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昔は「黒潮異変」と呼ばれていた「黒潮大蛇行」が始まって3ヶ月、今冬は雪に警戒

饒村曜気象予報士
海流予想図(12月31日の予想、気象庁ホームページより)

 気象庁と海上保安庁は9月29日に、暮らしを直撃する黒潮大蛇行が12年ぶりに発生したと発表しました。8月下旬から黒潮が紀伊半島から東海沖で大きく離岸し、東海沖で北緯32 度より南まで大きく離岸して流れる状態が続いているので、平成17 年(2005 年)8 月以来12 年ぶりに大蛇行になったという内容です。

 それから3ヶ月、黒潮大蛇行は今も続いていますし、少なくとも、今年の大晦日は黒潮大蛇行という予測がでています(タイトル画像)。

黒潮の「異変」

 黒潮は、気象庁の分類では、非蛇行期間(接岸、図の1)、非蛇行期間(離岸、図の2)、大蛇行期間(図の3)という3つの流れ方があります。

図 黒潮の代表的な流路
図 黒潮の代表的な流路

 そして、非蛇行期間(接岸・離岸)と大蛇行期間を定期的に繰り返しています。

 黒潮の大蛇行が最初に発見されたのは昭和8年(1933年)ですが、当時は「黒潮異変」と呼ばれていました。何か特別なことが一時的に起きているという発想からの呼び名と思います。

 その後、昭和28年(1953年)、昭和34年(1959年)にも黒潮大蛇行が発生していますが、呼び名は「黒潮異変」でした(表)。

”黒潮異変”なお続く

再び南下、冷水域広がる

海上保安庁は十五日、九月の黒潮(暖流)観測結果について「八月にくらべて冷水域がふたたびひろがり、黒潮は海岸から遠ざかった」と発表した。これは、測量船「明洋」が九月十日から三十日まで東京ー鹿児島間の太平洋を一往復してまとめたもので、潮岬から西の海域は七か月ぶりの観測。

出典:読売新聞(昭和38年(1963年)10月16日朝刊)

表 黒潮の大蛇行期間
表 黒潮の大蛇行期間

==黒潮の大蛇行== 

 黒潮の蛇行の詳細にわかるようになったのは、昭和50年(1975年)8月の大蛇行からです。蛇行は、一時的な異常ではなく、蛇行するという安定した流れであることが分かったことから、以後は「黒潮大蛇行」と呼ばれています。

 つまり、黒潮の大きな蛇行は、一時的な現象ではなく、しばらく続く安定した流れということが分かったのです。そして、この時から月単位で黒潮大蛇行を把握しています。

 大蛇行の原因については、今でもはっきりしたことはわかっていませんが、大蛇行が頻繁に発生する年代と、あまり発生しない年代があります。そして、はっきりとした周期ではありませんが、ほぼ10年に一度くらい発生し、一年以上続いています。

 ちなみに、読売新聞のデータベースで「黒潮異変」を入力すると、最後の記事は昭和51年(1976年)8月19日の「やや、海底が見える 東京湾が澄んできた 黒潮異変のプレゼント」です。また、「黒潮大蛇行」を入力すると、最初の記事は昭和50年(1975年)6月4日の「太平洋の海洋調査 日本も来年から参加へ 黒潮の大蛇行を重点観測」です。

 つまり、これは約1年のダブっている期間を経て「黒潮大蛇行」という言葉が定着したことを示しています。

長く続く影響

 黒潮大蛇行が起きると、黒潮に乗って日本近海にやってくるイワシやカツオなどの回遊魚が沿岸から遠く離れてしまうため、例年の漁場ではとれなくなりますし、遠くなった漁場に向かうには時間と漁船の燃料がかかります。 

 このため、黒潮大蛇行になると漁獲量が減り、価格が高騰して家計を直撃します。

 異変という一時的なものではありませんので、家計直撃という影響は長く続きます。

 また、当面心配なのは、これからの雪です。

雪の降る回数が増加

 黒潮の大蛇行が起きると、黒潮の一部が分離して、関東から東海の沿岸を東から西へ流れ込むようになって渦をまきます。

 この渦は、低気圧が中心部で気圧が低く周囲で気圧が高くなるように、中心部で海面が低く、周辺で海面が高くなります。このため、沿岸潮位が10~20センチ上昇し、低地は浸水の可能性が高まります。また、低気圧が中心部で上昇量があるように、海の渦の中心部には下層から上層に向かって海水が動いています。海は、下層ほど温度が低いので、冷たい水があがってきて冷水塊となります。

 黒潮は多量の熱を運んでくれますが、この冷水魂によって気温が下がるため局地的な気候変化が考えられます。

 関東地方のまとまった雪は、本州の南岸を通る、いわゆる南岸低気圧によって降りますが、冷水塊があると南岸低気圧の進路が少し南を通るようになるという調査があります。つまり、南岸低気圧が通過するとき、暖気があまり北上しないことから、「大蛇行の年は雪の降る回数が増える」ということになります。

 

黒潮大蛇行と豪雪

 海と大気は相互作用をしており、その関係は解明されたわけではありませんが、黒潮大蛇行がおきているとき、黒潮だけでなく、地球の海洋全体、地球の大気全体も通常とは違っていると考えられます。

 過去の記録的な「豪雪」は、ほとんどが黒潮大蛇行の期間と重なるか、その前後です。

 つまり、直近の大蛇行 5回のうち4回は、黒潮本流とは関係がない日本海側で豪雪が発生しています。

昭和38年豪雪  通称「三八豪雪」(気象庁命名) 大蛇行の最中(大蛇行期間1959~1963)

昭和52年豪雪  大蛇行の最中(大蛇行期間1975.8~1980.3)

昭和56年豪雪  大蛇行が始まる(1981年11月)8ヶ月前

昭和59年豪雪  大蛇行の最中(大蛇行期間1981.11~1984.5)

豪雪なし      (大蛇行期間1986.12~1988.7)

平成18年豪雪(気象庁命名) 大蛇行が終わった(2005年8月)4ヶ月後(大蛇行期間2004.7~2005.8)

 黒潮大蛇行が発生している今冬は、太平洋側も日本海側も大雪に警戒が必要です。

図の出典:饒村曜(2010)、海洋気象台と神戸コレクション、成山堂書店。

表の出典:饒村曜(2010)、海洋気象台と神戸コレクション、成山堂書店に加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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