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初めて現象継続中に命名された「令和2年7月豪雨」、少なくともあと3日間は警戒

饒村曜気象予報士
「令和2年7月豪雨」で大雨特別警報を発表した7県

現象継続中に命名

 気象庁では、顕著な災害を起こした自然現象について名称を定めており、令和2年7月9日に、同年7月3日より続いている豪雨を「令和2年7月豪雨」と命名しました。

 これは、防災関係機関等による災害発生後の応急・復旧活動の円滑化を図るとともに、当該災害における経験や貴重な教訓を後世に伝承することを期待するものです。

 気象庁のホームページには、下記のように、名称を定める基準と付け方が掲載されています。

名称を定める基準及び付け方

(1) 気象(台風を除く)

ア 名称を定める基準

 顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上または浸水家屋10,000棟程度以上の家屋被害、相当の人的被害、特異な気象現象による被害など)が発生した場合

イ 名称の付け方

 原則として、「元号年+月+顕著な被害が起きた地域名+現象名」とします。

 ここで「現象名」とは、豪雨、豪雪、暴風、高潮等をいいます。

 なお、地域名については、被害の広がり等に応じてその都度判断します。また、豪雪については、被害が長期間にわたることが多いため、冬期間全体を通した名称とします。

(2) 台風

ア 名称を定める基準

 顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上または浸水家屋10,000棟程度以上の家屋被害、相当の人的被害など)が発生し、かつ後世への伝承の観点から特に名称を定める必要があると認められる場合

イ 名称の付け方

 原則として、「元号年+顕著な被害が起きた地域・河川名+台風」とします。

 ここで「顕著な被害が起きた地域・河川名」とは、後世への伝承の観点に着目して最も適した都道府県名、市町村名、地域名、河川名等をいいます。

出典:気象庁ホームページ

 気象庁がこれまで正式に命名した自然現象は、洞爺丸台風と名付けた昭和29年の台風15号以降、31個ありますので、「令和2年7月豪雨」は32個目ということになります(表1)。

表1 顕著な災害を起こした自然現象のうち気象の名称
表1 顕著な災害を起こした自然現象のうち気象の名称

 名称を定める時期については、名称を定める基準を満たす場合、できるだけ速やかに名称を定める(台風の名称は翌年の5月までに定めることを原則)としていますが、これまでの31個は災害発生後の命名です。

 中には、災害発生後、かなりたってから命名したものもあります。

 例えば、洞爺丸台風は、狩野川台風を命名した時に、一緒に命名したものです。

 しかし、「令和2年7月豪雨」は、初めての継続中の現象の命名です。

 「令和2年7月豪雨」は、少なくとも12日(日)までは続く、比較的長期間の現象です。

 防災関係機関等による応急・復旧活動を一刻も早く、円滑に始めるために、現象の終了を待てなかったものと思われます。

「令和2年7月豪雨」はいつまで続く?

 「令和2年7月豪雨」は、梅雨の中休み後の7月3日から始まりました。

 そして、大雨特別警報が7県で発表となるなどの記録的な大雨が各地で降っています(表2)。

表2 「令和2年7月豪雨」の最初の一週間で発表された大雨特別警報
表2 「令和2年7月豪雨」の最初の一週間で発表された大雨特別警報

 7月3日0時から9日24時までの168時間(7日間)降水量は、東海地方から紀伊半島、四国、九州で200ミリを超え、鹿児島県鹿屋で1108.5ミリなど、1000ミリを超えたところもあります(図1)。

図1 168時間降水量(7月3日0時から9日24時)
図1 168時間降水量(7月3日0時から9日24時)

 7月10日以降も、日本列島に停滞した梅雨前線に向かって、暖かくて湿った空気が流入し、大気が不安定となり、積乱雲が発達する予想です。

 特に、10日から11日は、梅雨前線上の東シナ海で発生した低気圧がやや発達しながら、日本海を通過する見込みです(図2)。

図2 予想天気図(左は7月10日9時、右は7月11日9時の予想)
図2 予想天気図(左は7月10日9時、右は7月11日9時の予想)

 このため、南から暖かくて湿った空気がより多く北上し、北から南下する寒気と相まって大気が非常に不安定となりますので、積乱雲が発達し、場合によっては線状降水帯ができて、記録的な大雨となるかもしれません。

 36時間予想降水量は、東海から西日本、特に九州で大雨となっていますが、この地域は、すでに大雨が降っている地域と重なります(図3)。

図3 予想36時間降水量(7月10日3時から11日15時まで)
図3 予想36時間降水量(7月10日3時から11日15時まで)

 土中に水分をかなり含んでいるところに大雨が降ると、山崩れやがけ崩れが多発します。

 危険な状態が続いていますので、最新の気象情報を入手し、避難など、早めの防災行動をとって欲しいと思います。

 気象庁は、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2段階で示しています。

 この早期注意情報によると、7月10日と11日は西日本と東海地方で大雨警報を発表する可能性が「高」となっています(図4)

図4 早期注意情報(7月10日、11日、12日、13日)
図4 早期注意情報(7月10日、11日、12日、13日)

 また、12日は「高」はありませんが、東北の日本海側と東日本、西日本のほとんどの地方で「中」となっています。

 週明けの13日にも、四国で「中」となっていますが、多くの地方では、12日までの3日間は、最新の気象情報の入手に努め、警戒してください。

警報が発表になったら

 気象庁の会見でも説明されていましたが、避難行動などの防災活動は、大雨警報で行います。

 特別警報で、新たなことをするということ、ではありません。

 大雨特別警報が発表された時点では、避難行動が終わっていることが想定されていますので、特別警報が発表されたら、これまで行っていた防災活動の強化です。

 このため、特別警報の呼びかけは、「命を守るために最善の行動をとってください」ということで、「ただちに避難してください」ではありません。

 

 命あっての新型コロナウイルス対策です。

 命を守るため、すばやく、マスク、体温計、除菌シートなどを持って安全に避難できるうちに避難してください

 避難所では密を避けるなどのコロナ対策がとられていますので、避難所の指示に従って新型コロナウイルスを避けてください。

タイトル画像、図1、図3、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図2、表1の出典:気象庁ホームページ。

表2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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