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「十日えびす」が行われる西宮神社と阪神・淡路大震災

饒村曜気象予報士
兵庫県 西宮神社(写真:アフロ)

 全国の「えべっさん」の総本社である兵庫県西宮市にある西宮神社の「十日えびす」は、1月10日を中心に、9日から11日までの3日間行われる、阪神間における最大の祭典で、3日間で100万人が参拝します。

 1月10日は、深夜0時にすべての神門が閉ざされ「居籠(いごも)り」に入って静寂の時を過し、4時からの「十日えびす大祭」が厳粛に行われます。そして、大祭終了後の6時を期して表大門(赤門)を開き、恒例の「開門神事福男選び」が行われます。外で待っていた参拝者は、一番福を目指して230メートル離れた本殿へ「走り参り」をし、本殿へ早く到着した順に一番から三番までがその年の「福男」として認定されます。

平成7年(1995年)の「十日えびす」

 平成7年(1995年)も盛大に「十日えびす」が行われています。

 兵庫県西宮市の西宮神社も午後十一時現在で三十一万一千人。三日間では約百十万九千

人と昨年を上回り、商店主らが拝殿に奉納された全長二・九メートル、重さ三百二十キロの大マグロに硬貨を張り付け、「景気回復の頼みの“ツナ”」とばかりに商売繁盛の願をかけていた。

出典:読売新聞(平成7年1月12日朝刊)

 その一週間後、阪神・淡路大震災が発生しています。西宮市は、神戸市から帯状に延びている震度7が西宮市内で途切れていますが、震度7の領域が点在しており、大きな被害が発生しています(図1)。

図1 阪神・淡路大震災のときの震度7の分布と余震域(大きい円ほど大きな余震を示す)
図1 阪神・淡路大震災のときの震度7の分布と余震域(大きい円ほど大きな余震を示す)

 阪神・淡路大震災の市町村別死者数は、神戸市が4600人と別格ですが、次の多いのは西宮市の1100人、3位は芦屋市で400人です。

 阪神・淡路大震災では、高速道路が支柱が倒れたり路面が崩落するなどの大きな被害が発生しました。震災直後にマスコミで流された「崩落した高速道路から前輪が乗りだて止まった」の映像の場所は、西宮神社の近くでした。

 神戸市や西宮市では、ほぼ東西に伸びる活断層がいくつもあり、ここで余震が発生しています。このため、一般的には、活断層の向きである東西方向に細長い建造物より、活断層と直角方向に細長い建造物のほうが丈夫です。

 神戸市中央区にある相楽園は、ほぼ正方形の敷地をレンガ壁で囲っていますが、北側と南側にある東西方向の壁のみが崩れ落ちています(図2)。これに対し、南北方向の壁は無傷でした。

図2 神戸市中央区の相楽園の被害(手前側が東西方向の壁)
図2 神戸市中央区の相楽園の被害(手前側が東西方向の壁)

 西宮神社付近の断層の向きは、大雑把に言えば、南西から北東です。大練壁は、敷地の東側の一部と南側にありますので、地震に弱い活断層の向きの建造物ということになります。

西宮神社の地震からの復興

 阪神・淡路大震災では、本殿や国の重要文化財「大練塀(おおねりべい)」、絵馬堂などが倒壊しています。

 本殿は1年で修復がなり、平成8年(1996年)の「十日えびす」では新たにライトアップされています。

 大練塀は、熱田神社(名古屋市)の信長塀、三十三間堂(京都市)の太閤塀と並ぶ「日本三大塀」です。室町中期の建築とされる、高さ2.5メートルの塀です。その塀の総延長247メートルのうち120メートルが倒壊しました。このため、土にニガリや石炭を混ぜて棒で突き固めるという伝統的な工法で2年をかけて修復しています。そして、地震があった平成17年(1995年)に発行された1円から500円までの硬貨などが塗り込められています。

 今年度からは、倒壊した絵馬堂に収められていた絵馬のうち、比較的損傷の少なかった絵馬の公開が始まっています(年末年始と十日えびす期間を除く)。絵馬堂にあった約50枚の絵馬は、すべて損傷を受けていましたが、阪神・淡路大震災の記憶を残すため、修復しない状態での公開です。

 阪神・淡路大震災の記憶が風化させないための努力が続いています。

図1、図2の出典:饒村曜(1996年)、防災担当者の見た阪神・淡路大震災、日本気象協会。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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