コンピュータ更新で大幅改善の台風強度予報、降水短時間予報、そして線状降水帯の予報も

気象庁に導入される第10世代コンピュータの主系

 気象庁は今年、平成30年(2018年)6月5日に計算機システムを第10世代に更新しますので、台風強度予報、降水短時間予報、そして、近年、毎年のように多くの犠牲者を出している「線状降水帯」予報の大幅改善が期待されています。

天気予報の基本は数値予報

 場所や高さによって異なる大気の状態は、3次元的な格子点ごとの風向や風速、気圧、気温、水蒸気量などで定量的に表すことができます(図1)。

図1 数値予報のための格子の模式図
図1 数値予報のための格子の模式図

 

 このように格子点上に表された気象要素の時間変化を物理学の法則を用いて計算し、将来の大気の状態を予想するのが数値予報です。将来の大気の様子を計算機で求めるものです。

 数値予報に用いる物理学の法則には、流体力学の方程式、熱力学の方程式、質量保存の方程式、さらに水蒸気の凝結や蒸発などの変化を表す方程式などがあります。これらの方程式は、ある時刻の気象要素の値が決まれば、その時間変化が決まるという形をしているので、少しずつその時間変化に従って計算を続けていけば、6時間あるいはもっと長い時間先の大気の状態を求められることになります。

 しかし、これらの方程式は複雑に組み合わされており、簡単には解けないようになっています。そこで膨大な計算量が必要な数値解析という方法を用いて解いています。

 数値予報の数値という言葉はここからきています。

老朽した庁舎よりコンピュータ

 数値予報は昭和30年(1955年)、アメリカの気象局で定常的な業務として実用化されました。

 日本では、気象庁が昭和34年(1959年)に当時としては世界最大級の大型コンピュータ(IMB社製)を用い、数値予報が業務として行われるようになりました。アメリカ、スウェーデンについで世界で3番目の導入です。

 老朽化した気象庁の建物の更新より、海のものとも山のものともわからなかった数値予報の導入を優先したことに、大蔵省(現在の財務省)担当者は、あきれはてたという話が伝わっていますが、しばらくは精度が悪く、全く使い物になりませんでした。数値予報どころか、コンピュータを使うということ自体がなかった時代の話です。

 昭和50年代後半(1980年頃)に入るとコンピュータの能力は飛躍的に向上し、また、気象衛星などによる観測網も充実してきました。さらに、数値予報技術そのものが進歩したことなどもあって、その精度は飛躍的に向上しました。

 現在は、数値予報を欠いては、天気予報は成り立たないところにまで進歩しました。天気予報は 「天気図の時代」から「数値予報の時代」になったといえます。

数値予報には複数のモデル

 数値予報には、その基本的な原理は同じでも、その利用目的によって、いくつかの種類(モデル)があります。これらのモデルは、基本的には、全世界的に共通な観測時刻である日本時間の9 時と21 時(協定世界時の0時と12時) の観測値をもとに計算されています。

 平成29年(2017年)3月から使われている主なモデルは、数時間~9時間先の大雨や暴風などの災害をもたらす現象の予報には2キロメートル格子の局地モデルと、5キロメートル格子のメソモデル、1 週間先までの天気予報には約20キロメートル格子の全球モデルです。

 局地モデルとメソモデルは、日本付近のみの格子ですが、全球モデルは、名前の通り、地球全体を覆っている格子です(図2)。

図2 地球を覆っている数値予報を計算するための格子の模式図
図2 地球を覆っている数値予報を計算するための格子の模式図

 数値予報モデルで予測できる気象現象の規模は格子間隔の大きさに依存しています。格子間隔が20キロメートルの全球モデルでは、高・低気圧や台風、梅雨前線などの水平規模が100キロメートル以上の現象を予測することができます。格子間隔が5キロメートルのメソモデルになると、局地的な低気圧や集中豪雨をもたらす組織化された積乱雲など水平規模が数10キロメートル以上の現象を予測できるようになります。個々の積乱雲の大きさは数キロメートルですので、これを直接予測するためには、格子間隔が2キロメートルの局地モデルでは、少し格子間隔が大きいといえます。

コンピュータの飛躍的な能力向上

 数値予報は、格子点こと大気の状態の時間的変化を計算するものですが、一般的に、この格子点が小さければ、小さいほど、実際の大気の状態に近くなり、また計算していく時間間隔を小さくしていけばいくほど、その予想精度はよくなります。

 しかし、格子点を小さくすればするほど、また計算時間間隔を小さくすればするほど、飛躍的に計算量が増えていきます。数値予報に用いる物理学の法則の数を増やし、より精密に適用すればもっと精度が上がりますが、計算量は増えます。

 研究のためなら良いのかもしれませんが、天気予報に使うためには24時間先を計算するのに24時間はかけられません。利用者が使うことを考えると、24時間先の予報では、数時間で計算を終える必要があります。

 このため、天気予報に使う数値予報には、コンピュータの能力の限界という制約があります。コンピュータの能力から、計算する格子点の間隔、計算時間間隔、どの物理方程式を選び、その物理方程式をどの程度まで正確に用いるかを決めていますので、最新鋭のコンピュータ導入が不可欠なのです。

 電子計算機の能力の向上は著しく、昭和34年(1959年)に気象庁が数値予報のために最初に導入した第一世代のコンピュータの演算速度を1とすると、平成24年(2012年)6月に導入された第9世代数値解析予報システムのコンピュータでは、1000億倍弱となっています(図3)。

図3 気象庁のコンピュータの演算速度の推移
図3 気象庁のコンピュータの演算速度の推移

 そして、6月5日に導入される第10世代のコンピュータは第9世代の10倍以上、第1世代の約1兆倍の能力を持っています。

予報の改善

 数値予報の精度は、使用する計算機の能力に大きく依存していますが、第10世代のコンピュータが導入になったからといってすぐに精度があがるものではありません。新しいコンピュータを使った技術開発などが必要で、これから続々と数値予報の改善による各種の予報の精度向上が図られることになります。

 まずは、今年6月下旬に予定されている「きめ細かな降水量予測(降水短時間予報)」の改善です。これまで、6時間先までだったものが15時間先までになりますので、通勤通学で家をでる前に、帰宅時間帯の細かい雨の様子がわかりますし、夕方の段階で夜間の警報級の大雨の可能性を予測できますので、明るいうちに早めの避難が可能になります。

 また、平成31年(2019年)3月までには、「中心気圧や最大風速等の予報(台風の強度予報)」の予報期間を現在の3日先から5日先まで延長する改善を行う計画があります。今年の台風シーズンには間に合いませんが、来年の台風シーズンは十分間に合います。

 降水短時間予報や台風の強度予報といった降水予測情報の改善は、大雨時の早期避難に役立てることができると期待されています。

 そして、平成31年度早期(2019年4月以降の早期)には、集中豪雨や暴風などの災害をもたらす現象の予測に、複数予測の手法をとりいれる「メソアンサンブル予報システム」の運用を開始する計画があります。

多くの死者がでている線状降水帯の予測

 メソアンサンブル予報システムというのは、気象庁で使用中の「アンサンブル予報」という予測を高度化したものです。従来は台風や前線の動きなど大規模な現象にしか適用できませんでしたが、より小さい規模の現象に適用できることが期待されています。

 近年、平成26年(2014年)8月20日に発生した広島市の豪雨、平成27年(2015年)9月10日に茨城県常総市で起きた豪雨による鬼怒川の決壊、平成29年(2017年)7月5日の福岡県朝倉市と大分県日田市にかけての豪雨(図4)など、線状降水帯による大災害が毎年のように発生しています。

図4 九州北部の24時間降水量(平成29年7月5日12時~6日12時)
図4 九州北部の24時間降水量(平成29年7月5日12時~6日12時)

 線状降水帯は、積乱雲が同じ場所で発生し続けることで一定範囲に多くの雨を降らせるものですが、狭い範囲の現象であるため、これまでは予測が難しいものでした。しかし、メソアンサンブル予報の導入によって、来年度以降は、事前に予測できる可能性がでてきました。

 コンピュータの進歩などを背景に、天気予報の技術が日々向上しています。

図1、図2の出典:饒村曜(2012)、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

タイトル画像、図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:気象庁・気象研究所ホームページ。