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3連休に影響の台風19号発生 マリアナ近海は台風が急速に発達する海域

饒村曜気象予報士
マリアナ諸島の東海上の台風19号(10月6日6時50分、白丸はグアム島の位置)

台風19号が発生

 グアム島があるマリアナ諸島の東海上にある熱帯低気圧が発達し、10月6日3時に台風19号「ハギビス」になりました(図1、タイトル画像参照)。

図1 台風19号の進路予報(10月5日3時現在)
図1 台風19号の進路予報(10月5日3時現在)

 台風の進路予報は最新のものをお使い下さい。

 台風19号は西進しながら発達し、8日(火)にはマリアナ諸島近海で強い台風になり、週半ばの10日(木)には、中心気圧915ヘクトパスカル、最大風速55メートル、最大瞬間風速75メートルという猛烈な台風となって沖縄や西日本に接近する見込みです。

 今後も最新の台風情報にご注意ください。

 台風が発達する目安となるのが、海面水温が27度以上の暖かい海ですが、マリアナ諸島付近は、海面水温が30度以上です。

 図2は、筆者が以前調査した10月の台風の平均経路です。

図2 10月の台風の平均経路(数値は空間平均した存在数)
図2 10月の台風の平均経路(数値は空間平均した存在数)

 マリアナ諸島の東海上で10月に発生した台風は、西進を続けてフィリピンに上陸するものが多いのですが、中には、北上して日本に接近するというものもあります。

 令和元年(2019年)の台風18号は東シナ海を北上して日本海に入りましたが、10月としては異例のコースです。

 気象庁の発表するのは5日先までなので、11日以降のことは分かりませんが、統計的にいえば、沖縄付近まで北上すると、日本上空の偏西風によって北西進することになります。 

 台風の進路によっては、体育の日を含む3連休は、全国どこでも台風19号の影響を受ける可能性があります。

台風が急発達する海域

 24時間に50ヘクトパスカルを超える気圧変化で急発達する台風は、全体の0.9パーセントです(図3)。

図3 台風の24時間気圧変化(昭和26年(1951年)~昭和55年(1980年)の9時と21時について調査)
図3 台風の24時間気圧変化(昭和26年(1951年)~昭和55年(1980年)の9時と21時について調査)

 この24時間に50ヘクトパスカルを超える気圧変化で急発達した台風のほとんどは、マリアナ諸島近海からマリアナ諸島の西の海上にあったときです(図4)。

図4 台風が24時間に50ヘクトパスカルを超える気圧変化で急発達をした海域
図4 台風が24時間に50ヘクトパスカルを超える気圧変化で急発達をした海域

マリアナ海難

 今から54年前の、昭和40年(1965年)、マリアナ諸島近海で急発達した台風によりマリアナ海難が発生しています。

 9月28日から30日にかけて、台風28号がマリアナ諸島に近づいたとき、日本のカツオ漁船5隻が、マリアナ諸島北部のアグリハン島の西側の海域に避難しています。

 アグリハン島は、東西6キロ、南北10キロという比較的小さい島ですが、中央部に標高965メートルの比較的高い山があり、大正時代から始まった日本のカツオ漁船は、幾度となく、この島陰で台風の難を逃れていました。

 この年の台風28号のときも、比較的楽に台風をしのいでいます。

 しかし、10月7日朝にマリアナ諸島を襲った台風29号では、避難してきた10隻のうち6隻が沈没、1隻が座礁し、死者3名、行方不明者206名というマリアナ海難が発生しています(図5)。

図5 マリアナ海難を起こした昭和40年(1965年)の台風29号の経路
図5 マリアナ海難を起こした昭和40年(1965年)の台風29号の経路

 遺体が収容できたのは、わずか3名という海難でした。

 当時の台風の進路予報は、扇型表示とよばれるもので、24時間先までの発表でした。

 台風29号襲来時に、アグリハン島に避難した10隻の漁船は、台風が島の西側を通過することを想定し、風下になるように島の西側に停泊しています。

 そして、台風の勢力が弱かったこともあり、当直者を除いて眠りについたといわれています。

 しかし、台風29号は、1日に60ヘクトパスカルという予想外の急発達をし、漁船団の寝込みを襲っています。

 しかも、台風は島のすぐ東を通ったために、停泊地の風向は、想定とは逆の島に向かう風(西風)になっています。

 島によって恩恵をうけるどころか、「向岸風」と呼ばれる海難が発生しやすい風、非常に危険な風となっています。

 図5で記載された台風の気圧は、後日になって修正した気圧です。

 当時の天気図の原図を見ると、6日3時の気圧は994ヘクトパスカルで、これが発表となっていますが、後になって、6日3時の気圧は970ヘクトパスカルに修正されています。

 また、7日3時の中心気圧を950ヘクトパスカルと発表していますが、後になって914ヘクトパスカルと修正されています。

 当時は気象衛星もない時代で、グアム島の陸上観測と米軍の飛行機観測という数少ない資料をもとに台風情報を発表していたため、このような急発達は予想できなかったのです。

 現在は、気象衛星による観測が高度化し、台風の進路予報も強度予報も格段に進歩していますので、マリアナ海難のような急発達を見逃すことはありません。

 また、マリアナ海難のときには行われていなかった台風の強度予報(気圧や最大風速などの予報)は、令和元年(2019年)からは5日先まで行われています(平成の時代は3日先まで強度予報が行われていました)。

 3連休は、猛烈な勢力となった台風19号が接近する沖縄や西日本だけでなく、進路によっては全国のどこでも影響がでます。

 精度が良くなり、5日先まで発表されている台風情報に注意してください。

タイトル画像の出典:ウェザーマップ提供。

図1の出典:ウェザーマップ提供資料に著者加筆。

図2の出典:饒村曜・宮沢清治(昭和55年(1980年))、台風に関する諸統計、研究時報、気象庁。

図3、図4、図5の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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