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細かく暑さ分布を見る 東~西日本の8月は危険な暑さで始まった

饒村曜気象予報士
地上天気図と衛星画像(8月1日21時)

太平洋高気圧の張り出しと暑さ

 トロコイダル運動という複雑な動きをした台風12号は、太平洋高気圧の張り出しとともに西進して中国大陸に上陸の見込みです(図1)。

図1 予想天気図(8月3日9時の予想)
図1 予想天気図(8月3日9時の予想)

 台風12号の通過によって西日本や東日本では気温があがり、8月1日の最高気温は、京都府舞鶴市舞鶴で38.6度、埼玉県熊谷市熊谷で38.3度、岐阜県美濃市美濃で38.2度など、200箇所で最高気温が35度以上の猛暑日となっています。全国の気温観測所が927箇所ですので、全国の22%が猛暑日でした。

 8月1日の最高気温が30度以上の真夏日は82%(756箇所)もあり、ほぼ全国的にこまめに水分を補給するなどの熱中症対策が必要になってきました。

 大気が不安定となるのは、上層に冷たい空気が流入してるときだけでなく、上層に乾いた空気が流入しているとき、下層に暖かい空気が流入してるとき、下層に湿っている空気が流入しているときも大気が不安定になります。

 太平洋高気圧に覆われ、晴れて日射が強くなるだけでなく、今回の太平洋高気圧は、下層に湿った空気が流入しています。このため、8月1日15時20分に山梨県富士吉田市付近で約100ミリという記録的短時間大雨情報が発表となっています。

 今後も、東日本を中心に大気が不安定となりますので、落雷や突風、激しい雨に備え、時折空を見上げて黒い雲がでていないかなどの積乱雲監視も必要です。

続く暑さ

 中国東北部に低気圧が現われ、発達しながら北海道付近を通過するため、週末の北日本では寒気が南下することなどで最高気温が30度以上の真夏日にはならない日がありますが、東日本から西日本では、優勢な太平洋高気圧に覆われ、少なくとも10日間は最高気温が35度以上の猛暑日が続き、亜熱帯の沖縄よりも暑くなります(図2)。

図2 主な都市の10日間の天気予報と気温予報
図2 主な都市の10日間の天気予報と気温予報

暑さを宇宙から観測

 平成29年(2017年)12月23日に気候変動観測衛星「しきさい」がH2Aロケット37号機により、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センターから打ち上げられました。

 「しきさい」は、幅が2メートル50センチ、高さ4メートル60センチの衛星で、大気中の熱を保つちりなどの微粒子や雲、それに植物やプランクトンの分布など、これまで地球温暖化に影響するとされながら、十分な観測ができなかったデータを長期的に観測する目的の衛星です。

 そして、「しきさい」には可視光に近い紫外線(近紫外)から可視光に近い赤外線(熱赤外)まで幅広い波長の観測を行うことができます。この中の熱赤外の波長帯(波長が10.8マイクロメートル)の観測では、地表面の熱の状態を知ることができます。

 波長が10.8マイクロメートルの光は、大気による吸収がほとんどない波長の光です。

 大気による吸収がほとんどない波長は、「大気の窓」ともよばれて、気象衛星等による観測では基本として使われる波長です。

 静止気象衛星「ひまわり」においても、この波長が使われていますが、「ひまわり」は赤道上空3万6000キロメートルからの観測です。これに対し、「しきさい」は、800キロメートル上空、「ひまわり」の40分の1以下の近さでの観測です。

 「しきさい」の高空間分解能と高頻度の観測により、都市の中の大きな公園や緑地では周囲に比べて少し温度が低い様子やその昼夜の変化なども見ることができるようになりました。

 なお、「大気の窓」以外の波長の観測では、大気による吸収の影響を大なり小なり受けています。影響の度合いは波長により異なりますので、多数の波長を用いて観測を行い、それを分析することにより、光を吸収している大気中の物質、例えば、水蒸気や二酸化炭素などの立体的な分布を求めることができます。ただ、これは、膨大な計算を必要としますので、コンピュータの飛躍的な発展を受けて始まったばかりの研究です。

図3 「しきさい」による東京周辺の日中地表面温度(8月1日10時40分頃、白色の領域は雲域)
図3 「しきさい」による東京周辺の日中地表面温度(8月1日10時40分頃、白色の領域は雲域)

 図3は、「しきさい」による平成30年(2018年)8月1日の東京周辺の日中の地表面温度です。この日は、午前中の段階で、前橋や熊谷で非常に高温となっていますが、一方で、皇居や代々木公園など樹木の多い場所では、周囲に比べ少し温度が低くなっているなど、日本の酷暑の様子を捉えています。また、大河が識別できるということは、大河付近は気温がやや低くなっていることがわかります。

 「しきさい」による地表面付近の温度の観測と、地上から約1.5メートルの高さで行っている気温の観測とは差はありますが、気温の観測はポイントのみの観測です。

 レーダー観測を雨量計による観測で補正し、「解析雨量」という、きめ細かくて正確な雨量分布図ができたように、将来的には、「解析気温」のような、正確な気温分布図が作られ、熱中症対策などの猛暑対策に使われるのではないかと、個人的には思い、期待しています。

図1の出典:気象庁ホームページ。

タイトル画像、図2の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:宇宙航空研究開発機構(JAXA)画像提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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