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強い台風並みに発達した低気圧と発生しそうな台風1号と予報円の英語呼称

饒村曜気象予報士
北海道近海の台風並みに発達した低気圧の雲(2月16日15時)

強い台風並みに発達した低気圧

 北海道近海で低気圧が強い台風並みに発達し、2月16日には北海道の襟裳岬では最大風速32.3メートル、最大瞬間風速44.9メートルを観測しました。

 低気圧の中心気圧は946ヘクトパスカルとなり、低気圧をとりまく雲の渦がはっきりしました(タイトル画像参照)。

 北日本から北陸では2月17日も暴風が吹き荒れ、低気圧の発達によって南下した強い寒気によって北日本の日本海側から北陸では大雪となりました。

 富山県朝日町では14時までの3時間に19センチという顕著な降雪を観測し、富山地方気象台は「顕著な大雪に関する気象情報」を発表しました。

 強い台風並みに発達した低気圧は、中心気圧が少し高くなって千島近海に進みますので、2月18日は前日に比べて等圧線の間隔が若干広くなり、暴風がすこし納まってくる見込みです(図1)。

図1 予想天気図(2月18日9時の予想)
図1 予想天気図(2月18日9時の予想)

 とはいえ、日本の上空には強い寒気が流れ込んでおり、強い冬型の気圧配置が続いていることには変わりがありません。

 北陸から西日本の日本海側では24時間で50センチ以上の降雪が予想されています(図2)。

図2 予想降雪量(2月18日3時から19日3時までの24時間予想)
図2 予想降雪量(2月18日3時から19日3時までの24時間予想)

 引き続き、北日本から西日本では非常に強い風が吹いて大しけとなり、大雪となる所がある見込みですので、猛ふぶきや吹きだまりによる交通障害や暴風、強風、高波に警戒・注意してください。

南の海上では台風発生の気配

 日本付近は台風並みに発達した低気圧によって真冬の様相の雲が広がっていますが、日本のはるか南のカロリン諸島では雲が丸くまとまり、夏の様相の雲、熱帯低気圧の雲があります(図3)。

図3 カロリン諸島付近にある熱帯低気圧の可視画像で見た雲(2月17日15時)
図3 カロリン諸島付近にある熱帯低気圧の可視画像で見た雲(2月17日15時)

 熱帯低気圧周辺の海面水温は、台風が発達する目安とされる27度を上回っており、今後24時間以内に台風にまで発達する見込となっています(図4)。

図4 熱帯低気圧の予報(2月18日0時発表の予想)
図4 熱帯低気圧の予報(2月18日0時発表の予想)

 台風が発生すれば、令和3年(2021年)で初めての台風ですので、台風1号となります。

【追記(2月18日16時)】

 カロリン諸島の熱帯低気圧は、2月18日15時に台風1号に発達しました。

 平成31年(2019年)1月1日15時、南シナ海西部で台風1号が発生し、気象庁が台風の統計をとり始めた昭和26年(1951年)以降で、最も早く発生した台風となりました。

 しかし、台風は暖かいと多く発生するということから、その年の台風シーズンは、北半球の気温が1 番低くなって、これから暖かくなる2月後半から始まると考えられます。

 つまり、平成31年(2019年)の台風1号は前年のシーズンの名残であって、平成31年・令和元年(2019年)の台風シーズンが早く始まったことを意味していません。

 令和3年(2021年)2月18日に台風1号が発生したことは、令和3年(2021年)の台風シーズンが、早くも始まったということができるでしょう。

 図5は資料が少し古くなりますが、以前に筆者が調査した2月と3月の平均進路です。

図5 台風の2月の平均進路(左)と3月の平均進路(右)
図5 台風の2月の平均進路(左)と3月の平均進路(右)

 2月と3月の台風は、北緯10度以下の低緯度で発生することもあって、低緯度を西進することが多くなっています。

 令和3年(2021年)の台風1号も、過去の2月の台風のように西進し、日本には影響がなさそうです。

予報円の英語呼称

 気象庁では、日本には影響がないといっても、北西太平洋の台風については、世界気象機関(WMO)の役割分担として責任をもって全て予報をしています。

 従って、気象庁の発表する台風予報は、日本だけでなく諸外国も使われていますので、常に英文でも発表されます。

 今回の台風になりそうな熱帯低気圧についても同様です。

 ここで、予報円の説明文は「Probability circles show expected tropical cyclone center locations with a probability of 70% for individual forecast times, but do not indicate changes in scale.」となっています。

 つまり、「probability circle」が予報円で、和訳は「予報円は70%の確率で台風の中心が入る範囲を表しており、台風の大きさの変化を表すものではありません」です。

 今から39年前、昭和57年(1982年)6月から「予報円」の使用が始まると決まった時、英語呼称をどうするかということが問題となり、なかなか決まりませんでした。

 手元に気象庁予報課の「主任予報官会議のメモ(昭和57年(1982年)5月28日)」がありますが、英語呼称の候補に「error circle」「forecast circle」「prognostic circle」「probability circle」「probable circle」「confidence circle」が記載されています。

 そして、予報円の使用開始3日前の会議の結論は次のようなものでした。

 予報課としては外国の気象関係者に説明するときは「error circle」を使い、船舶向けの英文警報では「with expected uncertainty of … miles radius」を使うとして、外国との連携を担当している企画課など、庁内各課と調整する。

 簡潔、適切、国際的な慣用の条件などから、立場の違った様々な意見があり、現在使われている「probability circle」になるまで時間がかかりました。

 日本の台風予報が、北西太平洋を航海している船舶や、アジア各国で使われているゆえの遅れです。

タイトル画像、図2、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:饒村曜・宮澤清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計 月別発生数・存在分布・平均経路、研究時報、気象庁。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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