上空の低気圧の影響で台風12号は東から接近
日本の天気は西から変わらないこともある
「日本の天気は西から変わる」と、よく言われています。
小学校での気象の授業では、福岡で雨が降ったら次は大阪で雨が降りだし、その次は東京でというように、天気は西から変わるということを教えます。
中緯度に位置する日本上空には偏西風と呼ばれる強い西風が吹いており、低気圧や高気圧の多くは西から東に進みます。日本付近にやってくる台風も同じで、台風の多くは、偏西風に乗って北東進してきます。
しかし、盛夏だけは「天気が西から変わる」とはいいきれません。「天気が東から変わる」ということがあるからです。
日本上空にあった偏西風は北に移動し、日本上空は風が弱いか、低緯度地方のように東風が吹きます。このため、盛夏の台風は、動きが遅かったり、迷走したり、時には上層に現れる周囲より冷たい低気圧(地上天気図には現われない低気圧)の影響で西から日本列島に近づくことがあります。
上層に現れる冷たい低気圧
2つの台風が接近して存在しているときには、「藤原の効果」と呼ばれる相互干渉が起きやすくなりますが、この「藤原の効果」は、台風どうしだけではなく、台風と上層に現われる冷たい低気圧との間でも起きることがあります。
気象衛星「ひまわり」の水蒸気画像では、日本の東海上から南海上にかけて3つの渦が見られます(図1)。
北から、台風11号から変わった低気圧の水蒸気の多い渦、上層の冷たい低気圧による水蒸気の少ない渦、北上中の台風12号による水蒸気の多い渦です。
日本の南海上にある台風12号も、北上してきた後、日本付近に南下している上層の冷たい低気圧の影響で、進路を次第に西寄りに変え東日本に接近し、その後、西日本にも影響をあたえる見込みです(図2)。
つまり、上層の冷たい低気圧による渦と、北上中の台風12号の渦がお互いに影響をし、上層の冷たい低気圧の周りをまわるように、台風12号が北上のち西進するという予報となっていますが、このように2つの渦が影響をするときは、台風の進路予報が難しいときです。
41年前の沖永良部台風も上空の冷たい低気圧で西進
今から41年前の昭和52年(1977年)にも、上層の低気圧によって台風が西に進んだという事例がありました。昭和52年(1977年)の台風9号です。
台風9号は、沖永良部島を直撃し、同島に大きな被害を与えたため、後に「沖永良部台風」と気象庁が命名した台風です。沖永良部島を通過後、東シナ海で急に西へ向きを変えています。
地上天気図(図3)ではわかりませんが、このときの300ミリバール高層天気図 (現在の300ヘクトパスカル天気図、約10キロメートル上空の天気図、図2)を見ると、朝鮮半島から東シナ海へ南下している低気圧(上層の冷たい低気圧)と台風9号が「藤原の効果」を起こしているのがよくわかります。
なお、両図で、白丸および白四角は9時の位置、黒丸および黒四角は21時の位置です。
気象衛星「ひまわり」の運用を早めた沖永良部台風
沖永良部台風と静止気象衛星 「ひまわり」とは、因縁浅からぬ関係があります。
というのは、沖永良部台風は「ひまわり」が最初に撮影した台風で、しかも「ひまわり」の正式運用を早めた台風でもあるからです。
沖永良部台風は、当初、沖縄付近を北上し、その後九州へ上陸は必至と見られていました。弱まった太平洋高気圧と、大陸から張り出す高気圧の間に形成された秋雨前線が、台風によって刺激され、関東から西の地方ではところどころで大雨となっており、台風の接近とともに、さらに雨が強まって大きな被害が起きることが懸念されていました。
しかし、その後、太平洋高気圧が急激に発達し、台風が東シナ海を西進して中国大陸に上陸するという、盛夏のときの台風のようでした。
太平洋高気圧の急激な発達や、上層の冷たい低気圧との相互作用の程度が予想できなかったこと、場所が東シナ海の真中という気象データの空白地域であったために、台風の正確な位置が把握できなかったことなどが重なって、台風の進路予想に失敗しています。
このため、9月10日に東シナ海で操業していた約300隻の底引き漁船が、遭難しかかるという事故が起きています。
これを受け、9月8日に初画像(写真)を送ってきた静止気象衛星「ひまわり」の早期利用が、気象庁や宇宙開発事業団等の関係機関との間で検討され、9月17日より「ひまわり」の計器チェックの合い間を縫って、1日に2回観測することになりました。
台風12号は上層の冷たい低気圧と相互作用をしている台風で、予報が難しい台風です。こまめに台風情報の確認をお願いいたします。
タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。
図2の出典:気象庁ホームページ。
図3、図4、写真の出典:饒村曜(昭和61年)、台風物語、日本気象協会。