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豪雨と猛暑に台風多発 51年前に類似

饒村曜気象予報士
防災用品(写真:アフロ)

台風19号発生

 平成30年(2018年)8月16日9時、マリアナ諸島近海で台風19号が発生しました。8月になってから7個目、今年になって19個目の発生です。

 8月12日に台風15号、13日に台風16号、14日に台風17号、15日に台風18号が発生していますので、これで、5日連続で台風が発生したことになります。これは、台風の統計を開始した昭和26年(1951年)以降で初めてのことです。

 台風の平年値は、8月は5.9個、1月から8月までの合計は13.6個ですので、今年、平成30年(2018年)の台風発生数は、かなりのハイペースということができます(表)。

表 台風の発生数・接近数・上陸数の平年値
表 台風の発生数・接近数・上陸数の平年値

 8月に一番台風が発生したのは、昭和41年(1966年)と昭和35年(1960年)の10個です。まだ8月は半分残っていますので、8月の台風発生数の記録も更新するかもしれません。なお、台風の上陸は九州、四国、本州及び北海道の陸上に台風中心が達したときをさし、沖縄本島など島の上に達した時は含めません。

平成30年の気象災害

 平成30年(2018年)は、台風多発だけでなく、全国的に早い梅雨明けで少雨傾向のところに「平成30年7月豪雨」が発生し、死者・行方不明者230名という惨事が発生しています。

 この豪雨の名称は、6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に北海道や岐阜県など全国的に広い範囲で記録された台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨について、気象庁が命名したものです。ただ、マスコミ等では被害が大きかったのが西日本であることから「西日本豪雨」と呼ぶことが多いようです。

 そして、記録的な猛暑です。7月23日に埼玉県・熊谷市で気温41.1度という日本での最高気温の記録を更新するなど、のべ14回も日最高気温が40度を超えるという殺人的な暑さになっています。

 気象庁(前身の中央気象台を含む)の140年以上の観測の中で、これまで日最高気温が40度を超えたのは41回しかありません。

 アメダスが導入された昭和49年(1974年)11月以降は、全国の気温観測地点が増えましたので、40度を超える気温を観測する地点数が急増しています。それでも、猛暑年といわれた平成25年(2013年)の8回、平成19年(2007年)の7回を、ともに大きく上回ったのが今年、平成30年(2018年)の14回なのです。

 さらに、南から暖湿気流が流れ込んできたために大気が不安定で、各地で局地的な雷を伴った記録的な雨量が観測されています。記録的短時間大雨情報は、記録的な雨量が観測されたときに発表される情報ですが、8月17日2時20分に「青森県むつ市西部付近で約90ミリ」と発表になるなど、今年に入ってから実に66回も発表となっています。

 平成30年(2018年)の夏は、これまで経験したことがないほど自然災害が相次いでいるように思えますが、今から51年前の昭和42年(1967年)も同じような自然災害が相次いでいます。

昭和42年の気象災害

 昭和42年(1967年)の梅雨は、晴天の日が多く、梅雨入りも梅雨明けもはっきりしませんでした。気象庁は、はっきりしないものの、梅雨入りは平年より10日遅れ、梅雨明けは平年並と決めていますが、全体的には雨の少ない梅雨でした。

 しかし、7月7日から10日にかけては、本州の南岸に停滞していた梅雨前線が北からの乾燥した空気と台風7号から変わった熱帯低気圧から暖湿気流によって活発となり、長崎県佐世保市で1時間に125ミリの記録的な雨を観測しています。

 佐世保、呉、神戸などでは2日間で300ミリを超える大雨となっていますが、これらの三市は、 背後に山地がある都市部で、大雨によって土砂崩れや鉄砲水が多発し、多くの犠牲者がでました(図1)。

図1 昭和42年7月豪雨の期間降水量
図1 昭和42年7月豪雨の期間降水量

 西日本各地では死者・行方不明者369名という大きな被害が発生したため、気象庁は「昭和42年7月豪雨」と命名しています。

 気象庁が刊行した気象庁技術報告第63号の報告には、「梅雨期の200~300ミリの大雨は他に例がないことではないが、今回のように東西約1000キロにわたる広範な地域に大雨が降り、しかも時間的・空間的に集中度が強かったこと、さらに、強雨時に強雷を伴ったことは大きな特徴であった。」と書かれています。

 「平成30年7月豪雨」が発生したとき、過去に全く事例がないように言われましたが、「昭和42年7月豪雨」では、似たようなことが起きていたのです。

 また、雷雨活動は活発で、各地で落雷や降雹、局地的な大雨による被害が相次いでいます。8月1日には北アルプスで高校生グループに落雷があり、11名が亡くなる惨事も発生しています。そして、梅雨期間から太平洋高気圧に覆われ、晴れて強い日射で西日本と関東地方では月平均気温が記録的な高さとなっています。

 東京では7月31日から8月22日までの23日間連続真夏日を観測しました。

 さらに台風です。昭和42年(1967年)8月の台風発生数は9個と、台風が多発した夏でした。

 7月発生の7個を加えると16個となり、昭和42年(1967年)は「7から8月の台風発生数」では歴代1位です。

 当時は、アメダスも、気象衛星「ひまわり」もない時代です。現在の観測・解析と単純に比較はできませんが、平成30年(2018年)と似た現象が起きていたと考えられます。

羽越水害も昭和42年

 昭和42年(1967年)は、夏の終わりに羽越水害が発生しています。

 8月26日から29日にかけて、秋の冷気が南下して本州上に秋雨前線が停滞し、新潟県と山形県では降水強度が強い大雨が降っています。26日から29日にかけての期間降水量は、新潟県の下越地方や山形県の南西部では200ミリを超え、多い所では新潟県黒川村の胎内川第一ダム(気象庁以外の観測所)で748ミリを観測しています(図2)。

 このため、中小河川に沿う山々の山腹が崩れて土石流が発生したり、新潟県の加治川の堤防が決壊するなど、死者行方不明者が138名という災害が発生しました。

 夏から秋にかけても警戒が必要な年でした。

図2 羽越水害時の総降水量
図2 羽越水害時の総降水量

より一層の備えを

 昭和42年(1967年)の例からすると、平成30年(2018年)も夏から秋にかけての災害に対する備えをすべきかと思います。

 現在、台風19号が発達しながら北上中です。まだ進路が定まっておらず、大きな予報円ですが、すぐに影響するというものではありません(図3)。

図3 台風の進路予報
図3 台風の進路予報

 台風の進路予報は、最新のものをお使いください。

 台風情報に注意が必要ですが、「より一層の備えをする」時間的余裕はあります。週末は「より一層の備えをして台風に備える」という行動をとってみてはどうでしょうか。

 今回の台風19号が影響しないことになっても、近い将来を考えれば無駄にはなりません。

表、図1、図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

 

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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