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夏越の大祓の日に梅雨前線による大雨災害の懸念

饒村曜気象予報士
解析雨量(6月29日21時)

夏越の大祓

 神社では、罪や穢れ(けがれ)を祓(はら)うために6月と12月の晦日に大祓(おおはらえ)が行われます。

 6月の大祓を「夏越(なごし)の祓」と呼ばれていますが、雑菌の繁殖し易い夏を前に新しい物に替える事で疫病を予防する意味があったとされています。

 また、「茅の輪(ちのわ)くぐり」を設けている神社では、茅(かや)で作った大きな輪を左回り、右回り、左回りと3回通ってからお参りすると疫病にかからないなどの御利益があるとされています。

 今年、令和2年(2020年)の夏越の祓は、発達中の低気圧と前線の通過によって西日本を中心に大雨災害が懸念されています。

低気圧と前線による大雨

 令和2年(2020年)6月30日は、梅雨前線上に発生した低気圧が発達しながら日本海を東進する見込みです(図1)。

図1 予想天気図(6月30日9時の予想)
図1 予想天気図(6月30日9時の予想)

 低気圧に伴う前線に向かって暖かくて湿った空気が流入してほぼ全国的に雨となり、6月30日は西日本の太平洋側の地方を中心に200ミリを超える大雨、翌7月1日は静岡県を中心に200ミリを超える大雨が降る見込みです。

 6月30日0時から7月1日の48時間予想降水量は、300ミリを超えるところもある見込みです(図2)。

図2 48時間予想降水量(6月30日0時~7月1日24時)
図2 48時間予想降水量(6月30日0時~7月1日24時)

 気象庁では早期注意情報として、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2階級で発表しています。

 これによると、6月30日は九州のほとんどで大雨警報を発表する可能性が「高」で、東日本から西日本のほとんどの地方で「中」となっています(図3)。

図3 早期注意情報(大雨警報級の可能性)
図3 早期注意情報(大雨警報級の可能性)

 また、7月1日は鹿児島県で「高」の他、6月30日より減りますが東日本から西日本で「中」の所があります。

 東日本から西日本の広い範囲で大雨に対する警戒が必要です。

 特に鹿児島県では、これまで大雨が続いていることに加え、6月30日が「高」、7月1日が「高」であり、図は省略しますが、7月3日も「中」となっていますので厳重な警戒が必要です。

雨で気温が上がらないといっても

 梅雨時は、雨が降っているときは晴れているときに比べて気温が上がりません。

 ただ、梅雨末期になると、晴れれば最高気温が30度以上の真夏日になるところが増えますが、雨が降って気温が上がらないといっても、多くの地点では最高気温が25度以上の夏日となります(図4)。

図4 令和2年(2020年)の日ごとの真夏日と夏日の地点数
図4 令和2年(2020年)の日ごとの真夏日と夏日の地点数

 6月中旬の頃は、雨が降って気温が下がり、夏日を観測した地点が大きく減った日がありますが、6月下旬になると、雨が降っても夏日を観測する地点が増えています。

 気象庁が気温を観測しているのは全国921地点ですが、6月29日の真夏日は135地点(全体の15パーセント)、夏日は587地点(64パーセント)です。

 気象庁の観測する、あるいは予報する気温は、地面などからの照り返しがない日陰で、風通しの良い場所での気温ですので、場所によっては、この気温より高くなります。

 加えて、令和2年(2020年)は、新型コロナウィルスの出現に伴い、感染症防止の3つの基本である「身体的距離の確保」、「マスクの着用」、「手洗いや3密(密集、密接、密閉)を避ける」等の「新しい生活様式」が求められています

 このマスク着用は、体の渇きを感知しにくく、水分補給が不十分になることから熱中症の危険性をさらに高めますので、真夏日はもとより、夏日でも熱中症は発生すると考えて注意してください。

 環境省と厚生労働省は「新しい生活様式」における熱中症予防行動をまとめていますが、この中で、屋外では人と十分な距離(2m以上)を取ったうえで、マスクを外すことを求めています。

雨の季節は来週まで?

 各地の週間予報をみると、夏越の祓の大雨の後、7月2日は晴れる所が多くなりますが、週の後半は再び雨の所が多くなります(図5)。

図5 各地の週間天気予報(気象庁発表)
図5 各地の週間天気予報(気象庁発表)

 最高気温をみても、北日本を除いて、雨が降って最高気温が25度以上の日か、晴れて最高気温が30度以上の日が続きます。

 つまり、湿度が高くて熱中症となりやすい「雨の夏日」や、気温が高くて熱中症になりやすい「晴れの真夏日」、いずれにしても、熱中症になりやすい日が続きます。

 梅雨明けまでは、大雨災害と熱中症、ともに警戒が必要です。

 その梅雨明けですが、ウェザーマップの16日先までの天気予報によると、東京では、7月6日までは傘マーク(雨)か黒雲マーク(雨の可能性がある曇り)が続きます(図6)。

図6 東京の16日先までの天気予報
図6 東京の16日先までの天気予報

 しかし、それ以降は、お日様マーク(晴れ)か白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)の日が9日も続きます。

 しかも、降水の有無の信頼度が5段階で1番高いAや2番目に高いBが半分以上もある9日間の予報です。

 そして、来週の半ば以降は真夏日が連続する予報となっています(図7)。

図7 東京の最高気温と最低気温の推移(6月30日~7月6日は気象庁、7月7日~15日はウェザーマップの予報)
図7 東京の最高気温と最低気温の推移(6月30日~7月6日は気象庁、7月7日~15日はウェザーマップの予報)

 この傾向は東海から西日本でも同じです。

 つまり、来週の半ばには、関東から九州までの広い範囲で平年よりかなり早い梅雨明けとなるか、長い梅雨の中休みに入る予報です。

 

 梅雨があけたら、疫病が退散し、災害の防止ができたという報告をするお礼参りがしたいものですが、その前に、まず夏越の大雨対策です。

 気象情報に注意し、十分に警戒してください。

タイトル画像、図2、図3、図5、図6の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。

図7の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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