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再び南岸低気圧と首都圏の雪

饒村曜気象予報士
東京都心雪景色(ペイレスイメージズ/アフロ)

寒気の峠を越すと南岸低気圧

 西高東低の冬型の気圧配置が続き、寒気が南下しています(図1)。

図1 予想天気図(平成30年(2018年)1月29日9時の予想)
図1 予想天気図(平成30年(2018年)1月29日9時の予想)

 シベリアから強い寒気が南下してくると、日本海側を中心に大雪となり、太平洋側でも雪が舞います。強い寒気が南下中は、大陸に中心を持つ大きな高気圧が日本を覆いますので、本州の南岸を低気圧が通過することはありません。

 2月になると、このシベリアからの寒気の南下が峠を越しますので、本州の南岸を低気圧が通過するようになります。1月22日(月)には南岸低気圧により、東京で23センチの積雪を観測するなど、関東地方では大雪となりましたが、これと同じことが起きることがあります(図2)。

図2 地上天気図(平成30年(2018年)1月22日21時)
図2 地上天気図(平成30年(2018年)1月22日21時)

 同じ大雪と言っても、日本海側の大雪に比べれば、太平洋側の大雪と呼ばれているものは量が少ないのですが、雪に対する備えがないために大きな影響がでます。

難しい首都圏の大雪予報

 首都圏で大雪になるのは、1月22日(月)の南岸低気圧のように、その進路が八丈島の真上を通るときです。

 南岸低気圧が八丈島より北を通過するときは、南から暖気が入りやすくなるため雨の可能性が高くなります。逆に、南岸低気圧が八丈島より南を通過するときは、北から寒気が入りやすくなるため雪の可能性が高くなりますが、低気圧から離れていることから雪の量は少なく、場合によっては降りません。

 本州の南岸を低気圧が東進するときの雪は、雨になるかもしれない気温のときに降る雪です。低気圧の進路だけでなく、下層のちょっとした温度の違いによって雪になったり、雨になったりしますので、難しい予報です。

 このため、東京地方の週間予報では、2月1日(木)の「曇一時雪か雨」という予報の信頼度はB、2月2日(金)の「曇一時雪」という予報の信頼度はCです。

 その後に冬型の気圧配置となる2月3日(土)~4日(日)の予報の信頼度はAですので、南岸低気圧が通過するときの予報が難しいことを示しています(図3)。

図3 新潟県と東京都の週間天気予報
図3 新潟県と東京都の週間天気予報

 日本海側の新潟県では、連日、雪の予報ですが、信頼度をみると、南岸低気圧が通過する前後はB~Cで、その後の2月4日(日)はAです。

 難しい予報ですが、雨と雪では社会生活への影響には雲泥の差があります。東京で5センチの雪が降ると、交通機関は遅れたり運休するなどで大混乱をしますが、5センチの雪に相当する雨(約5ミリの雨)が降る場合は、社会生活にほとんど影響がありません。

 昔、気象庁の予報官をしていましたが、南岸低気圧で東京に雪を降らせる可能性があるときの予報は、「予報官泣かせの予報」と感じていました。

黒潮大蛇行が継続中

 日本近海を流れる代表的な暖流である黒潮は、日本列島の南岸に沿って流れ、房総半島沖から日本列島を離れることが多いのですが、平成29年(2017年)8月から黒潮が紀伊半島沖から大きく南下したあと、関東の南海上に北上するという黒潮大蛇行が継続中です(図4)。

図4 日本近海の海流(平成30年2月1日の予想)
図4 日本近海の海流(平成30年2月1日の予想)

 黒潮大蛇行の原因については、今でもはっきりしたことはわかっていませんが、異変というような一時的なものではありませんので、影響は長く続きます。

 黒潮の大蛇行が起き、黒潮の一部が分離して、関東から東海の沿岸を東から西へ流れ込むようになって渦をまきます。

 この渦は、低気圧が中心部で気圧が低く周囲で気圧が高くなるように、中心部で海面が低く、周辺で海面が高くなります。このため、沿岸潮位が10~20センチ上昇し、低地は浸水の可能性が高まります。また、低気圧が中心部で上昇流があるように、海の渦の中心部には下層から上層に向かって海水が動いています。海は、下層ほど温度が低いので、冷たい水があがってきて冷水塊となります。黒潮は多量の熱を運んでくれますが、この冷水魂によって気温が下がるため局地的な気候変化が考えられます。

 関東地方のまとまった雪は、本州の南岸を通る、いわゆる南岸低気圧によって降りますが、冷水塊があると南岸低気圧の進路が少し南を通るようになるという調査があります。つまり、暖気があまり北上しないことから、「大蛇行の年」は雪日数が増えるということになります。

 南岸低気圧のときの天気予報は、もともと精度が良くないことに加え、今年は黒潮大蛇行が起きていますので予報が難しくなっています。

 東日本の太平洋側では、最新の気象情報の入手に務め、雪に対して準備をする一週間になります。

図1、図2、図3、図4の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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