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相次ぐ猛暑日と大気不安定の雷雨、最高気温が40度以上の日の名前が必要な時代へ

饒村曜気象予報士
雷雨後の二重虹(5月13日に東京都杉並区高円寺で著者撮影)

連日「熱中症警戒アラート」

 令和2年(2020年)は、8月に入ると夏日(最高気温が25度以上の日)や真夏日(最高気温が30度以上の日)、猛暑日(最高気温が35度以上の日)の観測地点が増えています。

 北日本を除いて太平洋高気圧におおわれて晴れた日本列島は、強い日射で気温が上昇し、群馬県伊勢崎市などで40度以上を観測した11日には及ばないものの、各地で猛暑日や真夏日を観測しています(図1)。

図1 令和2年(2020年)7月1日以降の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数
図1 令和2年(2020年)7月1日以降の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数

 太平洋高気圧のまわりを北上してくる暖気は湿っており、湿度の高い暑さ、つまり、熱中症になる危険性が高い暑さとなります。

 気象庁と環境省は8月6日夕方に、東京都、千葉県、茨城県に「熱中症警戒アラート」を発表し、8月7日は、外出はなるべく避け、室内をエアコン等で涼しい環境にして過ごしてくださいと呼び掛けています。

 これが、「熱中症警戒情報」の初めての発表です。

 その後も、湿度が高くて高温の、熱中症がおきやすい状況が続いたため、連日「熱中症警戒アラート」を発表となっています。

 そして、8月15日に対しては、関東甲信の1都7県に対しての発表となっています(表)。

表 「熱中症警戒アラート」が発表された日(対象の1都8県)
表 「熱中症警戒アラート」が発表された日(対象の1都8県)

 「熱中症警戒アラート」が発表されたら、また、基本的に運動は行わないようにすると共に、身近な場所での「暑さ指数」を確認し、熱中症予防のための行動をとる必要があります。

 また、気象庁では、特に気をつけていただきたいこととして、次の3点をあげています。

・高齢者は、温度、湿度に対する感覚が弱くなるために、室内でも夜間でも熱中症になることがあります。

・小児は、体温調節機能が十分発達していないために、特に注意が必要です。

・晴れた日は、地面に近いほど気温が高くなるため、車いすの方、幼児等は、より暑い環境になります。

愛知県では「独自の熱中症警戒アラート」

 「熱中症警戒アラート」は、気象庁と環境省が共同で、令和2年(2020年)7月1日から10月28日にて発表している情報です。

 令和3年度(2021年度)から全国展開を予定していますが、現時点では、関東甲信地方だけを対象として発表する情報です。

 つまり、8月15日は1都7県だけが熱中症に厳重警戒すればよいというわけではありません。

 気象庁が高温注意情報を発表している東北、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄の各地方でも、「熱中症警戒アラート」が発表されるような状態になる可能性があります。

 環境省熱中症予防情報サイトによると、熱中症警戒レベルは、東海から西日本では多くの地点で熱中症警戒レベルが「危険」、「極めて危険」となっており、関東だけが危険であるわけではないことを示しています(図2)。

図2 熱中症警戒レベルの予想(8月15日、環境省熱中症予防情報サイトによる)
図2 熱中症警戒レベルの予想(8月15日、環境省熱中症予防情報サイトによる)

 また、愛知県では、気象庁と環境省が共同で行っている「熱中症警戒アラート」と、ほぼ同様の情報を発令しています(愛知県では発表ではなく発令としています)。

 それが、愛知県の木村秀章知事が、8月11日の記者会見で発表した、県独自の熱中症警戒アラートです。

 名称は同じですが、別物です。

 これは、愛知県が愛知県民に熱中症に対する注意を喚起するため、8月12日から9月15日までの間、気象条件から特に熱中症に対する警戒が必要と考えられる場合に発令するものです。

 初めての発令は、知事の記者会見の翌日、8月12日です。

 そして、8月15日に対しても発令されています。

意外と小さい太平洋高気圧

 日本を覆っている太平洋高気圧は、優勢なようで、その大きさは意外と小さいものです。

 令和2年(2020年)の東北地方北部の梅雨明けは、立秋(8月7日)をすぎるまで梅雨前線が停滞していたため、「梅雨明けが特定できない」となりました。

 その後も、前線が東北地方に停滞することが多く、太平洋高気圧が前線を北海道の北まで押し上げる力はありませんでした。

 また、上空に寒気が流入しやすく、下層への暖かくて湿った空気の流入と強い日射によって大気が非常に不安定となり、関東を中心に積乱雲が発達し、雷雨となっています。

 特に、8月12日と13日は、激しい雷雨となり、そのあとには虹がみられました(タイトル写真参照)。

 8月14日は、上層に寒気が流入しなかったことや、気温が前日ほどには上がらなかったことから、大気は不安定にはならず、その結果として激しい雷雨にはなりませんでした。

 しかし、8月15日は違います。

東北の大雨と東日本から西日本の暑さ

 8月15日は、前線を伴なった低気圧が北日本を通過し、前線や低気圧に向かって、暖かく湿った空気が流れ込む予報です(図3)。

図3 予想天気図(左は8月15日9時、右は16日9時の予想)
図3 予想天気図(左は8月15日9時、右は16日9時の予想)

 このため、東北地方を中心に大気の状態が非常に不安定となり、100ミリ以上の雨が降る見込みで、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒が必要です。

 気象庁が発表している早期注意情報では、秋田県と山形県で大雨警報を発表する可能性が「高」となっています(図4)。

図4 早期注意情報(8月15日朝から夜遅く)
図4 早期注意情報(8月15日朝から夜遅く)

 関東地方は広く晴れますが、上空には寒気が入りやすく、午後は大気不安定となり、にわか雨や雷雨となる所がありそうです。

 北関東では激しい雷雨となるおそれもあります。

 ただ、東日本の太平洋側では太平洋高気圧におおわれて暑くなり、関東甲信や東海、近畿では40度近くまで気温の上がる所もある予報です。

 広く熱中症の危険度が極めて高い状態となるため、水分補給はもちろん、不要不急の外出は避けて屋内でも冷房を適切に使用するなど、熱中症対策を普段以上に徹底する必要があります。

 8月16日以降も、多くの地方で暑い日が続きますが、太平洋高気圧がゆっくり西進していることから、暑さの中心は関東から東海・西日本へ移動します(図5)。

図5 ウェザーマップによる各地の10日間の最高気温の予報
図5 ウェザーマップによる各地の10日間の最高気温の予報

 名古屋や大阪、高知では猛暑日が10日以上続きますし、北海道を除くその他の地方も真夏日が続く予報です。

 しばらくは、熱中症に警戒する日が続きます。

最高気温が35度以上の日が増えたので新用語「猛暑日」

 最高気温が35度の日を猛暑日と呼びますが、気象庁が平成19年(2007年)7月から使われている、比較的新しい言葉です。

 気象庁が用いている「予報用語」を7年ぶりに見直すのに合わせ、気象予報士や国民の意見を聞いたうえで決定しました。

 地球温暖化や都市化の影響で、最高気温が35度以上になる日が平成になってから急増し、主要都市(東京、名古屋、大阪、福岡)の合計で、平成9年(1997年)から平成18年(2006年)の10年間で335日と、昭和42年(1967年)からの10年間の121日の3倍近くになりました。

 このため、熱中症予防のためにもわかりやすい言葉を求める声が出ていたことから、気象庁は一般的な「猛暑」を活用することにしたのです。

最高気温が40度以上の日に新しい名称を

 気象庁が、猛暑日を採用する5年前以上前から、最高気温が35度以上日に名称をつける動きはあり、テレビ局等では「酷暑日」が使われたりしていました。

 しかし、気象庁は新語を作ることに慎重でした。

チョーアツイ 「真夏日」超えている 35℃以上 呼称は何 TVは『酷暑日』も 冷めた気象庁『新語に慎重』

 猛暑続きで最高気温が35度を超す日が急増している。

 東京都心ではかつて年に1日あるかないかだったが、1990年代には年平均3.7日まで急増し、今月だけでも15日までに6日もあった。気象庁内でも「真夏日(30度以上)では表現しきれない暑さだ」との声が聞かれるが、35度以上の日を表す新しい名前は、まだない。…

 この最高気温35度以上の日を、天気キャスターの森田正光さんは「酷暑日」と呼んでいる。「数年前に番組で視聴者から公募したら『熱帯日』が多かったが『酷暑日』『猛暑日』もあった。当初は『熱帯日』を使ったが、熱帯夜と重なるので『酷暑日』を使いだしました」と言う。新聞など報道機関も時々「酷暑日」を使う。

 だが、気象庁の用語集に「酷暑日」はない。予報に使えない解説用語として「酷暑」はあるが「厳しい暑さ」の意味とされているだけだ。同庁予報課の青木孝課長は「『酷暑日』のような新しいネーミングは検討していない。新用語を決める時は気象庁だけで勝手にやるのでなく事前に報道機関にも相談するが、新しい言葉をつくることには慎重でありたい」と話す。

出典:東京新聞(2002.8.16夕刊)

 新用語採用に慎重だった気象庁が、新用語採用に踏みきったのは、最高気温が35日以上の日が増え続け、大きな社会問題となってきたからです。

 その後も、最高気温が35度以上の日は増え続け、現在は、最高気温が40度以上の日も珍しくなくなっています。

 今から約20年前、猛暑日誕生の少し前のように、最高気温が40度以上の日に新しい名称をつける試みが必要な時期ではないでしょうか。

 個人的には、20年前に森田正光さんが使い始めた「酷暑日」を、あらためて、40度以上の日と定義して使うのが良いと思っています。

 また、日最低気温が25度以上の日を熱帯夜といいますが、熱帯夜どころではなく、日最低気温が30度以上の日があります。

 めったに出現しない現象で、「超熱帯夜」といわれることがありますが、まだ、一般的に使われている言葉ではありません。

 ただ、平成31年(2019年)8月14日の新潟県・糸魚川では、台風14号によるフェーン現象で、日最低気温30.8度を観測するなど、増加傾向にあります。

 最低気温が30度以上の日にも、新しい名称が必要になるかもしれません。

タイトル写真の出典:著者撮影。

図1の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料から著者作成。

図2、図4、図5の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:気象庁ホームページ。

表の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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