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11月としては珍しい経路の台風20号と沖縄近海の高い波

饒村曜気象予報士
沖縄の南海上の台風20号の丸い雲と東西にのびる停滞前線の雲(11月4日15時)

台風20号の経路

 沖縄の南海上で台風20号の動きが遅くなっています。

 今後、台風20号は西進してバシー海峡を通って南シナ海に入る予報となっています(図1)。

図1 台風20号の進路予報(10月5日0時)
図1 台風20号の進路予報(10月5日0時)

 台風20号の進路予報は最新のものをお使いください。

 少し古い筆者の調査ですが、平均的な11月の台風の多くは、低緯度を西進してフィリピンやインドシナ半島に上陸します。

 また、まれに沖縄の南海上まで北上してくると、その後も北上して本州の南海上を東進します(図2)。

図2 台風の平均経路(11月)
図2 台風の平均経路(11月)

 これは、11月ともなると、強い偏西風が沖縄近海まで南下していることが多く、この偏西風に乗るからです。

 しかし、令和2年(2020年)の台風20号は違います。

 沖縄の南海上まで北上したあと、動きが遅くなり、その後西進する予報で、11月としては、非常に珍しい経路です。

高い波

 10月29日21時にカロリン諸島で発生した台風20号は、西北西進してフィリピンの東海上に達したあと、速度が落ちています。

 11月2日から4日にかけ、ゆっくり北上し、沖縄の南海上に達しています(図3)。

図3 台風20号の減速
図3 台風20号の減速

 その後、西進する予報ですが、11月5日でも沖縄の南海上にいます(図4)。

図4 予想天気図(11月5日9時の予想)
図4 予想天気図(11月5日9時の予想)

 西高東低の冬型の気圧配置となった11月4日朝に、東京地方で「木枯らし1号」が吹きましたが、この西高東低の気圧配置は一時的でした。

 日本列島は、大きな移動性高気圧におおわれ、広い範囲で晴れて風も弱くなっています。

 しかし、沖縄近海だけ波が高くなっています(図5)。

図5 沖縄近海の波の予報
図5 沖縄近海の波の予報

 これは、台風20号の動きが遅く、台風の北側の海域では、東寄りの強い風が吹き続けているからです。

 一般的に、強い風が吹くと波が高くなりますが、風の強さが同じでも、風が吹き渡る距離(吹走距離)が長くなると、波は蓄積されて高くなります。

 また、風の強さと吹走距離が同じでも、風が吹いている時間(吹走時間)が長いほど波が高くなります。

 台風20号の北側の海域は、強い風と長い吹走距離、長い吹走時間という、波を発達させる3つの要素がそろっています。

 そこで発生した高い波はうねりとなって沖縄近海に到達しますので、風が弱くても高波に注意が必要です。

タイトル画像、図1、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図3の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。

図4の出典:気象庁ホームページ。

 

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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