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昔は「地球は青かった」、今は「地球は青白かった」に変わった?

饒村曜気象予報士
「ひまわり8号」の初カラー画像(平成26年12月18日11時40分)

「宇宙飛行士の日」と「地球は青かった」

 昭和36年(1961年)4月12日、ソビエト連邦(現在のロシア)のユーリー・ガガーリンが人工衛星ボストークで人類初の宇宙飛行をしています。そして、「地球は青かった」と訳される名言を残しました。

 実際の発言は「空はとても暗かった。一方地球は青みがかっていた(イズベスチヤ)」です。また、後日、ガガーリンがプラウダに連載した「ダローガ・フ・コスモス(宇宙への道)」では、地球の夜の面から昼の面へ飛行するとき、地平線上に現れる色彩の美しさに感嘆し、「レーリッヒのブルーのようだった」と述べています。

 ここでいうレーリッヒは、ニコライ・レーリッヒというロシア人の有名な画家で、好んで使用したのが青色系統の絵の具です。絵の題材として探し求めたのはチベットの地底にあるとされた理想の国「シャンバラ(幸福の源に抱かれた土地)」ですので、ガガーリンは、暗黒の宇宙の中に、太陽光線が大気を通して青などの色で浮かび上がる地球をみて、そこに理想の国を見たのかもしれません。

 地球の大気に入射した太陽光などの電磁波が、大気中の気体分子などによっていろいろな方向に広がっていく現象を「散乱」といいます。大気中の気体分子の散乱の強度は波長が短いほど大きくなります(図1)。

図1 空の青さの説明図
図1 空の青さの説明図

 波長の短い青い光はよく散乱し、空一面に青い光がたくさんあるので、晴れた日に空は青く見えるわけですが、宇宙から見ても青く見えます。ただ、大気中に気体分子より大きな汚染物質が多くなると、散乱は波長によりません。どの光も反射するようになりますので、全体的に白っぽくなります。

 ソビエト連邦崩壊後に再構築されたロシア連邦では、平成23年(2011年)4月12日、有人飛行から50年ということで、「宇宙大国復活」のアピールし、祝賀ムードに包まれました。 

「世界宇宙飛行の日」とスペースシャトル

 ガガーリンの時代以降、ソビエト連邦とアメリカ合衆国の間で、東西冷戦を背景に宇宙開発競争をしていました。

 アメリカ合衆国は、ガガーリンの初飛行の20年後の、昭和56年(1981年)4月12日に最初のスペースシャトル・コロンビアを打ち上げています。地球と宇宙を何回も往復できるスペースシャトル(実用化されたのは5機)によって、宇宙で様々な実験が多数行われ、人類に大きな貢献を残しています。そして、そこには、西側諸国の多くの国も参加しています。

 ガガーリンの初飛行から50年後の平成23年(2011年)、国連は、二大宇宙大国であるアメリカとソビエト連邦が再編してできたロシアの両方の記念日である4月12日を「世界宇宙飛行の日」としています。ただ、スペースシャトル・コロンビアは、平成15年(2003年)2月1日の大気圏再突入時に断熱材の損傷から空中分解し、7名が死亡しています。

 現在は、国際宇宙ステーションでロシアやアメリカ、日本など多くの国が参加するなど、各国が協力して宇宙開発が進められています。

「ひまわり」から見た地球の色

 静止気象衛星「ひまわり」が最初に画像を送ってきたのは、昭和52年(1977年)9月8日のことで、本運用は翌年の4月6日のことです。

 その後、衛星の寿命が終わる直前に、機能が向上した新しい衛星が打ち上げられ、衛星による観測が継続しています(表)。

表 歴代のひまわり
表 歴代のひまわり

 平成26年(2014年)10月7日に、防災のための監視と地球環境の監視機能強化を目的に打ち上げられた「ひまわり8号」は、世界で始めてカラー撮影が可能な静止気象衛星で、約2ヶ月後の12月18日にカラーで撮影した地球の画像を送ってきています。

 可視光領域の青、緑、赤の3つの波長で観測を行い、それを合成することで、人が宇宙から地球を見た場合に似た「カラー画像」を作成しています。

 これまで、衛星画像に色がついている場合がありますが、わかりやすいようにコンピュータ処理で色を人為的にいれたもので、実際の観測ではありません。

 ただ、「ひまわり8号」から見た地球も青いものでしたが、想像していたものより青が薄いのではと感じた人が多い画像でした(タイトル画像)。人間も目には青が強調して入るので、衛星画像より実際に見た地球のほうが青くなるのではないかといわれていますが、それを加味しても、50年以上前にガガーリンが見た地球に比べ、地球が大気汚染物質で汚れてきたので青が薄くなっているという意見もありました。 

格段に能力が上がっている「ひまわり8号」

 「ひまわり8号」は、それまでの「ひまわり7号」に比べると、搭載している放射計の数が5から16に増え、解像度も高くなってより細かい観測が可能となっています。

 例えば、台風付近を2.5分毎の観測をすることで台風の周辺で積乱雲が発達している様子や、台風の目の中で雲が渦を巻いている様子まで、詳細に観測できます。

 また、カラー観測になったことにより、台風や集中豪雨の監視や予測という防災業務に貢献することに加え、細かい黄砂や火山の噴煙などの監視でも今まで以上に有用であると考えられています。

 気象衛星の重要性が増したことから、現在は、長期間の欠測を避けるための2機体勢となっています。

「ひまわり9号」が待機中

 現在、「ひまわり8号」が観測運用中ですが、平成28年11月2日に打ち上げられた、「ひまわり8号」とほぼ同程度の機能を持った「ひまわり9号」が待機運用中です。

 図2は、気象庁(気象衛星センター)ホームページにある「ひまわり9号」のトルゥーカラー再現画像です。人間の見た目に近くする作成技術及び大気分子により太陽光が散乱される影響を除去する技術(米国海洋大気庁とコロラド州立大学が開発)を用いて気象庁が作成した画像です。

 ガガーリンが感じた地球の青は図2のような青だったかもしれませんし、もっと濃い青であったかもしれません。今となっては、それを確かめる手段はありません。

図2 「ひまわり9号」の初画像(平成29年(2017年)1月24日11時40分)
図2 「ひまわり9号」の初画像(平成29年(2017年)1月24日11時40分)

 新元号2年(2020年)には「ひまわり9号」が観測運用に変わり、今度は「ひまわり8号」が待機運用になる予定です。

 東京オリンピックにおける天気予報等の気象情報は、「ひまわり9号」によって行われることになるかもしれません。

 さらに、「ひまわり8号」と「ひまわり9号」の寿命が切れる新元号10年(2028年)までに、新しい静止気象衛星(10号と11号)が打ち上げになると思われます。

タイトル画像の出典:気象庁ホームページ。

図1の出典:饒村曜(平成24年(2012年))、お天気ニュースの読み方・使い方、オーム社。

図2の出典:気象庁ホームページ。

表の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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