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今年から本格的に始まる「熱中症警戒アラート」猛暑対策の重要な情報 4月第4水曜日から運用開始

饒村曜気象予報士
猛暑(提供:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

東日本大震災から始まった高温注意情報

 平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災により、全国的に省エネルギーや節電対策がとられるようになりました。

 福島原子力発電所の事故を受け、全国の原子力発電所が一斉に発電を停止したためです。

 このため、気温の上昇による熱中症が問題となり、気象庁では、同年7月から北海道と沖縄を除く45都府県で「高温注意情報」を発布することにしました。

 北海道と沖縄が除かれたのは、電力需給に余裕があったためですが、翌24年(2012年)からは47都道府県に拡大となっています。

 高温注意情報の発表基準は、最高気温の予想が35度以上の猛暑日になったときです。

 猛暑日を基準とすることはわかりやすいのですが、熱中症の危険性は、気温だけで決まるのではなく、湿度など含めた体感温度で決まります。

 このため、高温注意情報は熱中症対策には利用しづらいものでした。

暑さ指数(WBGT)

 熱中症対策に使われているのは、昭和32年(1957年)に米国陸軍での訓練の際の熱中症を予防することを目的として提案された「暑さ指数(WBGT:wet-bulb globe temperature)」です。

屋外:暑さ指数(WBGT)= 0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

屋内:暑さ指数(WBGT)= 0.7×湿球温度+0.3×黒球温度

 感部を布でおおって湿らせた湿球温度計で求めた温度が湿球温度と呼ばれるものです。

 空気が乾いていればいるほど蒸発熱を奪われて気温(乾球温度計で求めた温度)との差が大きくなります。

 また、黒球温度は、輻射熱を測るため、黒色に塗装された薄い銅板の球の中心に温度センサーを入れた黒球温度計で測る温度です(図1)。

図1 乾湿温度計と黒球温度計の説明図
図1 乾湿温度計と黒球温度計の説明図

 環境省では、平成18年(2006年)から、熱中症の危険性を示す「暑さ指数」の情報提供をホームページで始めています(表1)。

表1 暑さ指数(WBGT)の使い方(日本生気象学会(2013)より)
表1 暑さ指数(WBGT)の使い方(日本生気象学会(2013)より)

 暑さ対策に有効な「暑さ指数」でしたが、暑さ指数の単位は、気温の単位と同じ「度」であることに加え、基準が分かりにくいこともあって一般への認知度が低く、あまり活用されていませんでした。

熱中症警戒アラート

 そこで、環境省と気象庁は、広く情報を知ってもらい、熱中症で救急搬送される人を減らそうと令和2年(2020年)7月から試行として、「熱中症警戒アラート」を共同で関東甲信の1都8県で始めました。

 「暑さ指数」31度以上が危険ですが、「熱中症警戒アラート」の基準は、さらにその上の33度です。

 「熱中症警戒アラート(試行)」の初めての発表は、令和2年(2020年)8月6日です。

 翌7日は、太平洋高気圧のまわりを北上してくる暖気は湿っており、湿度の高い暑さ、熱中症になる危険性が高い暑さとなる予想から、東京都、千葉県、茨城県に「熱中症警戒アラート」が発表となりました。

 そして、本日、令和3年(2021年)4月28日から「熱中症警戒アラート」の運用を全国で始めました(表2)。

表2 熱中症警戒に関する情報の推移
表2 熱中症警戒に関する情報の推移

 今年から始まった「熱中症警戒アラート」は、全国を58地方に分け、毎年4月の第4水曜日から10月の第4水曜日まで行うもので、発表時間は5時と17時の1日2回です(表3)。

表3 「熱中症警戒アラート」の発表地域
表3 「熱中症警戒アラート」の発表地域

 令和3年(2021年)は4月の第4水曜日が、4月28日です。

運用開始日の天気

 「熱中症警戒アラート」の運用開始日、令和3年(2021年)4月28日は、日本列島に晴天をもたらした大きな移動性高気圧が南東海上に去り、東シナ海から西日本へ前線が伸び、この前線上に低気圧が発生することが予想されています(図2)。

図2 予想天気図(4月28日9時の予想天気図)
図2 予想天気図(4月28日9時の予想天気図)

 このため、ほぼ全国的に曇りから雨の予報で、最高気温は、那覇市で25度、その他の地方では20度前後の予想です。

 北海道では5月下旬並み、その他の地方はほぼ平年並みの春の気温で、「熱中症警戒アラート」が発表されるような高温にはなりません(図3)。

図3 4月28日の天気予報(数字は最高気温の予想と前日差)
図3 4月28日の天気予報(数字は最高気温の予想と前日差)

 運用開始日早々に発表はないと思われますが、令和2年(2020年)まで3年連続で熱中症による死者が年間1000人を超えています。

 加えて、今年、令和3年(2021年)は夏に東京オリンピック・パラリンピック開催を控えています。

 今後の熱中症対策に「熱中症警戒アラート」が重要な役割をすると思います。

 政府も、東京オリンピック・パラリンピックでの対策強化や、高齢者の屋内での熱中症対策、新型コロナ対策との両立などに対応するため、令和3年(2021年)4月25日に「熱中症対策行動計画」を作成しています。

25日の会議では小泉環境相が「熱中症は適切な対策で予防が可能な疾病だ。できる限り早期に死亡者数を顕著な減少傾向に転じさせる」と述べた。

引用:読売新聞(令和3年(2021年)3月26日)

 世界的に気温と湿度が高くなっており、日本も例外ではありません。

 このため、最高気温が35度以上(猛暑日)の日数の増加より、最高暑さ指数が33度以上の日数の増加が目立っています(図4)。

 それだけ、「熱中症警戒アラート」の活用が期待されています。

図4 東京における最高気温35度以上の日数(折れ線グラフ)と暑さ指数33度以上の日数(棒グラフ)
図4 東京における最高気温35度以上の日数(折れ線グラフ)と暑さ指数33度以上の日数(棒グラフ)

 小泉環境大臣ではありませんが、熱中症による死者は対策によって防げるものです。

 「熱中症警戒アラート」は、熱中症の危険性が極めて高い環境が予測される場合の発表ですので、発表されたら直ちに命を守る行動が必要です。

図1の出典:著者作成。

図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:環境省資料をもとに著者作成

表1の出典:日本生気象学会資料をもとに著者作成。

表2、表3の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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