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東京地方に発表の「木枯らし1号」は1都2府4県のみの情報

饒村曜気象予報士
木枯らし(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

東京地方で「木枯らし1号」

 木枯らしは、晩秋から初冬の間に吹く風で、冬の季節風の走りの現象です。

 昭和47年(1972年)にフジテレビ系列でヒットした、笹沢左保の股旅物時代小説で、主人公の異名でもある「木枯らし紋次郎」の出身地は、上州新田郡三日月村(群馬県太田市)であるように、群馬県など関東地方で顕著な現象です。

 気象庁では、木枯らしが最初に吹いた日を、「木枯らし1号」として情報を発表していますが、関東地方での発表は、東京地方(島しょ部を除く東京都)のみです。

 西高東低の気圧配置となり、関東地方の多くの県で、毎秒8メートル以上の強い風が吹いても、東京管区気象台の観測所のある東京都千代田区で毎秒8メートル以上の風が吹かなければ「木枯らし1号」の発表はありません。

 また、東京地方以外では、近畿地方(2府4県をまとめて)だけの発表です。

 これは、気象庁は、天気に関する問い合わせが多い東京と大阪に天気相談所を設置しており、そこで調査をしたという経緯と関係があります。

 北海道と沖縄県以外の地方に発表される「春一番」の情報より、防災上の意味合いが弱いため、ほぼ全国での発表ではなく、東京地方と近畿地方で代表させている情報です。

 令和2年(2020年)の「木枯らし1号」は、近畿地方で10月23日に吹きましたが、東京地方も、11月4日朝に吹きました。

 北日本から東日本に今冬一番の寒気が南下し、西高東低の冬型の気圧配置となって、毎秒8メートル以上の強い風(平均風速は北西の8.2メートル、最大瞬間風速は西北西の15.8メートル)が吹いたためです(図1)。

図1 地上天気図(11月4日3時)
図1 地上天気図(11月4日3時)

 昨年、一昨年と2年連続して「木枯らし1号」が吹いていませんので、3年ぶりの「木枯らし1号」です。

「木枯らし1号」の定義

 気象庁の天気相談所で、東京地方の「木枯らし1号」の情報を発表しだしたのは、昭和40年頃(1965年頃)と言われています(詳細不詳)。

 日本気象協会の月刊誌「気象」で、「木枯らし1号」の記述があるのは、昭和43年(1968年)からですが、「木枯らし1号」が広く認知されるようになったのは、前述の「木枯らし紋次郎」がヒットした昭和47年(1972年)以降です。

 「木枯らし1号」の定義は、時代とともに少しずつ変化しており、現在の定義となったのは、平成3年(1991年)からです。

(東京地方の「木枯らし1号」の定義)

10月半ばから11月末において、

西高東低の気圧配置で、

東京の風向が西北西から北、風速が毎秒8メートル以上のとき

(近畿地方の「木枯らし1号」の定義)

霜降(10月23日頃)から冬至(12月22日頃)において、

西高東低の気圧配置で、

総合判断で、近畿地方で風向が北よりの風、風速が毎秒8メートル以上のとき

「木枯らし1号」の記録

 近畿地方の「木枯らし1号」は、現在と同じ発表基準となった平成3年(1991年)以降では、最早が今年、令和2年(2020年)と、平成5年(1993年)の10月23日です。

 定義から、霜降の日が最早の日ですので、これ以上早いことはないと思われます。

 また、最晩が、平成16年(2004年)の12月19日ですが、冬至まで少し日数がありますので、記録更新の可能性があります。

 そして、「木枯らし1号」が吹かなかったのか、平成4年(1992年)の1回、平均が11月8日です。

 一方、東京地方の「木枯らし1号」は、平成3年(1991年)以降では、吹かなかったのは、令和元年(2019年)と平成30年(2018年)の2回、平均は11月5日です。

 令和2年(2020年)は、近畿地方が東京地方より早く吹きましたが、多くの年は、東京地方の方が早いことが多く、平均では3日早く吹きます。

 また、平成3年(1991年)以降では、東京の最早は平成8年(2000年)の10月18日、最晩は平成5年(1993年)の11月22日です(図2)。

図2 平成3年以降の東京地方と近畿地方の「木枯らし1号」の発表日
図2 平成3年以降の東京地方と近畿地方の「木枯らし1号」の発表日

 東京地方は、気象庁の天気相談所で昭和26年(1951年)まで遡って「木枯らし1号」が求められていますが、それによると、最早は昭和63年(1988年)の10月13日、最晩が昭和56年(1981年)の11月28日です。

 定義から、最早日は更新の余地はほとんどありませんが、最晩日は1日から2日更新の余地があります。

 今季一番の寒気の南下で、北日本だけでなく東日本の高い山では雪となっています。

 新型コロナウイルスだけでなく、季節性のインフルエンザにも注意が必要な冬が始まります。

図1の出典:気象庁ホームページ

図2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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