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台風1号発生 「正月なのにもう台風が」ではなく「正月なのにまだ台風が」

饒村曜気象予報士
南シナ海を西進する熱帯低気圧の雲(平成31年(2019年)1月1日15時00分)

台風1号が発生

 台風1号が、1月1日15時に南シナ海で発生しました。

 南シナ海の熱帯域で対流活動が活発になり、この中から積乱雲が集まって熱帯低気圧となり、さらに発達して中心気圧が1000ヘクトパスカル、最大風速が毎秒18メートルとなり、台風の基準である最大風速が毎秒17.2メートル以上となったのです。

 赤道近くの海域では、真冬となっても、海面水温は28度以上あります。

 台風が発生・発達する海面水温は27度以上と言われていますので、台風が発達するには十分な海面水温です(図1)。

図1 台風1号と海面水温(平成31年(2019年)1月1日15時)
図1 台風1号と海面水温(平成31年(2019年)1月1日15時)

 台風1号は、気象庁が台風の統計をとり始めた昭和26年(1951年)以降で、最も早く発生した台風になりました(表)。

表 最も早く発生した台風1号
表 最も早く発生した台風1号

台風1号の日本への影響

 台風1号は、南シナ海を西進して日本へは直接の影響はないと思われますが、南シナ海南部やインドネシア近海の活発な対流活動は、その北にある高気圧を発達させて偏西風を大きく蛇行させる可能性があります。

 このため、間接的には、日本付近に寒気を南下させるという影響が出るかも知れません。

 東部太平洋赤道域の海面水温が平年より高くなる「エルニーニョ現象」が発生していますが、通常の「エルニーニョ現象」のときのように、インドネシア近海の対流活動が不活発ではありません。

 これまで、「エルニーニョ現象」が発生している時は暖冬になることが多数派でしたが、今年は少数派になるかもしれません。そんなことを感じさせる台風1号の発生でした。

 昨年までに最も早い発生日時の台風は、昭和54年(1979年)1月2日9時に発生した台風1号ですが、正月の台風発生はこれまでもありました。

 また、逆に、今回の台風発生がもう1日早ければ、平成12年(2000年)の台風23号が発生した12月28日を抜いて、一年で最も遅く発生した台風となるところでした。

 ただ、これらは、気象学的にはあまり意味がない統計です。

台風年度は2月下旬から始まる

 台風1号が発生したとき、「正月なのにもう台風1号が…」と感じた人が多いと思いますし、マスコミ等でもそう取り上げられました。

 しかし、「正月なのにまだ台風が…」といったほうが適切な表現です。。

 というのは、台風は暖かいと多く発生するということから、その年の台風シーズンは、北半球の気温が1 番低くなって、これから暖かくなる2月下旬から始まるといってよく、1月は前年のシーズンの続きだからです。

 多くの年は、1月に1個発生したあとはしばらく発生することがなく、2個目は4 月から5月に発生しています。

 図2は、少し古い資料ですが、私が計算した台風の半旬別の台風発生数(図中の黒丸)と、半旬別の日本近海への接近数(図中の白丸)を示したものです。気象の統計でよく使われているように,1年365日を5 日ずつ73の半旬に分けて集計しました(図2)。

図2 台風の旬別発生数(昭和26年~昭和53年)
図2 台風の旬別発生数(昭和26年~昭和53年)

 黒丸の発生数には資料の関係でデコボコがありますが、これをならしてみると、台風発生数が一番少ないのは、2月上旬です。

 6月下旬ころから発生はだんだん多くなり、7月20日から24日に小さな山があり、その後、4半旬目の8月9日から13日に突然多くの台風が発生しています。

台風委員会と台風の名前

 台風には、台風の被害を受けている14ヶ国・地域で構成される台風委員会が予め用意した140個の名前から、順番に名前がつけられています。

 平成31年(2019年)の台風1号の名前は、たまたまラオスが提案した「パブーク(Pabuk)」と名付けられました。淡水魚の名前です。

 また、昨年最後の台風である台風29号の名前は、たまたま日本が提案した「うさぎ」です。

 日本は、気象と密接な関係にある航海において必要だったという理由で、星座名を10個提案しています。つまり、「うさぎ座」の「うさぎ」です。

 台風委員会の参加国・領域は、アルファネット順に、カンボジア、中国、北朝鮮、香港、日本、ラオス、マカオ、マレーシア、ミクロネシア、フィリピン、韓国、タイ、アメリカ、ベトナムの14カ国・地域です。

 日本、韓国、北朝鮮だけでなく、アメリカ(グアム・サイパンが米領)が入っています。 

 また、香港、マカオも歴史的な経緯から、今でも中国と同等のメンバーになっています。

 複雑な国際関係はひとまず置いといて、14ヶ国・地域が協力して台風災害を防ごうとする活動のシンボルが台風の名前です。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜(1986年)、台風物語、日本気象協会。

表の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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