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東京で初雪の可能性

饒村曜気象予報士
凍結して滑りやすくなった路面(写真:アフロ)

寒気の南下と暖気の北上

 12月9日(日)から10日(月)にかけ、今冬一番の寒気が南下し、各地で真冬並みの寒さとなりました。

 11日(火)以降は、本州南岸を低気圧が発達しながら通過し、暖気を北上させますので、一時的に気温があがります(図1)。

図1 予想天気図(12月11日21時の予想)
図1 予想天気図(12月11日21時の予想)

 東日本の太平洋側では、高気圧の南縁をまわるように東風がふきこみ、低気圧本体の雨雲によって雨が降る前に、雨や雪が降り始めます。

 今冬一番の寒気は大規模なもので、南下した寒気が地表面付近に残っていますので、地上約1500メートルで気温が0度(雪の降る可能性が出てくる場所の目安)は本州の南岸です(図2)。

図2 上空約1500メートルの寒気(12月11日朝)
図2 上空約1500メートルの寒気(12月11日朝)

 低気圧が暖気を持ち込むといっても、東日本の標高の高いところや、北日本では雪かみぞれとしてと降り出す可能性がありますので、関東各地から初雪の便りを聞くかもしれません(図3)。

図3 雨雪判別(12月11日21時)
図3 雨雪判別(12月11日21時)

 現時点では、北関東や甲信地方、東京奥多摩地方は雪、東京都心部など関東南部などは雨という予想ですが、少し多めに寒気が残っていれば、東京都心部でも雪の可能性があります。

 東京の気温予想は、11日の最低気温3度、最高気温10度です。また12日の最低気温3度(誤差幅を考えると1~5度)、最高気温13度(誤差幅を考えると11~17度)です。

 つまり、誤差幅の下限を考えると、東京都心部でも雪が降る気温です。

 もし、東京都心部で雪が降れば、これが「東京の初雪」です。

東京の初雪

 東京の初雪の観測は、気象庁(前身の中央気象台時代などを含む)が明治9年(1876年)以降、142年にわたって行っています(図4)。

 この142年間で、最も早い初雪は、明治9年(1876年)と明治30年(1897年)の11月17日です。

 11月の初雪は明治時代と昭和初期が多いのですが、後述するように平成でも発生しています。

 最も遅い初雪は、平成19年(2007年)の3月16日です。初雪といっても、これから冬に向かう意味がある多くの年の初雪ではなく、冬が終わったとの初雪でした。

図4 明治・大正・昭和の東京の初雪の日と平成の東京の初雪の日
図4 明治・大正・昭和の東京の初雪の日と平成の東京の初雪の日

 図4は、明治9年(1876年)以降の142回の観測を、明治・大正・昭和と平成にわけたものです。

 都市化の影響などで気温が上昇している東京都心部では、平成の初雪は、明治・大正・昭和の初雪に比べ、全体的に遅くなっていることがわかると思います。

 しかし、初雪が全体的に遅れるといっても、年によっては、かなり早いことがあります。

平成で一番遅い東京の初雪

 平成で一番遅い初雪は、平成19年(2007年)の3月16日ですが、平成だけでなく、明治9年(1876年)以降、最も遅い初雪でした。

東京都心で最も遅い初雪 みぞれパラパラですが

 気象庁は16日、東京都心で初雪を観測したと発表した。1876年(明治9年)の観測開始以降、最も遅い初雪となった。これまで都心で最も遅かったのは2月10日(1960年)で、47年ぶりに記録を塗り替えた。昨冬より95日、平年より73日遅い。

 気象庁によると、関東付近の上空に寒気があり、本州の南海上に低気圧が近づいた影響で、午前7時ごろから約5分間、みぞれが確認された。この時の気温は5.6度だった。その後も時折、雪がちらついた。

出典:読売新聞(平成19年3月16日夕刊)

 雪つりは雪の重みから枝を守るために行われるもので、雪国では雪つり撤去が春の訪れを告げる風物詩です。

 雪の少ない東京では必要のないものですが、国営昭和記念公園(立川・昭島市)の日本庭園では、冬の風景を来園者に楽しんでもらうために、9.5メートルのアカマツに施されており、初雪の日に「雪つり」の撤去作業が行われています。

 平成18年(2006年)12月~平成19年(2007)2月の全国の平均気温は、平年(4.4度)を1.52度上回り、全国的に降雪量が少なく、記録的な暖冬・少雪となりました。

 暖冬の原因は地球温暖化のほか、東部太平洋赤道域の海面水温が上昇するエルニーニョ現象などの影響で、冬型気圧配置が長続きしなかったためとみられています。

平成で一番早い東京の初雪

 平成で一番早い初雪は、平成28年(2016年)の11月24日で、54年ぶりの11月の初雪でした。

 そして、観測史上初めて、11月の積雪を観測しました。

 このため、都内のカー用品店は、スタッドレスタイヤを求める人たちで混み合っていました。

 また、東京スカイツリー(墨田区)では「雪払い作業」に追われました。

 これは、雪の落下事故を防ぐため、ツリーに積もった雪が塊にならないよう、作業員が特殊な除雪器具を使って、雪を細かく砕くなどして払い落すものです。

11月の雪 凍える都心 関東など70人以上けが

 気象庁は24日、関東各地で初雪や積雪を観測したと発表した。東京都心で11月に積雪が確認されたのは、同庁前身の東京気象台が1875年(明治8年)に観測を開始して以来初めて。

 同庁によると、真冬並みの寒気が日本上空に流れ込み、本州の南の海上を低気圧が通過したためで、11月の初雪は、東京都心や横浜、甲府両市では1962年以来54年ぶり。長野県軽井沢町では23センチの積雪を記録した。群馬県草津町で13センチ、埼玉県熊谷市で6センチなど、関東甲信6県の8地点で11月の記録を更新。関東と山梨、静岡県では、転倒するなどして計70人以上がけがをした。

 25日は北日本や東日本の内陸で最低気温が氷点下となる見込みで、同庁は路面凍結に注意を呼びかけている。

出典:読売新聞(平成28年11月25日朝刊)

 平成28年(2016年)の初雪は、上空に入った真冬並みの寒気と列島南岸の低気圧が、「偶然重なった結果」ですが、この年は太平洋東部赤道域で平年より海面水温が低い「ラニーニャ現象」が発生中でした。

 ラニーニャ現象は、一般的に冬型気圧配置が強まる傾向があります。

 

 そして今年、平成30年は東部太平洋赤道域の海面水温が高いエルニーニョ現象が発生中です。

 一般的には、エルニーニョ現象が発生すると暖冬傾向ということができます。ただ、暖冬傾向といっても、ときどき強い寒気が南下しますので、最新の気象情報(季節予報)の入手に努めてください。

図1の出典:気象庁ホームページ。

図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。

図4の出典:気象庁天気相談所調べをもとに著者作図。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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