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黒潮大蛇行が継続中 南岸低気圧と東京の雪

饒村曜気象予報士
雪が降る渋谷のスクランブル交差点(ペイレスイメージズ/アフロ)

東京で130年ぶりの大晦日の初雪

 平成29年(2017年)大晦日の東京は、上空に強い寒気が流れ込んでいる影響で、平年より3日早く初雪を観測しました。明治20年(1887年)12月31日以来の大晦日の初雪ですので、130年ぶりということになります。

 ただ、平成29年(2017年)の大晦日の初雪は、雪が舞っている程度で、まとまって降ることはなく、積もりませんでした。

 関東地方で大雪になるのは、本州の南岸を低気圧が通過し、その低気圧が八丈島付近を通過するときです。

寒気の峠を越すと南岸低気圧

 シベリアから強い寒気が南下してくると、日本海側を中心に大雪となり、太平洋側でも雪が舞います。強い寒気が南下中は、大陸に中心を持つ大きは高気圧が日本を覆いますので、本州の南岸を低気圧が通過することはありません。

 シベリアからの寒気の南下が峠を越すと、本州の南岸を低気圧が通過するようになります。この「南岸低気圧」と呼ばれる低気圧の進路が、八丈島の真上を通る時には、今度は、太平洋側でも大雪の可能性がでてきます。

 同じ大雪と言っても、日本海側の大雪に比べれば、太平洋側の大雪と呼ばれているものは量が少ないのですが、雪に対する備えがないために大きな影響がでます。

 南岸低気圧が八丈島より北を通過するときは、南から暖気が入りやすくなるため雨の可能性が高くなります。

 逆に、南岸低気圧が八丈島より南を通過するときは、北から寒気が入りやすくなるため雪の可能性が高くなりますが、低気圧から離れていることから雪の量は少なく、場合によっては降りません。

正月明けの南岸低気圧

 平成30年(2018年)の正月は、強い寒気を伴った低気圧が北日本を通過し、日本付近は西高東低の冬型の気圧配置の正月となりました。

 北日本上空の約5000メートルには、氷点下36度以下の非常に冷たい寒気が入ってきましたが、この氷点下36度は、大雪となる目安の温度です。このため、北日本や関東北部の山沿いなどで大雪警報が発表となりました。

 正月明けは、日本海側の豪雪をもたらした寒気南下が峠をこし、本州の南岸を低気圧が東進する見込みです(図1)。

図1 南岸低気圧の通過(平成30年1月5日から6日の予想天気図)
図1 南岸低気圧の通過(平成30年1月5日から6日の予想天気図)

 南岸低気圧は、当初、八丈島付近を通過するという予報で、関東地方は大雪が懸念されましたが、八丈島の南を通過する予報に変わり、関東地方の大雪の懸念は少なくなりました(東京の1月5日の天気予報はくもり)。

 ただ、南下する寒気が強いために、南岸低気圧の北に、上空の寒気に対応する低気圧が発生する見込みで、大気不安定から雪が降る可能性が残っています。

黒潮大蛇行が継続中

 日本近海を流れる代表的な暖流である黒潮は、日本列島の南岸に沿って流れ、房総半島沖から日本列島を離れることが多いのですが、平成29年(2017年)8月から黒潮が紀伊半島沖から大きく南下したあと、関東の南海上に北上するという黒潮大蛇行が継続中です(図2)。

図2 日本近海の海流(平成30年1月6日の予想)
図2 日本近海の海流(平成30年1月6日の予想)

 黒潮は、気象庁の分類では、非蛇行流路(接岸)、非蛇行流路(離岸)、大蛇行流路という3つの流れ方があります(図3)。そして、非蛇行期間(接岸・離岸)と大蛇行期間を定期的に繰り返しています。

図3 黒潮の典型的流路(1:非大蛇行接岸流路、2:非大蛇行離岸流路、3:大蛇行流路)
図3 黒潮の典型的流路(1:非大蛇行接岸流路、2:非大蛇行離岸流路、3:大蛇行流路)

 海と大気は相互作用をしており、その関係は解明されたわけではありませんが、黒潮大蛇行がおきているとき、黒潮だけでなく、地球の海洋全体、地球の大気全体も通常とは違っていると考えられます。黒潮大蛇行がいつまで続くかはわかりませんが、過去の記録的な「豪雪」は、ほとんどが黒潮大蛇行の期間と重なるか、その直前か直後です。

 「平成18号豪雪」は黒潮大蛇行が終わった4ヶ月後です。

 図4は、東海沖における黒潮流路の最南下緯度の経年変動を示したものですが、東海沖における黒潮流路が大きく南下している期間が黒潮大蛇行の期間です。

図4 東海沖における黒潮流路の最南下緯度の経年変動(平成36年(1961年)1月~平成28年(2016年)12月)
図4 東海沖における黒潮流路の最南下緯度の経年変動(平成36年(1961年)1月~平成28年(2016年)12月)

黒潮大蛇行での冷水塊と雪日数の増加

 黒潮大蛇行の原因については、今でもはっきりしたことはわかっていませんが、異変というような一時的なものではありませんので、影響は長く続きます。

 黒潮の大蛇行が起き、黒潮の一部が分離して、関東から東海の沿岸を東から西へ流れ込むようになって渦をまきます。

 この渦は、低気圧が中心部で気圧が低く周囲で気圧が高くなるように、中心部で海面が低く、周辺で海面が高くなります。このため、沿岸潮位が10~20センチ上昇し、低地は浸水の可能性が高まります。また、低気圧が中心部で上昇流があるように、海の渦の中心部には下層から上層に向かって海水が動いています。海は、下層ほど温度が低いので、冷たい水があがってきて冷水塊となります。黒潮は多量の熱を運んでくれますが、この冷水魂によって気温が下がるため局地的な気候変化が考えられます。

 関東地方のまとまった雪は、本州の南岸を通る、いわゆる南岸低気圧によって降りますが、冷水塊があると南岸低気圧の進路が少し南を通るようになるという調査があります。つまり、暖気があまり北上しないことから、「大蛇行の年」は雪日数が増えるということになります。

雨か雪かで大違い

 本州の南岸を低気圧が東進するときの雪は、雨になるかもしれない気温の時に降る雪です。下層のちょっとした温度の違いによって雪になったり、雨になったりする難しい予報です。

 難しい予報ですが、雨と雪では社会生活への影響には雲泥の差があります。東京で5センチの雪が降ると、交通機関は遅れたり運休するなどで大混乱をしますが、5センチの雪に相当する雨(約5ミリの雨)が降る場合は、社会生活にほとんど影響がありません。

 昔、気象庁の予報官をしていましたが、南岸低気圧で東京に雪を降らせる可能性があるときの予報は、「予報官泣かせの予報」と感じていました。

 

 週間天気予報によれば、平成30年1月5日(金)から6日(土)の南岸低気圧のあとも、成人の日の1月8日(月)に南岸低気圧が通過する見込みです。

 ちなみに、1月8日(月)の東京の天気予報は雨となっていますが、最低気温の予報は3度(誤差幅を考えた予報は1度から5度)、信頼度は3段階で一番下のCですので、雪の可能性もあります。

 南岸低気圧のときの天気予報は、精度が良くないので、常に最新の気象情報の入手に努める必要があります。

図1の出典:気象庁ホームページの図に説明用の矢印を加筆。

図2、図3の出典:気象庁ホームページ。

図4の出典:気象庁ホームページの図に代表的な豪雪期間を加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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