本州上に梅雨前線が停滞するという、似たような天気図の日が続きます(図4)。

図4 地上天気図(7月7日9時、21時)と予想天気図(7月8日9時、21時、9日9時の予想)
図4 地上天気図(7月7日9時、21時)と予想天気図(7月8日9時、21時、9日9時の予想)

 つまり、7月7日に山陰地方で大雨が降ったように、大雨が降りやすい状況が続きます。

 ただ、梅雨前線のちょっとした変化で、豪雨の場所が山陰ではなく九州北部、あるいは、北陸、東北の日本海側になるかもしれません。

 最新の気象情報の入手に努め、大雨が降っている、あるいは降りそうな地方では、土砂災害に厳重に警戒し、低い土地の浸水や河川の増水に警戒してください。

来週は梅雨明けか

 各地の10日間予報をみると、7月2日に平年より11日遅く梅雨明けした沖縄地方(那覇)は、お日様マーク(晴れ)と白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)の日が続きます。

 しかし、梅雨のさなかの九州から東北地方は、傘マーク(雨)や黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)日が、週明けの7月12日まで続きます(図5)。

図5 各地の10日間予報
図5 各地の10日間予報

 しかし、7月12日以降は、九州から東北地方でも、お日様マークや白雲マークの日が続くようになります。

 来週は、九州南部など、いくつかの地方で梅雨明けがあるかもしれません。

 九州南部の梅雨明けの平年は7月15日ですので、来週の梅雨明けならほぼ平年並みか、平年より早いといえるでしょう(表)。

表 令和3年(2021年)の梅雨明け
表 令和3年(2021年)の梅雨明け

 また、関東甲信地方の梅雨明けの平年は7月19日ですので、来週の梅雨明けなら平年より早いということができ、梅雨入りが平年より7日も遅い6月14日だったこともあわせると、短い梅雨期間といえそうです。

 梅雨末期豪雨が続いていますが、まもなく梅雨明けです。

 梅雨明けまでは、最新の気象情報などの入手に努め、大雨に対する警戒を緩めないでください。

タイトル画像、図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3、図4、表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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